半分の心
街中を流れる川の周りには柵があり、川の道筋を表すかのように柳の木が立ち並んでいる。
そこは遊歩道になっていているが、頻繁に誰かが歩っているというところでもない。
少し先には、川を交差するように大きな道路もあるが、基本この場所は静寂な川の流れを感じることができる。
胸元を押し当て背伸びをするように柵に身を委ねてじっと川を見ている者がいる。
寂しそうな表情を浮かべ、何するわけもなくただ、見ている。
川の流れは決して弱いものではなく、軽快に流れていく力強さがある。それがうねりを出してどんどんと、どこに流れは向かうのか流れていく。
体を流れるなんとも言えない痺れのようなものが、家に向かうのを常に拒んでいる。
体が重い。心に靄がかかる。
昨夜引っ叩かれた左頬と髪を握りしめられた頭皮に残痛を感じて胸が張り裂けんばかりになっている。
「巴〜。」
ロングヘアのサラサラした髪を靡かせながら大きく手を左右に振り、走ってくる。
「梢。。。」
少し右に顔を向けると巴は息を吐くように言った。
「はぁーっはっ。とうちゃ〜くぅ。どした!またしんみりした感じですなぁ。やられたの?」
巴は、上目で右側にいる梢の顔を見ると顔を戻しながら
「まぁね。。いつもなことだけど、やられた」とため息をつくように川の柵を抱き抱え言った。
「あんたの母親いい加減狂ってるわ。相談所電話しよっか?」
梢も、いい加減巴の母親には怒りを通り越して呆れている。梢は小学校が一緒の幼馴染。中高は別で進学校で過ごしているが、巴との縁は切れることはなく続いている。と、いうか続けている。梢は巴の境遇をずっと気にしている。何かの時は必ず助けようと心に思っているからである。巴の酷い生活は昔からで、いつもそばで梢は見てきていた。初めて知ったのは小学生の時。小学生の子供にはとてつもない衝撃で、親に戒められている姿は、見るに耐えない。最初はどうしていいか分からず、距離を置いた時もあった。でも1人で佇む巴を見るたびに、なんとも言えない思いが溢れてきて、再び声をかけた。それからは少しでも支えになれたらと心に秘めてそばにいる。
「もう、私がいる限りはずっとこうだよ。なんか体力衰えないし。たまに殺したくなる。そんな勇気ないけど」
巴は梢が来たことにホッとしたのか、少し涙ぐんでいた。
「あの人が刑務所に入るならわかるけど、あんたがあの人の為に刑務所入ることないでしょ。あんたそこまでバカじゃないくせに。バカね」
梢は巴の背中に自分の背中をつけて言った。
「ん」
背中の温度と少しの重さがとても心地よくて涙が落ちた。
「そういえば、あの件どうなったの?」
背を向けたままの梢は空を見ながら言った。
「うん。今探してもらってる。」
「そっか。」
「でも、今日もう少ししたら、またそこに話をしに行く約束してる。それまでに気持ち落ち着かせたくて」
話を聞いた梢は目が見開いた。
「ねぇそれ、あたしも一緒にいっていい?」
巴は川の方を見ながらすこし考えるようにこたえた。
「うーーん。でも梢は進学校でしょ。一度でも来たらその後が気になるからやめときなよ」
「がーん。友達の人生支える時間の方が大切だもん。一緒に行く。」
巴は小さく俯いて、右の手のヒラで目元を2回ほど拭った。
梢は巴の肩に手を回すと顔を覗き込みながらニコッと笑った。