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第6話 賢者、外へ出る

「あうー! あー!」

「ふふ、本当に外に出たかったのね」

「アルフ様……可愛らしいです」


 ただ外へ出られて喜んだだけなのにイリーナが目頭を押さえ始めた。そんなに泣きそうになる事なのか。……本当にこの世界の人というのはよく分からないな。


 でも、別に悪い気は少しもしない。

 雲一つない晴天の中、心地良い風が軽く吹き、そして僕の上には美しい母親の顔がある。それだけだったら喜びも薄かっただろう。だが、今回の場合は黒地の日傘があるせいで美しさの中に翳りが見えてより……。


 と、変態みたいな考えが出てしまったな。

 幾ら精神が老人だとはいえ……いや、老人だからこそ、もう少しだけ大人のような対応を……それは無理だね。だって、王国を追い出されてからは女の子と話す機会すら無かったんだから!


 変態? 大いに結構!

 僕はね、あの時に捨てた……いや、捨てさせられた幸せを掴み直したいだけだ。あのクラスメイトみたいな最悪な女性ではなく、普通の美少女と幸せな生活を送りたい。……それは果たして高望みなのだろうか。あ、美少女っていう部分は別としてね。


「あーいー!」

「うーん、あっちに行きたいの?」


 ここで首を縦に……は、駄目だ。

 素直に分からなさそうな顔をしながら右手親指の先を舐めて……そしてジーッと見つめる。その間にもチラチラと行きたい方向に視線を向けて……これで多少は伝わってくれるはずだ。


 って……あれ……?


「あうー?」

「ご、ごめんなさい……アルフが可愛過ぎてつい……」

「奥様、しっかりと記録に残しましたわ」

「でかしたわ、さすがはイリーナ」


 おい……そのカメラどこから出した……?

 空間魔法……いや、その魔法は使える人が限りなく少ないはず……鑑定眼があれば分かるかもしれないけど今は無いしなぁ……。でも、カメラをしまうような物だって今のイリーナには無いはずだ。


 ま、まぁ、身内にそういう人がいて問題は何も無いか。少しだけ厄介事に巻き込まれそうな気がしないでもないけど……便利な事には変わりないだろうし気にはしない。ただ見間違いでなければ確かに空間魔法のはずだ。


 これは……もしかして僕が転生した場所って訳アリな空間な可能性もあるのかな。よくよく考えてみれば父親と執事が明らか強いのも普通では無いだろうし……えっと、そんな場所で幸せがどうとか言っていられるのか?


「うー、うー」

「あ、そうね! あっちに行きましょうか!」


 嫌な予感はしたけど……その気持ちを無視するためにフィアナに催促した。面倒事が起こったらその時に何とかすればいい。それに今の世界において圧倒的な強さを持つ勇者だっていないはず。勇者がいないのなら幾らでも抗う手段はある。


 別に強くなる方法は幾らでもあるんだ。

 むしろ、強くなって知らない世界を理解できるようになりたいから転生だって行った。勇者如きに怯えていてどうするんだ。相手が国であろうと戦う必要があるのなら僕は何だってする。


「……難しい顔になったわね」

「奥様が惚けていたせいで不機嫌になってしまったのではありませんか」

「そ、そんな……ごめんね、アルフ」


 おっと……顔に出ていたか……。

 まぁ、過去の僕でもできなかった未来予知なんてアテにする方がおかしいよね。最悪な状況だけ考えておいて対策は暇な時にでも探ろう。良くも悪くも今の僕には時間が十分にあるからな。それに周囲の環境だって詳しく分かっていないのに悪い考えだけをするのもよろしくない。


 つまり、今は二人の美女の笑顔を眺めよう。


「あうあー!」

「あぁ……!」

「……やはり、この魔道具ではアルフ様の可愛らしさを残すには不十分か。もっと高い物にすればもしかすれば……」


 うん、フィアナは兎も角、イリーナは怖いよ。

 なんかブツブツと僕の良さを語るだけの存在になってしまったし。それにフィアナよ、今のイリーナに「分かる」とか言っても伝わっていないぞ。あの目は宗教にドップリと浸かり込んだ宗教国家の市民と同じだ。


「今度、アルフの生後半年記念に王都へ行く予定だから、その時に買いましょうか」

「いえ、その程度であれば私が個人的に」

「いいのよ、私もアルフの写真を撮りたいし。それにアルフだけじゃなくてさ」


 フィアナがイリーナのお腹を軽く触った。

 そのせいで俯いちゃったけど……なるほど、二人は二人で良い感じに事が進んでいると。いやー、おアツいですねぇ。半世紀ほど女の子と触れ合う機会すら無かった身からすれば血涙が流れてしまいそうですよ。


「その時はアルフもお兄ちゃんになるのね」

「そ、そんな……その時は私一人で育てますよ。アル様やフィアナ様にご迷惑をかけるわけにはいきませんから」

「いいあー!」


 それは違うと反対しておこう。

 一人で育てるだと……そんな判断を許したのなら間違いなく僕は父親と執事を殴るぞ。というか、視線すら合わせてやらない。それくらいイリーナがどれだけ仕事熱心かよく分かっているつもりだ。もっと言えば美女の人口が減るのは目の保養としても……。


「これは……」

「アルフも一緒の方がいいって」

「あうー!」

「そ、そうですか……そうであればヴァンも喜んでくれますね」


 くっ、好きな子に惚気られている気分だ。

 端的に言って苦い顔をしてしまいそうだが……まぁ、それでイリーナの幸せを壊していいかと聞かれれば話は別。執事、ヴァンと幸せに生きられるのであれば最大限の手助けをするだけだ。面倒事は僕の父親が全て何とかしてくれる。いや、何とかさせるから気にしなくていい。


 その後は二人の惚気話を永遠と聞かされた。

 もう何か……全てが嫌になったから途中で不貞寝してしまったよ。何度か二人に同意を求められる時があったが全部無視だ無視無視。いいもん、僕は僕で二人に負けないようなとびっきりな美少女と仲良くなってみせるし!

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