古びた商店街
「はい相談料は無料です。はい、相談は無料です」
古びた通りは人通りが少なく、天日の明かりさへもあまり通らない旧式の商店街。青空商店街という以前は明るくて賑やかであったろうその名前の記された看板も、錆びて文字が削れてしまっている。入り口から16歩あるった右側。サンダル屋と古本屋の間に挟まれた狭い店が今回のお話の場所。
その狭いお店の上にはあんこ屋の看板があって、これももう埃を被ったかのような看板になっている。
だがこの店先に、今では懐かしいカセットテープのラジカセが置いてあり、そこからしきりにある宣伝の声が流れている。
冒頭のセリフがそれだ。
「相談料は無料です。はい、相談は無料です。あっ 相談無料」と、まとまりのないセリフがカセットからながれている。カセットの巻きが切れるまで、ずっとその商店街の一部で流れている。
サンダル店の店主は60半ばの男性で、実はこれがなかなかのイケメン。
「毎日毎日よく流して飽きないよなあ」
古本屋の店主に話しかけた。
古本屋の店主は店先を掃こうとしていたのかホウキを手にしている。
「こんな録音に信用してだれか来るんだろうか。あんこ屋に」
不思議そうな顔をして2人はまた店に戻る。
ずっとカセットから流れる声。開店から流れ始めて10時半。
カセットが止まった。カセットが止まると、それを知らせる最新機器が、この店の店主の元で騒ぎ始めた。
「あーはいはい止まったのね。教えてくれてありがとう。」
机に手をつき立ち上がるのに、その手をつくテーブルには、スクラップを作る途中の切り抜きが散らばっている。
今人気のアイドルや俳優の写真がたくさんそこにはあった。
店に通じる廊下を4、5歩進むと店にでる。置いてあるサンダルを履くとラジカセまで歩く。最新機器のワンフーが後からついて来る。普通の芝犬だかAIより賢いと思われている。
ラジカセのところまで来ると、その場でしゃがんでカセットを最初まで巻き戻し始めた。
ウイーンという音が速戻しを表し、その場にはしばらく声のない時間が続いた。
「ちはるさん。茅野ちはるさんですか?」
あんこ屋の前でひたすらカセットを巻き戻している熟年の女性。そう、彼女こそ茅野ちはるその人である。
「はい。私が茅野ですが。」
14か15歳くらいの女の子が茅野をみてたっている。
体の線は細く、そして表情はどこか寂しげで、そのすらっとした容姿とは裏腹にか細いながらもしっかりと声を上げていた。
「あの、あたし人を探しているんです。一緒に探してくれますか?」
いきなりの発言に、ちはるは息を呑んだ。
それもそのはず、久しぶりの相談だ。
が、、とそこでまた一つ息を呑んで、彼女を奥にと誘った。
「相談は奥で聞きましょ。いらっしゃい」
「はい」
俯いて、両手を下腹部あたりでもじもじさせながら、ちはるの後ろを歩き彼女は店の奥へとついていった。
ちはるはサンダルを脱ごうとした時、はっとスクラップブック制作途中のチラシが散らかっているのを思い出した。
そーね。ここのカウンターで話しましょ。
あんこ屋のカウンター手前に持ってきた椅子を2脚置き、2人はそこに座った。
「で、あなたお名前は?そしてご相談とは人探し?」
向かい合った彼女に、ちはるは話しかけた。
「はい、人を探して欲しいんです。あっ私、綿野 巴と言います。16歳高校1年です。お金も少しですがあります。足らなければバイトしてお返しします。ですのでお願いします」
両手を膝の上に力強く置きながら前のめりにしっかりと話してきた彼女は、少し緊張からのいきおいか興奮したようだった。
「そうね。でもなぜこんな寂しいところで営業してる私のところに来たの?お金出せるならもっといいところもあったんじゃないの?」「いえ。実は私この商店街がなんとなく好きでよく通るんです。その度にこのお店から流れる声を聞いていたら、相談してみたくなって、ごめんなさい、少し不安もあったけど、いってみようって。だから相談に来ました」
