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第22話 賢者、満足できない

「ふむ……及第点、だな」


 ミルファの方はラストアタック方式だったようだけどレベル自体はかなり上昇していた。そこら辺もモノクルをかけているから分かったが……うん、レベルだけなら見れるようになったな。全員が四十レベルを超えていたし。


 これで日頃の努力も行えば確実に一気に伸びてくれるだろう。最初から数値が高ければ伸び幅も大きくなるし……もっと言えばMPに関してはレベルが高い状態で行った方が良い。


「それでは後はドランに任せる。各自、部屋に置いておいた計画書に則って活動するように。くれぐれも各々の判断で計画の無視などは行うなよ。体調面での問題などがあれば即座にドランに伝える事、その時の判断はドランが行う。……分かったか」

『はい!』


 良い返事だ……まぁ、僕とミルファの強さを見た後では反応がまるっきり変わってしまうのも無理は無いか。力を抑えたとはいえ、それでも常人では出せるはずが無い力を見せたんだ。それだけ畏怖という感情が強まってしまってもおかしくは無い。


 はぁ……とりあえず、今日はこのくらいでいいだろう。後は個々で得物の素振りだったり、模擬戦だったり、魔力消費くらいしかやる事も無いからな。他に僕がやる事と言えば明日の食事を作っておくくらい……まぁ、そこら辺はミルファに頼めない分野だし仕方ないか。


 ミルファが奈落に住むようになってから僕が料理を作っていた。そのかいあってか、既にスキルの料理はレベルが七まで到達していて、スキルレベルだけで言えば店を出せるレベルになっている。対してミルファは肉の丸焼きくらいしか作れないが……いや、それすらも危ういか。


 美少女が料理をするとダークマターが産まれてしまう……というところまではいかないにしても、それはそれは見事な真っ黒焦げができる事は間違いが無い。一応、作っておいた料理を魔道具のレンジで温める事はできるから、調理さえしておけばいいという点からすれば楽ではある。


 ま、そこら辺は助け合いだよな。

 料理ができないというところもミルファの可愛いところとして捉えよう。別に料理を作ってもらわなければ死ぬわけでもないし……できないのなら僕がやればいいだけだ。単純明快、この世の真理、これが世渡り上手よ……社会に出た事ないけど。


 って事で、さっさと料理を作ろう。

 パンとかの一部の主食は既に買っておいたから作る心配は無い。僕がやっておかなければいけないのはパン以外の食事の部分だ。本音を言えばパンだって材料さえあれば作れるけど……一々、バレディを経由して買わなければいけないから面倒臭いんだよなぁ。


 それにパン屋の人と仲良くなっておくのも悪くは無い。安い物から順に口にして自分でも美味しいと思えた最低金額の物を買い溜めたからな。中でも安いながらに美味かった個人店から大量に買っているから仲良くはしたい。個人的に大量に注文しているから週三ペースで買いに行けばいいから楽だし。


 さてと……で、何を作るかだが……。

 まぁ、一先ずはスープからだな。最近、ミルファには肉料理ばかりを食べさせていた。それを好んでいるからっていうのはあるけど……野菜を軽んじている傾向があるんだよな。だから、今日は野菜メインの料理メニューにする。


 まず大鍋に半分より少し上くらいまで水を入れます。この時にポイントなのが使う水は僕が作り出した水魔法である事、これは魔力を大量に含む水という事で魔力回復速度を高めてくれるんだ。まぁ、魔力を全放出させた後の苦しむ時間を減らしてあげるための作戦の一つだね。


 その中に大量の潰したトマトを入れます。

 本来ならばミキサーとかにかけたいのだが……魔道具を洗うのも大変だし、大鍋の上に細かな風刃の層を作っておいた。これで落とすだけでグチャグチャになるって寸法だ。ちなみにトマトが収穫の時期らしくて安く大量に仕入れたからな。嵩が四分の三になるまで入れておいた。


 そこに細かくしたジャガイモと人参を入れる。本当は白菜とかも入れたかったけど……ごめん、高くてさすがに買えなかった。そこら辺も奈落の中で自給自足したいなぁ。ここなら僕が魔道具を作るだけで春夏秋冬、関係なく栽培ができるし。


 まぁ、細かい事は後々って事で。

 それで……後はこれを煮込むだけで完成だから他のスープを作っておかないと。これは朝食、いや、立場としては夕食の寝る前の食事に飲むスープと言えばいいのかな。その時用だから他にも作っておく必要がある。


