プロローグ
たまに、ふと夢をみる。それは、柊木 心という人間が、淡々とした表情のまま、手にはナイフを握って、死んでいくという、そんな夢をみる。
友達はよく心に向かって、ふふっという微笑みを浮かべてくる。けれど、少しだけ首を縦に振ると、そのままどこかへ立ち去ってしまう。あまり、人間関係という付き合いが、苦手な子――。
小学校には通っていても、中学生になると突然、不登校となる。イジメではないらしい。心は、インターネットにこっそり、潜んで境遇の似た子を集めようと、何となくでグループを作成、けれど一週間が過ぎようとしていても、人数は一人のまま、変わりがなかった。それは、ある日を気に一転する。
「こんばんはー」漸くして、人数は一人、加わった。安西 三夏という中学生は、きらびやかとしている太陽だった。明るくて、よく話しかけてもくれる。それは、死にたい。という、サークル名には酷く、馴染んではいなかった。
心と同じで、闇を抱いているのだろうか? 直接的には、聞けずにいた――。安西さんのきらびやかに、心は呑まれた。すると、三日後。
「人数少ないけど、動いてる?」ある一人の男の子、一ノ瀬 渉が加入した。なにかの運命が働いたのか、中学生の様だった。といっても、どこの中学校か、どこの県か、何も知らない同士の集まりでしかなかった。
更に二日後。「こんばんは!」またしても、男の子がサークル内で、挨拶をする。加入したら挨拶をしなくてはならない。なんて、取り決めはそもそも、存在しない。それでも挨拶をするということは、心とは違った世界を生きているからだ。
明るくて、クラスメイトに挨拶をされたら、軽く会釈をする。そして、学校では常に周りを囲う友達が沢山。先生からも気に入られ、班を作る行事でも、余ることがない人間たちだ。心とは正反対を生きている。
「名前、なんていうの?」安西さんが発言をする。名前は、小泉 りょうた らしい。
誰かがハッと「みんなで会いたいね」の様な発言をすると、それにみんなも便乗する。それは、四月の中旬ごろのお話だ。
心は、会いたいなんて思ってもいなかった――けれど、みんなは集まりたいと思っていた。だから、空気を読んで、心も会いたい。と、送る。
会いたいと言えば、嘘だった。
だけれど、会いたくないと言うにも違う。
それは、不思議な気持ちとなって、初めての感覚だった。会いたいわけでも、会いたくないわけでもない。それには、正解がなかった様に思う。
ふと気がつけば、心は眠っていた。ふと目を覚ますと、通知が届いていた。一件とかではなく、数十件。
心の作り上げたサークル内では、会話は盛り上がっていたらしく、心の目には、沢山のやり取りが映り込む。
「心、寝た?」という、安西さんの言葉もあった。起きたところで、「寝てた」 たったの三文字で返信をした。進んでいた会話をスクロールしてみて、過去のやり取りを覗いてみると、待ち合わせ場所、集合、などの会話があり、みんなで会うんだと理解する。
集合に指定された場所も知ってはいるし、遠い距離でもない。しばらくして、安西さんは心に、個人チャットの方で、メッセージを送る。
「心、大丈夫?」
「何が、 ですか?」
「もしかして、みんなで会うの、乗り気じゃない?」
見透かされていた。安西さんは、いつも明るく、心にも優しくするし、気を遣う。だから、心は距離感を少しだけ、遠ざけた。違いすぎるが故、どの距離が普通か、分からなくなった。
「大丈夫 みんなと会う」
心はスマホの電源を落として、そのまま目を瞑る。