第15話 賢者、侵入者を裁く
遂に……遂に来てしまった……。
奈落十階層……僕が拠点を置いていたエリアだ。とは言っても、通常の森や渓谷があるエリアを抜けた先のボスエリア前に置いてあるから時間はかかりそうだが……気持ち的には悪くないな。奴隷を回収するためにも急いだ甲斐があったというものだ。
二週間半……計十八日でここまで来れた。
昔は階層ごとの調査が必要だったとはいえ、一年かけて十階層まで来たんだ。それにワイバーン一体でさえも倒すのに時間を弄したし……本当に強くなったものだな。奈落に入りたての時のトーマのステータスと今の僕のステータスは間違いなく大きな差があるだろうし……。
何より一番、怖いのはこれで成長途中という事。MPは努力を続けている結果、未だに伸び続けていて少し前に三十万を突破したし、HPでさえ五桁目に入っている。恐らくは戦闘経験を積んだことによるレベルアップも大きな要因だと思うが。
それでも……え、本当にってくらいには上がり幅がおかしくてビックリしている。転移者は普通の人よりもレベルが上がりやすくステータスの伸びも良い……それすらもダブルスコアどころじゃないレベルで勝っているのが今の僕だ。
適当につけた魔法禁止の枷があっても尚、余裕で進めているのもヤバいと思う。もう、何がどうとか語彙力が無くなるくらいにはマジでヤバい。まぁ、ここまで一月で来るとか決めていた僕もおかしな人か。少なくとも普通はそんな事を考えないよな。
それで……出てくる魔物も上の階層から変わらない、ただただ虐殺をするだけで面白みの無い戦いはいつ終わるのだろうか。せめてさ、吸血鬼のような存在が一体や二体くらい現れても良くない。どうしてブラックウルフとサンダーバード、ワイバーンが固定メンツで出てくるんだ。
……それもこの階層で終わりだけどさ。
それでも、こう目新しさというものが欲しくなってしまうよね。同じ階層という事もあって品質の良い薬草とかが手に入るのはありがたい限りではあるけれども……ゴブリンとかの最高進化であるキング種とかと戦いたいよ。素直に飽きた!
現れては斬って、現れては斬ってを繰り返す。
うーん、強いというのも面倒だねぇ……この階層だけ殲滅するのをやめようかな。単純に時間がかかるのは嫌だ。さっさと下の階層……いや、弱い者イジメは僕の主義に反するんだよ。それに久方振りに魔法を使いたいし……。
「……とはいえ、魔物の出が少し弱いか」
八階層に入ってからずっと思っていた事だ。
本来であれば魔物と戦闘を行えば第二、第三と新手が現れて連戦になる。七階層まではその通りに進んでいたんだけど……八階層からは明確に魔物が新手で出てこないんだよな。誰かに狩られているとかは考えたけど奈落で無双できる人なんて限られているし……。
正直、分からない。もしも、そんな強敵がいるのなら戦うか、仲間に引き入れたいところではあるけど敵対するのなら殺すだけだ。それだけの強さを誇る存在、人であっても魔物であってもその遺体は高価値だろう。
ワイバーンを首を刎ねる、ブラックウルフの首を刎ねる、ブラックウルフの首を刎ねる、薬草を採取する……うん、いつもより早いペースで進んでいるな。というか……。
「あれぇ……ついちまったぞ」
ここまでで八から十階層の魔物を簡単に殺せる存在の気配は感じなかった。では、ボスエリアの先の魔物が上がってきていたか……それは確実にないだろうな。
五階層事に置かれたボスは侵入者が中に入り次第、魔物として形成され始める。下の階層の魔物なら扉を開ける事ができないだろうからそれも無いな。
どこかに隠れている……十階層のボス部屋が開かれている様子も無い。これはアレか、僕の隠し部屋の中にいるとかなのかな。かけてあったはずの隠蔽が剥がれているから可能性としては高そうだね。
どうしてバレたと言いたいところだが軽い隠蔽しかかけていなかったから当たり前か。だってさ、ここまで来れる人なんて生前はいなかったんだもん。そりゃあ、警備も疎かになってしまうよね。……ただ、僕の大切な魔道具達を盗むというのであれば許しはしない。
全身に強化をかけて扉を開く。
