アケコ
裏手に回るとアケコがまだ悲しんでいるようだった。
「アケコ、ダンだけどいいかい。入るよ」
「ダンちゃん?うん」
暗いんだか明るいんだかわからない空間は何かと化粧品やらドレスやらでゴミゴミしていた。
「なぁ。はっきり聞くけど、何か知ってるよな?」
アケコはしばらく黙ったままだった。
ダンはそのままそばにいた。
何かとても考えているようだった。
アケコが珍しくこんなにも思い詰めていることが不思議だったが、何かがわかるかもしれないと思うとそこから離れることができなかった。
だがしばらく進展なくそのままだったので、流石に気の毒になったダンは、その場をそっと去ることにした。
「ダンちゃん。」
ダンはそう呼んだママの方を見ると首を振った。
「そう。あの子がそんなにもってことは、何かとても大切なことなのね」
ダンはさっきまで対応してくれた子達に挨拶して、その店を出た。
「あー。なんか掴めそうだったのになぁ。仕方ないけど、もしかしたら意外と身近だぁ。今回は俺の交友関係が鍵になるかも」
ダンは長い足を大股に、夜の街を抜けて行った。
今日の宿となるビジネスホテルに入ろうとした時、ブンタがそこで声をかけた。
「よぉ!」
「あぁ。」ダンは右手をあげた。
「何か掴めたことあるか?」そうブンタが言うと、ダンは首を横に振った。
「そっか。まっ俺はそこそこあったぞ。中入ろうぜ。話すのは一息ついてそれからだ」
ホテルの突き当たりに2人入ると、そこそこ圧迫感のあるエレベーターがあり、それで上がった。止まったそこは5階で、エレベーターを降りると右には廊下。シーンとしている。その廊下を左に曲がって3部屋目が2人の部屋。
先に文太が入る。部屋は割と広くて、2人で泊まるには十分な広さだった。
「よぉ。先に風呂入ってこいよ。俺次でいいから」ブンタはニコッと笑っていった。
ダンは1日歩いてギトギトしていたので、1番を譲ってくれたことに感謝して、
「じゃ入ってくるわ」とさっと浴室に行った。
ダンが風呂に入っている間、ブンタはパソコンを取り出し、調べた内容を整理していた。
ブンタはダンのように歩き回る事は好きではない。最小限の行動で何とかしたいタイプで、ありとあらゆるところから、データをとりまくる。そんな調べたものを今また、じっくりと再確認している。ヘッドフォンをつけ音声を確認している。集中して耳を澄ます。
すると音高らかにダンのケータイが鳴った。
「あーもぅ。うるっさいなぁ」
ヘッドフォンを外し、なり続けるケータイを取り、ダンのいる浴室まで持って行った。
「鳴ってるぞ」
「ちょっ、そこのタオルも取ってくれ!」
積み上げられている1番上のタオルを取り、ダンに渡した。
ダンは渡されたタオルを顔から頭の方に上に向かって、そのまま肩に下げるとケータイをとった。
「はい、お待たせしました。」
ダンはケータイの画面を確認しないまま取ったので、相手がわからず電話に出た。
「ダンちゃん?あたし。あたしです」
ダンはすぐにそのわかった。
「アケコ!どうした?!」
小さく元気のない声が耳元に小さく響く。
「さっきはごめんなさい。ちょっと、あまりに懐かしくて色々あったもんだから、心の整理がつかなくて、、、」
ダンは腰にタオルを巻いて浴室を出た。
「いいんだ、俺のことは気にするな。それより電話くれて嬉しいよ。大丈夫か?」
「うん、大丈夫。あたし、ダンちゃんに話そうと思って。それで電話したの。明日お休みなんだけどお昼くらいに会えないかしら?」
「あー、もちろん大丈夫だ。」
「じゃ、明日12時に明治神宮前のカフェで待ち合わせしましょう」
「わかった。アケコ、ありがとう。」
「ううん。その子のためよ。じゃ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
ダンは通話を切ると、ケータイをその場の棚に置き、再度風呂に入って体を流した。
ブンタは一旦パソコンをたたむと、外の景色に目をやった。
夜でも明るく輝く街。昼間とは違う、静かな美しさが、今はとても寂しく感じる。
窓の外を眺めながら
ブンタは心の中で思っていた。
(あの子のような子が、この都市だけでもいったいどれほどいるのだろうか。大人になると、いろんな欲望を現実にすることが出来てしまう。いいことも、そして悪いことも。でも、それを正しく導くのもまた大人。)
「ブーン、風呂さんきゅ。」
ダンが風呂からでてきた。
そのまま振り返ってブンタは風呂に向かった。