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第35話 賢者、配下を弄ぶ

「うん? やけに嬉しそうだな」

「否定されませんでしたので。つまり、私もネームレス様の奥方となれる可能性もあるという事でしょう」

「あ、ああ……レミィは綺麗だからな。いつかは辛抱できなくなる可能性だってある。今は理性が働いているだけだ」


 軽く腕を取って顔を近付けさせる。

 ぶっちゃけた話、アルフという本来の僕の顔を見てレミィが好きでいてくれるかは分からない。だけど、レミィの中での僕の存在が大きければ大きい程に利用できるようになるからな。利用できる要素は多ければ多いほど良い。それは良い意味でも悪い意味でも、だ。


 それにレミィに関しては本気で幸せにしてやりたいって思いはあるからな。もしかしたら一番に技術を教え込んだ師匠としての気持ちが強いのかもしれないけどさ。それでも……やっぱり、独りの苦しみが分かる分だけ同じ思いはしたくないし、させたくは無いよ。


 どこまで行っても独りは苦しいし、後々でその痛みが襲ってくるんだ。忘れたと思っても夢で出てくる時だってある。酷い時には頭痛が襲ってくるように突然、感じてしまう時だってあるからさ。分かっているからこそ、少しでも感じられないような生活は与えてやりたいと思っている。




「と、やり過ぎたね。さぁ、イチャイチャするのはここまでだよ。さっさと仕事を済ませてしまおう」

「そ、そうですね……じ、冗談ではありませんものね」

「冗談の方が良かったか?」


 おお、可愛いでございますね。

 思いっ切り綺麗なお顔を左右に振っている。そのせいで僕が作ってあげた仮の姿であるバンブーの胸が弾んで……くそ、どうしてこういう時にカメラを持っていないんだ。これだけで白米が三杯は食べられるぞ。


 だが、やはりこの感覚には慣れない。精神は反応するのに体はピクリとも反応しないという不思議な感覚だ。……いや、これは一種のデートのようなもの。その途中で体が反応するなんて男としては恥でしかないか。まさか、このままピンク色の宿屋にでも連れて行こうとでも思っているのか?


 後ろ髪を引かれる思いだが無理やりレミィから目を逸らして……脳内フォルダからレミィの恥ずかしい姿は消しておこう。そうだ、それがいい。


「すいません、中に入っても良いですか」

「身分証の提示をお願いします」

「これで良いですよね。さぁ、行きましょう」


 えっと……いつの間に復帰していたのですか。

 もしかして最初から僕の反応を見るためだけに飛んで喜んで見せていたのか。この子……気怠い特性がありながら小悪魔特性もあるとか……くそ、本当に手を出してしまいそうで怖い。


 衛兵もバンブーの顔と胸を見て気持ちの悪い笑みを浮かべているし……さっさと行くか。このまま襲いに来てくれないかな。来てくれたらレミィに戦わせて力を確認しながら、僕が欲しがっている人間の遺体を多く手に入れられるのに……。


 あ、そうだ……。




「行ってもいいですよね」

「あ、ああ……」

「だってさ、行こっか」


 わざとレミィを抱き寄せて肩に手をかける。

 チラッと後方を見たけど歯軋りしていたし……もしかしたら、僕の命を奪いに来てくれそうだ。鑑定眼が付与された魔道具とかは使っていないけど犯罪歴とかがあったら殺す理由になるからな。ふっふっふ、色々な意味で楽しみになってきたよ。


 にしても、失敗してしまったなぁ。

 まさか、僕とした事が冒険者証ではなくて身分証を見せてしまうなんて……これではただのイチャついたカップルにしか見えないじゃないか。これはこれは……本当に失敗してしまったよ。レミィに渡したのが身分証だけなのも失敗だったな。


「楽しいな、レミィよ」

「え、ええ……あの……楽しいです!」

「そうかそうか! それなら本当に良かった!」


 衛兵を後にして洞窟を後にする。

 忘れてはいけないけど僕達の本来の目的は人を殺して素材を得る事じゃない。もっとシンプルな、ダンジョン攻略をして素材を集めるといった理由でしかないからな。アイツらに構っている必要は少したりとも無い。




「それにしても……暗いですね」

「普通はこんなものだよ。薄暗くて松明の灯りだけを頼りに奥へと進んでいく……奈落のような外と変わりのないダンジョンの方がごく稀だ」


 そうか、確かにそう思うよな。

 普通のダンジョンは四、五人の一パーティで攻略に乗り出すのが鉄則だ。その中に魔法使いが一人でもいるとなお良い。魔法使いは『(ライト)』という生活魔法を使えるからな。その光を頼りに進んでいくんだ。