今回は少しも手を抜いていない完全な強化だ。あの帝国騎士と同じくらいの強さはあるだろうから並大抵の敵には負けないはず。……というか、これで負けたら割とマジで焦るけどな。
「……おいおい、マジかよ」
「グルゥゥゥァァァッ!」
「ドラゴン、しかもワイバーンとかの比じゃないってか」
中にいたのは明確な龍だった。
ドラゴン、よく聞く属性ごとのドラゴンとは違う異質な何かだ。咆哮、足が軽く痺れる。咄嗟に空間魔法を放ってしまった。
飛んだのは十階層の渓谷付近。
僕の部屋で戦うのはゴメンだ。色々なものを壊されかねないし、しっかりと戦う事もできやしないからな。やるのなら楽しむ戦いをしたい。相手がドラゴンともなれば尚更だ。
「言葉は通じるのか」
「ギィャァァァ!」
「……分かりそうもないな。なら、倒して止めるしかないか」
仲間になる可能性を含めて倒す。
倒して従魔の契約に乗らなかったら殺すだけだ。ドラゴンの素材となれば高価値どころでは済まないからな。きっと良い武具を作れるだろう。後々は魔剣とかを作って戦力強化を測るつもりでもいたし。
空を飛ぼうとする、だが、それは許さない。
地面を強く蹴って一気に近付いた。即座にブレスを吐こうとしたが今からでは遅い。先出しで散弾刃を放っていたおかげで回避行動に移ってくれた。やはり、威力低下を踏まえてでも散弾刃にして正解だったな。
刃の八割を旋回のみで躱してしまった。
加えて一割を翼の風圧のみで消している……当たっても大きなダメージにはなっていないのを見るに近距離戦闘はやむ無しかな。いやいや、少しも興奮なんてしていませんよ。そんなドラゴンと車を見てhshsするようなララではありませんし。
「あまり傷付けたくは無いんだけど……翼が切れたくらいなら治せるから許してくれよ」
「ギッ……!」
「おいおい、そんな化け物を見る目はやめてくれよ。君の方がよっぽど化け物だろ」
空中を強く蹴って……近付く。
スキル名『空歩』、単純に十回だけ空を蹴れるというだけの力。でも、獲得方法は簡単だし、使い勝手も良いからナイフでの空中戦闘がてら獲得しておいた。やはり、こういうのは応用が利いて本当に良い。
近付いて翼を切って、少しだけ下がる。
龍族は翼を使って空を飛んでいるからな。だから、翼さえ傷付けてしまえば普段通りに飛ぶ事はできなくなる。……とはいえ、本気で切り落とそうと思ったのに付け根の四分の一くらいまでしか刃が通らなかったか。
コイツ、中々に防御力が高いぞ。
まぁ、デカい図体の割には素早いが僕の速度を圧倒するほどではないからな。心おきなく本気で殺しにいけるというもの……では、一度、地面に足をつけて空歩をゼロの状態にリセットして……。
もう一度、大きく飛んだ。
先程と同じくらいの速度、さすがに警戒していたのか尾で反撃を取ろうとするが……残念だな。空歩は何も足からじゃないといけないわけではないのだよ。
手から魔力を放出させて横に飛ぶ。
そのまま再度、足で勢いよく飛んでから剣を振るう構えを見せた。でも、これはブラフだ。次も同じ場所を切られれば本当に翼が落ちるかもしれない。それだけは避けたいともう片方の翼でガードの体勢を取るはず……。
その時に……顔面があいているんだよ。
もちろん、剣で斬るなんてことはしない。思いっきり、ぶん殴って暴れないようにシツケをするだけだ。僕の家に無断で侵入して何も無いというわけにはいかないだろう。
狙い通り顔面に本気の右フックを入れてから追撃で蹴り上げた。すごく痛そうだな……だが、容赦はしないぞ。これだけの存在ともなれば素材にするよりも従魔にした方がより多くの研究ができるしな。
では……続きだ……。
次は本当に翼を切り落としてやろう。もう既に地面には着地した。ドラゴンだって脳震盪でも起こしたのか、手足が震えている。もう少しだ、もう少しで仲間にできるかもしれないんだ。だから……。
「行くぞッ!」
「ま、まって!」
可愛らしい女の子の声が渓谷に響いた。
何故か良い感じに伸びていて……感謝です。
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