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第20話 賢者、幼女に甘える

「これから君達には男性の班、女性の班に分かれてもらう。男性の班は我が、女性の班は我の伴侶であり、圧倒的な強者でもあるドランが担当する事になる。各自、担当の者の話をよく聞き、行動するように」


 ドラン……要はミルファだ。

 ドラゴンから取ってドラン、それでミルファには一つだけ頼み事をしておいた。一言で言えば女性班のレベル上げ、対して僕は残りの男性班のレベル上げだね。何事もステータスが低いままでは行う事ができない。だからこそ、奈落で無理やりレベリングを行う気でいた。


 ミルファは強い、それは奴隷達を奈落に連れてくる前に何度か、刃を交じ合わせたから分かる。それに簡単な剣の使い方も教えたからな。剣だけで魔物を倒せと言われても苦戦はしないだろう。最悪は龍の姿になってもいいって伝えてあるし。


 それにしても……仮面姿が様になっているな。

 僕が作った黒い龍の顔を模した面だ。瞳のような部分は横の髪まで到達していて、少しだけ出っ張りを作る事で立体的に見えるようにしている。一つだけ難点があるとすれば……ミルファの身長だけは誤魔化せないところか。


「あ、あの……その方は本当にお強いのでしょうか。ネームレス様を疑ってはおりませんが……どうしても不安に思えてしまいます」

「ん……私は強い。これを見ても……弱いと思う」

「い、いえ! なんでもありません!」


 うん、イラッときたのは分かるよ。

 でもさ……わざわざ、手だけを龍化させて脅すのはどうかと思う。そんな事をしなくても模擬戦とかで力を見せる場面は作れたのに……折角、ミルファと戦える機会があったのに……。


「これで我等の強さは理解したはずだ。準備の時間として十五分、与える。各自、こちらから鍵を取り支度を整えろ。鍵には名前と部屋の番号が記されているから間違えないように。それと室内にある道具は好きに使っていいからな。以上」


 面倒だし、さっさと部屋に戻ろう。

 僕が三階に向かうとミルファも着いてきたし……少しだけ休みたいな。いや、別に嫌な事があったわけではない。ただ、慣れない強者アピールに疲労しただけだ。きっと……あの骸骨様も同じ気持ちだったんだろうなぁ……。


「ふぅ……気持ちいい……」

「ん……最高級のベットは格別。アルフのお腹も同じくらい……格別」

「ミルファの香り……はぁ、癒されるなぁ」


 そしてお腹に感じる柔らかさも……。

 僕のお腹の中で顔を埋めるミルファを持ち上げて近付ける。そのまま抱き寄せて体を戻して……少しだけ休ませてもらおう。こういう時に一歳児で良かったなと思うよ。精神面ではそういう気持ちになっても体は反応しないからな。


 何回か、男性の生理現象が起こった事はある。

 でも、全てトイレを我慢していた時だけだ。そういう考えが頭を過っても股間にまでは影響を与えない。つまり、身体面でも成長をしなければミルファとそういう関係になる事は無いんだ。良くも悪くも、ね。


「それにしても……本当に大丈夫か。十二人も何とかできるか頼んでおいてなんだけど少しだけ不安なんだ」

「ん、問題無いよ……アルフのためだから」


 そう言ってチューをしてきた。

 うーん、キスのつもりなんだろうけど……やっぱり、チューにしか感じないんだよなぁ。よくて女子小学生の高学年だ。逆に僕がミルファにキスをしても傍から見たらチューなんだろうなぁ。


「それに……女をアルフの近くに寄せるのは危険過ぎる。絶対に……アルフの事が好きになる」

「僕としては嬉しいけどね」

「駄目……私が認めた人以外は駄目」


 それは……最初の嫁としての矜恃なのかな。

 まぁ……確かに一部の人は間違いなく僕を神様扱いしている。その中の女性は僕が体を預けろと言えば簡単に言う事を聞くだろうな。死ぬかもしれない程の欠損を回復されたら……神聖扱いするのも仕方が無いか。


「僕が認めたら?」

「……私とどっちを取るか聞く。相手を取るっていうのなら……我慢する」

「もう、可愛いなぁ……そういうところ大好きだよ」


 身を引くとか言わないで我慢するか。

 何がなんでも一緒にいようとする精神、本当にミルファらしくて好きだ。夜な夜な変な事をしようとしなければパーフェクトなくらい良い子だよ。強くて優しくて可愛くて……あ、料理だけはできなかったな。それ以外は本当に文句の付け所が無い。


「……信用しているからな。頑張って皆を強くしてくれ」

「ん……当然。それがミルファ・リーフォンの使命だから……アルフは私をもっと信頼していい」

「信用しているから……こうやって抱き締めているんだろ。抱き締め続けていたいくらい信用しているよ」

「でも……信頼しているとは言わない」


 あ……そういうことか……。

 信用と信頼……確かにミルファに関しては他の誰よりも信用している自信がある。裏切られる心配が無いと思える程に心を許しているからこそ、大きな期待はしていないのかもしれない。


