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第19話 賢者、魔王となる

「嬉しいけど今すぐは無理だよ。一歳の子供が七歳のミルファを連れて行く理由が無いからね。僕は本当の仲間にしか、孤高の賢者の転生体である事を伝える気は無いからさ」

「本当の仲間……えへへ……」

「それにミルファを仲間にできた事でやれる事も増えたからさ。僕はこの奈落に一つの大きな国を作る気でいたんだ。その時にミルファの力が必要になってくる。ミルファには奈落でやって欲しい事があるんだ」


 戦闘力、それだけじゃない。

 きっとミルファなら僕のように奈落を攻略できるはずだ。それだけの素質を確実に持っている。そして、そこまでいけば頭脳においても周りの存在とは比べ物にならない程に成長するはず。


「アルフ……との子供を作る事……?」

「それは後回しだな。先に……配下の育成の手伝いをしてもらう。なに、子作りは僕が適正年齢になったらすぐにするよ」

「なら……頑張る……子作りも……育成も……」


 本当に……良い拾い物をしてしまったな。

 この子は間違いなく僕の計画に大きく役立ってくれる。それは可愛さとかを抜きにして必要なだけの素質を持つんだ。今、初めて綺麗になったミルファの魂を見た。美しい赤色……確実に龍としての力が魂にまで染み込んでいる証だ。


「ミルファ……少ししてから奈落に三十六人の奴隷を連れてくる。その者達の個々の一日の流れは作っておいた。だから、昼間は彼等の育成を頼むよ。夜は僕が彼等の育成に入る」

「一緒が……いい……」

「なら、その望みに沿った流れに変えておこう。僕もミルファと一緒にいたいからな」


 それは嘘では無い。今のミルファを見ていると心が安らぐんだ。……きっと、ずっと一人で抱えていたが故の反動なのだろう。人というのは本当に弱い存在だ。如何に強くなろうと甘さに浸れば苦しみに耐えられなくなる。


 でも……独りだと限界があるのは事実だ。

 それを背負ってくれるというのなら……僕はその甘さに浸り尽くそう。あの時とは違う、今は知識も戦闘力も大抵の人には負けない程にあるんだ。だから、ここに誓おう。


「これは……」

「壊滅の首輪、僕が作った中で最高傑作だと思っている魔道具だ。付けられる存在を一人のみに限定する代わりにステータスを二倍以上にする……僕の物になるのなら何も失わずに力を手に入れられる魔道具だよ」

「アルフの……物……すごく嬉しい」


 うわ、いきなり抱きついてきた。

 ふむ、やはり、この胸の柔らかさは最高ですな。これのために頑張ってきたと言っても……いや、さすがにそれは言い過ぎだな。ミルファの良さは胸だけではなくて笑顔も最高なんだ。


 さてと……最後にミルファに伝えておこう。


「この時を持って……僕は王を名乗ろう。今はまだ国の土台すら無いが時期に人々は我を王として恐れ始める。このネームレス・ヒュポクレティを最強の魔王として」






 ◇◇◇






「ようこそ、よくぞ来たな……我が奴隷達よ」

「空間魔法……それにここは……」

「ここは我が拠点にしている空間、君達で言うところの奈落の十階層にある我の部屋だ。君達が来ると知って広くしておいたのだよ。だから、暇な時間はゆっくりと寛ぎたまえ」


 わざわざ拠点を三十六人が暮らせるように変えてやったんだ。本当に感謝して欲しい……しかも、三階層に分けて男性用、女性用、僕達用の三つに分けてある。もちろん、人の往来が激しい一階層は野郎の空間だ。


「奈落……なんて場所に……」

「なんて場所、か……だが、その反応も今しか楽しめないのだろうな」

「それはどのような意味ですか」

「一年以内に全員が奈落の五階層までは行けるようにするつもりだからだ。ステータスだけで言えばSランク以上、我の渡す武器も含めてSSランク以上の力を得てもらう」


 一応、武器に関してはワイバーンの歯を使って人数分だけ作ってある。その人の才能に合った武器にして作っておいたが……大変ではあったな。


 それに普通に買うとしたら大金貨はくだらない性能をした最高級の武器だ。……まぁ、賢者の時からのブランクもあるから満足のいく物かと聞かれれば量産品としか答えられないけどな。


 それでも、ランクとかいう曖昧な力の表現であればAランクでさえ、SSランクに匹敵させられるだけの力を与える武器となるだろう。というか、量産品であっても素材の良さと、かけた魔力の量からしたら尋常ではない労力だろうし……。


「武器だけで……ランクが一つ上がると」

「これを見れば分かるのではないか」


 影刀、不知火……僕の最高傑作の一つでもある武器だ。全てを斬る事ができるという圧倒的な斬撃性能に、耐性すらも無効化して敵を燃やす炎を出す事ができるという物で……まぁ、ミルファに渡した首輪並にイカれた性能とはなっている。