 もしも、いなかった場合……その時はポーターと呼ばれる荷物運びが松明を持って先導する。だから、ポーターが先に死んでしまう事なんてザラにあるんだ。まぁ、戦闘もできないし、技術も無い人くらいしかポーターにはならないけど。稼ぎ口が無いから生き残るために取れる手段を選ぶ、良くも悪くも世界は残酷だよ。


 その程度でしか明かりが取れない空間。

 これらもダンジョン側の戦略の一つだろう。こういう場所では探知系統のスキルが無ければ不意打ちを食らってしまうからな。ダンジョンが良い素材を落とす魔物などを生成するのは成長するためだ。その時に人の遺体が必要になってくる。


 対して王国側が対処をしないのはダンジョンに潜る人を選別するためだろうな。国や街としては強い冒険者が欲しいのであって、弱い冒険者に価値なんてものは見出していない。ましてや、ダンジョンが育てば懐だって潤っていく。だから、知っていて何もしないんだろう。


 例えば奈落のようなダンジョンは出てくる魔物が最初から強い、だから、不意打ちに頼らなくてもいいんだ。それに奈落自体が成長を望んでいないし、王国も奈落の成長を望んでいるわけではない。


 でも、ハーベストは出てくる魔物が比較的弱いからな。それに王国側にも育てる利点が多くある。だから、分かっていて何もしないんだ。まぁ、ダンジョンの中にいる敵が魔物だけとは限らないけどな。


 僕としては出たら嬉しいけど普通は違うだろう。

 人の遺体が手に入る、それは即ち宝箱を一つ手に入れるのと同義だ。人の死体というのは多く持っていて損が無い。人の遺体の山というのは宝箱が積み重なっていると言っても良い。それだけ利用価値が高いからな。それが悪人であろうと善人であろうとどちらでも良い。


「さてと……少し先にEランクの魔物が五体いる。それらを一撃で屠れ」

「……うーん、人使いが荒いですね。まぁ、Eランク程度なら———」


 そう言った途端にレミィの姿が消えた。

 そのまますぐに目の前で何かが切られる音がして地面へと落ちる。事前にレミィへ空間魔法の付与をしておいたから魔物が素材に変わる事は無い。


 ここで出てくる魔物は見た目、空飛ぶ野菜しかいないから……その分、倒したままの姿で回収すれば多少の解体技術が必要になってくる。まぁ、僕ができるから問題ないな。そこら辺は本で学んだし、なんならクーベル王国に所属していた時にやった事もある。


「お疲れ様」

「この程度であれば……でも、少しだけ疲れてしまいました」

「甘やかさないぞ。普段から訓練に参加していないレミィが悪いからな」


 上目遣いで頭を差し出してきても駄目です。

 さっきのはレミィが持つ固有スキルの『神閃』という、固有スキル『縮地』の上位互換のスキルの力だ。縮地は視界に入っている物体の位置まで魔力消費無しに一瞬で飛べるのだが、神閃は百メートルまでなら自由に飛ぶ事ができ、その間にいる敵を切り伏せる事ができる割と強いスキルだな。


 まぁ、縮地は固有スキルの中では多くの人が獲得しているものでもあるし、本当に世界に一人くらいしか持っていない神閃と比べるのもおかしな話だけど。レア度が段違いだし、扱う人も頭が回るとなれば弱くなるわけも無い。


「むぅ……普段も頑張っていたらしてくれましたか」

「僕の撫でが安かったらしているな」

「良かった、それならしてくれそうですね」


 くっ、僕の撫でが安いと申すか。

 まぁ、高くないのも事実だからなぁ。求められたらしていたというのも否定できないし……それならした方が良かったんじゃないのか。いやいや、それでしたらレミィの思う壺だ。だから、今はしないのが最高の選択だろう。


「なら、レミィだけはしないようにするな」

「……普段からもう少しだけ頑張るようにしますので許してはいただけないでしょうか」

「撫でが安いと思われるのは不服だからな。頑張り次第ではしてやらない事もない」


 ……ハッ、そう言いながらしてしまった。

 くそ……これだから馬鹿にされてしまうんだ。確かにレミィは僕相手でも軽い感じで接してくれるのは良いところだと思うよ。それでいて僕への忠誠心があるとなれば否定するのもおかしな話だ。だからと言って……いや、それなら別に撫での一つや二つくらい良くないか。


 そうだな、でも、少しだけ負けた気がするからレミィの二つ名をメスガキにでもしておこう。メスガキのレミィとかかなり良くないか。まぁ、その二つ名に合うだけのイジワルさは無いから名付けないけどさ。


「それで、頑張れそうか」

「ええ、この撫ででより一層、戦えそうです」


 そう言ったレミィは本当に強かった。

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