 いや……期待なんて誰にもした事が無いのかもしれないな。そういえば大抵の事を自分でしてきたから無理なら自分でやればいい、そんな考えが根底にあったのだろう。……奈落に来た時も独りだったからな。でも、今は違う。


「愛している、期待もしている、信用もしているんだ。だから、その気持ちに応えて欲しい」

「それでいい……その願いが私を強くさせる」

「なら、ミルファを押し潰す程に期待してあげないといけないな。まずは龍化を抜きにして二十階層まで行ける程に強くなってもらわないと」

「ん……やっぱり、程々がいい」


 ダメでーす。一度でも口にしたら撤回はできませんよ。……でも、ミルファなら間違いなく最下層までいける強さがあるから、仮に一月以内にとか条件をつけても確実に達成してくれる。そのうち、二人で攻略を開始するつもりでいたから二十階層までは早く行って欲しいものだ。


 まぁ、一緒に攻略は教えないけどね。

 きっと、教えたら急いで攻略しようとしてしまうからさ。それでミルファの身に危険が迫っても僕は嬉しくない。安全に進める速度で攻略していく事を僕は強く望んでいるんだ。一緒に戦いながら「ミルファ! スイッチ!」とかで連携攻撃をするみたいな願望は後々の楽しみにしよう。


「……さてと、トイレに行ったら配下のところへ向かおうか。行動が早い人と遅い人も見ておかないといけないからさ」

「ん……もう少しだけゆっくりでいい。今日は終わったら帰っちゃうから……一緒にいたい」

「明日になればまた会えるよ。それに一緒にいない時間があるから、ミルファは僕の事を好きなままでいてくれている可能性もあるからさ」

「それは無い……断じて言える」


 うーん……これは怒らせてしまったな。

 冗談でも好意に関して突っ込むのは良くなかったか。でもさ、ずっと一緒にいたら窮屈じゃないのかなとは思ってしまう。どれだけ好きな人が相手でも一緒にいたら嫌な面が目立ち始めるだろう。幾ら命の恩人とはいっても本当に好きなままでいてくれるか心配ではあるし。


「ごめん……まぁ、どちらにせよ、三歳になるまではミルファを家に連れて行く事はできないからさ。少なくとも二年間はずっと一緒にいられないけど我慢してくれないか」

「ん……嫌だ。だけど……アルフを困らせたくは無いから我慢する。……でも……嫌だ」

「三歳になったらずっと一緒にいられる。つまり寝る時も一緒ってことだよね。それを想像したら我慢できないかな」

「ん……やっぱり、アルフは私の扱いが上手い。一緒に寝られると思ったら……頑張れる」


 一緒に寝られる……嫌な予感が……。

 えっと……ミルファの中で寝るって意味深な方の意味では無いよね。寝られるの時に舌なめずりをした気がするんだけど……きっと、気のせいだよな。まさか、本当に寝ようとはしてこないよ。さすがに僕の親がいる家でも襲うなんて……普通にありそうで怖いな。


 ま、まぁ……一度、寝てみて襲われたら対策を取ればいいか。さすがに何度も寝込みを襲うなとは伝えてあるから……家でならして来ないはず。それこそ、フィアナだって認めやしないだろ。うんうん、きっと、そうに違いない……。


「さてと……行きますか。さっさと仕事を終わらせて早く帰って寝よっと」

「……私は帰って欲しくない」

「その気持ちは嬉しいけど続きは次回って事で。毎日、こうやって一緒にいる時間があれば僕もミルファも我慢できるでしょ。何事も我慢は大切だよ」


 僕はネームレスであり、アルフだ。

 ネームレスの破片をリーフォン家の人達に見せるわけにはいかない。それこそ、僕のやろうとしている事を皆が知れば止めに来るかもしれないからな。別にあの人達と戦うのは良い、でも、殺し合いたいとは思わないんだ。


 アルとフィアナはミルファに任せればいい。

 唯一の不安要素であるヴァンも僕が戦えば何とでもなるだろう。幾ら底が見えないとは言っても、あの時に戦った帝国騎士レベルの強さは間違いなくない。アレだけの力を保有していたとなれば本気でアルから引き離すレベルだ。


 だが……何とも人というのは弱いな。




「どうかした?」

「ううん、何でもないよ。ミルファが可愛いなって思っていただけさ」

「ん……当たり前」


 ごめんな、今だけは誤魔化させてくれ。

 僕がどうなるのか、僕ですら分からないんだ。そんな気持ちのままでミルファの将来を左右させたくは無い。だから……この撫でで子供らしく静かにしていて欲しいんだ。


 ミルファから離れて立ち上がる。

 そのまま魔法を発動させて……ネームレスの姿へと戻ってから腰に刀を差した。何をするにしても戦力は必要なんだ。これからの行動はどのような選択を取るとしても間違いなく自分達のためになるはずだから……。


「では、行こう。全ては未来のために」


 そう、全ては……未来のため(・・・・・)に。

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