 まぁ、裏を返すとこれだけの強さが無ければ奈落攻略なんて不可能に近いんだけどな。それくらい奈落の下層というのは化け物しかいない。限界まで強くなった僕でさえも武器の性能に頼らなければ倒せない敵もいたし。


「……これは王家の家宝にすらなり得る武器ですよ。どうして……このような物が……」

「我が作った。奈落で生きるには全てを自分の力で賄わなければいけなかったからな」

「孤高の賢者……あれは本当だったの……!?」


 えっと……やっぱり、皆、嘘だと思うんだ。

 まぁ、僕が奈落攻略を進めていた事は有名だもんな。奈落を拠点に、となると空想上の存在でもあった賢者だと認めるしか無いのだろう。奈落に入れるだけの存在が少なかったから僕の追っ手もいなかったし……いたとしても、良くて四階層で死んでいる。ミルファに比べれば雑魚中の雑魚でしかない。


 それにしても……武器の価値が分かる女の子がいたのか。見た感じ耳が少しだけ小さいのと身長の低さからして……ドワーフ、は無いか。確か商人の才能がある最年長の女の子だったはず、バレディの教育の中で見抜き方とかを教えてもらったのだろう。


「その我の叡智の欠片を君達に渡すのだ。それだけの才覚を示してもらわなければ困る。……むろん、努力さえすれば才覚など無くとも強者へと変貌できるだろうが」

「本物の……化け物……」

「化け物……違うな、我は悪魔だ。深い欲を満たすために君達を仲間に引き入れた悪魔でしかない」


 クーベル王国を潰したいのも欲の一つだ。

 楽しみたい、あの過去を消し去りたい……そのために奴隷という存在を利用する。だが、ただ利用するだけでは彼等の不満が溜まるだけだろう。


 だから、戦う事に対しての心地良さを抱いてもらう。言い方は悪いかもしれないが雑魚を潰す事の快感で命令を聞いてもらうんだ。


「さて……死にたくなければ努力せよ。努力すれば強くなるための手助けを我がする。……まず君達に求めるのは寝る前に全ての魔力を放出する事だ」

「全ての魔力を放出……まさか、あの話は本当だったのですか!?」

「賢者の言葉を信じられないというのであれば無理にとは言わない。だが、魔力が多くて困る事は何も無いぞ。生産職に回ろうが、戦闘職に回ろうがステータスの影響を強く受ける」


 奴隷の中では細く身長の高い、年長組の男の子がそう聞いてきた。なぜ知っているのかは僕には分からない。見た感じ、僕の発言の意図を理解しているのは他に二人しかいなさそうだから教わったというのも違うのだろう。……まぁ、別にいいけどさ。


「君達は数年後に世界最高峰の力を手に入れる。生産職なら世界一と呼ばれる武器が作れるような知識や素材を、戦闘職ならSSSランクにも及ぶ力を与えよう。だから、我を楽しませてみせよ。そして忠誠を誓え」


 まぁ、最低でもSランク以上だな。

 そこまでいかせられないのなら多分だけど王国を圧倒する事なんてできない。僕がやりたいのは僕一人で王国を滅ぼす事では無い。国を作り、兵士を用いて圧勝する……今まで築き上げてきた全てを力で破壊して尊厳をグチャグチャにしてあげたいんだ。


 屈辱、凌辱……その全てを与えて滅ぼしたい。

 それにクーベル王国だけを相手にするのなら僕一人でも何とかできる。だけど、帝国とかが絡んでくるのなら話は別だ。ミルファだけでは王国も帝国も任せていられない。……それだけ、あの時の騎士の少女がネックなんだ。


 アイツは神魔族の先祖返りと僕に言った。

 神魔族は過去にいた神が世界の秩序を維持するために作り出した種族だ。それだけの任務があったからこそ、僕のように成長に限界が無いという種族独自の特権が与えられていた。でも、彼等は滅ぼされてしまったんだ。


 当時の人族は神魔族という強いだけの存在を忌み嫌っていた。神魔族から人族に何かをする事なんて無い。神魔族自体は友好的で平和主義的な考えを持っていたから……だが、それが仇となり当時、召喚された勇者によって殲滅されている。


 友好的で平和主義……もしも、その考えを捨て去り戦闘の限りを尽くす存在がいたら……負けていたのは恐らく人族だっただろう。だから、あの子を甘く考える事はできないんだよ。下手をすれば僕すらも簡単に殺してしまえる存在だからな。


 だから……張れるだけ予防線は張っておく。

 誰も殺されないような、そんな夢物語を達成させるための大切な仲間達だ。僕はそれを成し遂げられるだけの力を彼等に与えよう。その代わり……しっかりと働いてもらわなければいけないな。

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