彼女の表情は柔らかくなっていた。
「うーん」ちはるは腕を組んで、後ろのめりな姿で何か考えている。
「そうね。何か事情がおありのようね。みてくれはひどいけど私の腕は確かよ。そういうところで判断しないでくれてありがとう。報酬を頂くかわりに必ずご依頼者の願いは叶えます。」
ちはるは今日1番の元気にみなぎっていた。
早速相談内容を聞くために、奥の部屋の片付けに入った。
居間には似つかわしくない大きな机と立派な椅子が置いてある。机の置いてある場所だけがフローリングになっていて、あとは畳になっているから、なんも似つかわしく変な感じだ。
机の上をきれいにすると、その前に椅子を置き、彼女を座らせた。
立派な椅子の方に、ちはるは座ると本題に入り始めた。
「じゃ本題ね。誰をさがすの?」
ちはるは彼女に聞き始めるとペンをとり書き留め始めた。
「私を育ててくれた父と母を探して欲しいんです。」
「育ててくれたとは?」
「私は今は産んでくれた実の母と暮らしています。父や兄妹はいません。今の母とは、小学校上がる時から一緒に暮らし始めました。年も若く、家計のこともあることから母はあまり家にいません。ですので家ではいつも1人でいることの方が多いです。」彼女は淡々と話し始めた。
ちはるはそれをしっかり書き取りながら彼女をしっかり見ていた。
「それで、育てのお父さんとお母さんとは?」
ちはるは優しく聞いた。
「はい。たまに3人でいる楽しい感じを思い出すことがあって、でも、それが夢なのかなんなのかわからない感じでいました。ですがある時、自分のアルバムを見ていた時一箇所だけ微かに厚さを感じるところがありました。アルバムののりが割と強力で大変でしたが、剥がすと一枚の写真が出てきました。それがこれです」
彼女はスカートのポケットから1枚の写真を取り出した。
丁寧にハンカチに包まれたその写真は、とても笑顔の素敵な写真でした。が、ちはるには少し驚きのある写真だった。
写真の裏側には写真の年月日と言葉が書かれていた。
「○何○月○日晴れ パパとママと可愛いともえ 大好きだよ」
と書かれていた。巴ちゃんを両親が挟む形で幸せそうに撮られていた。
ちはるは彼女に聞いた
「パパとママって書いてあるけど、、。写真の方達はパパとママなのかしら」
彼女もどうしたらいいのかわからないような感じで
「はい、おそらくはそうだと思います。信じられないかもしれないけど、私の中にも、うっすらとですが記憶があります。」
ちはるは写真をみながら
「そう、なのね」
といった。彼女は身を乗り出しちはるに訴えるように話し始めた。「うっすらとですが、とても幸せでした。とても楽しかったという思いはのこっています。だからお願いです。この人たちに会いたいんです。お願いします」
ちはるは右方向に写真日を遠ざけながら、彼女の勢いある言葉を感じていた。
しばらく写真を眺めると
「よし!探そう!めちゃくちゃ探して会わせてあげたくなったぞ!」
彼女はその一言を聞くととても喜んだ。
「何か他に手掛かりになるようなものはあるの?」
「いえ、何も。今いる母に聞けないので。すみま、あっでも、私、今はこの埼玉県在住ですが、生まれた病院は東京なんです。だから、今度病院の名前調べて、またここにきます」
「そうね。ありがとう、そうしてくれると助かるわ。じゃあ、今日はこんなところで、またいらっしゃい。仕事進めながら待ってるから」
ちはるはそう言うと、机から立ち上がり、彼女そばに行って肩にそっと手を添えた。
「見つけましょうね」
「はい」
彼女は少し涙ぐみ、店を出ると何度も振り返り頭を下げていった。