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第3話 賢者、努力する

 ふむ、悪くは無い……。

 一月……それだけの長い時間をかけてようやく僕は一つの事を達成出来た。それは寝返りというものだ。高々、寝返りと言う勿れ。出来ない体になってからは本当に大変だったんだ。


 横を向こうとすると首がおかしくなる。

 いつもの調子で寝返りをうとうとした瞬間に首元に感じた事の無い激痛が走るんだ。これがいわゆる首が座っていない状況だったのだろう。だからこそ、魔力放出の前に数回は体を動かす練習をしていたんだ。おかげで……。


おぎゃ(見よ)おぎゃぎゃ(これが成長だ)


 左右に行ったり来たりできるようになった。

 これが出来れば次は体を起こす練習だ。今日は疲れたからそこまではいかないけど寝返りが出来た達成感はものすごく大きい。それに……欲しかったスキルも手に入ったからな。


 隠蔽と魔力操作……前者が俗に言う全てのものを欺くためのスキルで僕のような人間には必要不可欠なものになる。前の世界でよく理解した事だけど目立つって言うのは大きなリスクがあるんだ。でも、強くならないといけない。それを隠すために間違いなく必要になるものだね。


 そして後者、これは三日目くらいには既に取れていたスキルだ。別に無くても困らないスキルではあるんだけど魔法を使う時の魔力効率だったり、後は無詠唱で魔法とかを発動させるのに必要になったりするから取れて悪い事は無い。むしろ、僕イチオシのスキルでもある。


 この二つが取れてからは本当に楽になった。

 例えば魔力を全て使い切ったとする。その後は気絶してしまうわけだけど、気絶する前に大量の魔力を消費して隠蔽をかけておけば顔色とかが悪く見えなくできるんだ。これのおかげでフィアナから心配される事も減ったよ。


 そして隠蔽を常時、かけておく事で何もせずとも魔力を消費できるようになった。これもかなり大きな事で成長率が半端ない時に魔力を継続的に消費させられるんだ。つまり、限界値をより引き伸ばす事ができるんだよね。


あうあー(鑑定眼は無理かー)……」


 目に魔力を集める……それでスキルの一つである鑑定眼は手に入るはずだった。獲得するのが難しい事も知っていたから魔力操作だって使っているというのに……未だに手に入る予兆すら見えない。


 やり方を間違えたかな……。

 いや、昔の僕はこれで手に入れたはずなんだ。つまり、何かが不足しているだけ。考えられるのはイメージだったり……後は練習期間も有り得るかな。あの時の僕は魔力操作のスキルレベルが最高の十だったし。


 とりあえず、今日の鑑定眼訓練は終わり。

 これ以上の魔力消費は魔法訓練に影響を与えてしまう。特に土魔法と水魔法は早めに取っておきたいから魔力を多く残しておくのに越したことはない。


 うーん、それにしても……いいねぇ。

 明らかに魔力量が多くなっている。昔の僕が同じ事をやっても精々、数パーセントだけ限界値が高くなるのが関の山だった。でも、今は百倍は高くなっているんじゃないかな。……まぁ、元が少なかったからっていうのはあるけどね。


 フィアナを心配させないための隠蔽だって、かけるのに大量の魔力を消費しても訓練に支障を来さないんだ。これって本当にすごい事だよね。だって、まだ僕って生後一月ですよ。


 やはり、知識=チートなり。

 こうやって安心して魔法の練習ができるのだって普通は難しいはずだ。仮に他の赤ちゃん達が日本からの転生者だったとしても魔力の知識が無ければ放出なんてしないだろうし、したとしても生き残るのだって簡単では無いはずだ。後遺症無くして訓練が出来ているのは間違いなく前世の知識のおかげだろう。


 という事で、魔法訓練をしているけど……。

 ふむ、やっぱり、コツを覚えている分だけ手間はかからずに済むか。普通に土魔法を扱えたし、水魔法も発動させられた。一番、簡単な水の玉と土の玉を作り出しただけだが消滅させる事もできたからね。


 魔力操作様々って感じだ。

 普通は詠唱をしてようやく発動させられる魔法もイメージ一つで何とかできる。赤ちゃんの体って手前、詠唱も出来なかったから本当に助かったよ。いや、意外と喃語とかクーイングとかでも詠唱できたりして……?


ううおえいお(土の精よ)あえいいああお(我に力を)あいああえ(貸したまえ)


 ……最後の言葉は言わないでおこう。

 頭上に魔力の集まりが見えてしまった。つまり、上手に発声していなくても詠唱は可能という事だ。このまま最後の魔法名を言ってしまえば天井にズドン、大穴を開けてフィアナに心配をかけてしまう。


 僕の父親が困る分にはどうでもいい。

 フィアナのような愛想の良くて綺麗な女性と結婚して子供もできたんだ。もっと言えば時々、変な声も夜間に聞こえてくるわけで……その分の不幸を味わって貰わないと気分が悪いからな。本気でぶん殴ってやりたくなるけど我慢しないと……。


 それで魔力は……霧散したか。

 ふう、一安心っと……まさか、上手くいくなんて思ってもいなかったからなぁ。ましてや、詠唱を極力短くしたにも関わらず成功したし。……これは魔力操作の影響なのかな。いやいや……。


 と、そんな事を考えている暇は無いか。

 今はさっさと魔力を使い切って気絶する事だけに集中しないと。既に隠蔽もかけたし気絶するには悪くない状態だ。後は魔力をどうやって消費するかだけど……今は土魔法と水魔法を徹底的に練習したいな。


 それができてようやく風魔法と火魔法だ。

 ここで火魔法を使うなんて正気の沙汰じゃないからな。やるのなら土魔法で不燃性の土台を作ってからだ。最悪は水魔法で消せばいいし……うーん、やっぱり、僕のプランに狂いは無いね。


 空いた窓の方に蒸気を作るイメージで魔法を出しておく。こうすれば湿気が高くなって苦しむ事も無いし、水浸しなんて失敗も防げる。徐々に意識が遠くなってきて……。


 うーん、慣れればこの感覚も悪くない。

 あー……駄目な大人になっちゃいそう……。

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