 うーん、朝が夜で、夜が朝、昼は夜中……と考えると昼が少し重めにしても大丈夫かな。起きたての夜は軽い野菜の出汁から作られたスープにして、夜中は少し重めの肉の出汁からできたスープだ。女性陣の体も心配だから……サンダーバードの肉で作っておくか。あれなら脂質も少ない分だけ食べやすいだろう。


 後はオカズだけど……まぁ、複数作っておいて選んでもらう方が楽かな。特に人によっては野菜の方が良かったり、肉の方が良かったり、薄い味が良かったり、濃い味が良かったり……と、そんな感じで細かく好みが分かれるだろうし。


 無難に肉野菜炒めでいいか、後は軽い揚げ物が数種類と温泉卵を乗せたシーザーサラダ、それとサンダーバードから取れた卵で作った少し大きめのオムレツとかがあれば選べるかな。肉野菜炒めと野菜炒めで分けるのも悪くはなさそうだ。


 うむうむ……かなり悪くは無いんじゃないか。こういう時に一人で生きてきた甲斐が有るというものだ。奈落の階層ごとに取れる食材が分かっている分だけ現在の状況で作れる料理とかの判別がしやすいし。例えば……奈落で卵を手に入れる方法とかはただ倒すだけでは分からないだろう。


 本来であればダンジョンで魔物を倒せば煙となってドロップアイテムへと変化する。ここにラストアタックをした人の幸運の高さでドロップアイテムが変化してくるんだ。例えば今の僕は幸運値が百となっていて、これが最大値となっている。


 この幸運値ならば百体倒せば二十体くらいの確率で最低確率のレアドロップ品が落ちるかな。まぁ、金色の羽毛とかって名前の微妙なアイテムだけど。


 これ自体は矢の羽とかに使ったら雷の矢になるから悪いアイテムでは無いが……僕の場合は倒した瞬間に丸ごと空間魔法で回収できてしまう手前、そこまで価値を感じない。要はドロップアイテムに変わる前に素材を全て回収できてしまうんだ。だから、作ろうと思えば簡単に作れるし。


 それで卵に関してだけど、これは七十五パーセントの確率で落ちるから割と楽に手に入るんだ。もちろん、僕の幸運が高いからっていうのはあるけどね。……というか、そこら辺を踏まえたら野菜系の魔物が現れるダンジョンで野菜を乱獲するのもアリなのか。


 ま、まぁ、そこら辺も追々だな。

 一番、良いのは強くなった配下に野菜を供給してもらう事だし……やっぱり、今だけは僕が頑張る必要がありそうだ。今を頑張れば将来的には連れてきた配下(女性)にメイド服を着せて美味しいご飯をアーンして貰える……そう思えば何とかやっていけそうだよ。


 という事で、片手間ではあったけど肉野菜炒めと野菜炒めは完成した。スープも煮込むだけだったから軽く塩で味を整えれば終わりだ。後は野菜や肉の揚げ物とオムレツ……それにシーザーサラダか。


「ん……美味しい」

「はぁ……邪魔をしに来たのかな。ミルファ」

「違う……味見をしに来た」


 その割には肉野菜炒めの肉だけをパクパク食べていますけど……頭にチョップして手を止めさせた。コイツは悪魔だ、皆が食べたいと思う最高の部分だけを消費する最悪の悪魔、そう銃の悪魔みたいなものだ……知らんけど。


「ミルファには特別な献立を作っておくよ。肉抜きの最高な食事だ」

「ん……悪魔……鬼……アルフ」

「僕は悪魔と同列かよ……いや、確かに悪魔みたいな事はしているけど」


 盗賊を非人道的に殺し、バレディには威圧をかけながら友達アピールをする……うん、どっからどう見ても悪魔だ。でも、魔王になるって宣言をした手前、別に今更だし、どうでもいいかな。もっと言うとさ……。


「なら、悪魔らしくミルファには肉抜きでいいよな。良かったよ、悪魔だから心を痛めずに野菜料理を出せるわ」

「……少しでいいから……肉が欲しい」

「考えておくよ」

「駄目……アルフ……?」


 くっ……その顔、卑怯なりけり。

 上目遣いの少しだけ胸を寄せながら悲しそうな視線だけを向ける……ふん、そんなものに屈すると思ったか。まぁ、だが、少しだけなら入れてやってもいいだろう。


 ワイバーンの唐揚げを十個だけ入れておこう。本当に少しだけだからな、これ以上は多くしないぞ。甘えたら簡単にあげるような安い男に見られたくは無いからな。


 その後はミルファの妨害がありながらも何とか料理を終える事ができた。最後に釘を刺して「自分の分だけを食べるように」と言っておいたから大丈夫だと思いたい。「配下の分を食べたらミルファの事を嫌いになるかもしれない」とまで言ったからきっと大丈夫だ、うん。

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