第14話 賢者、整備を開始する
バレディとの交渉から一週間が経過した。
先程まで奈落にいたが今日で五階層まで攻略し終えている。普通の人からすれば早いのだろうが、どこの階層も全ての魔物を殲滅させてから次の階層に進んでいるおかげでレベルの上がりが早い。それもあってペース面で特に困った事は無かった。
というか、四階層までは出てくる魔物に違いが無かったからな。五階層がボス階層だったから多少は時間がかかったけど吸血鬼が一体だからね。空間魔法を覚えていると言っても転移が使えるって程度で大して強くも無いし。個人的にはワイバーン五体と戦っている方が面倒臭いかな。
まぁ、あの吸血鬼が四体も現れたら確かに面倒ではあるかもしれない。一体でSSランクに指定されるようだから普通なら滅ぼされるのも当たり前だよなぁ。
だけどさ、何度か首を切ったら死ぬんだよ。それだったら別に苦戦する相手では無い。……光魔法か、回復魔法が使えたらもっと楽だったなとは思ったけどね。でも、それで倒したら遺体が残らないからどちらにせよ、剣で倒していただろうなぁ。
「いらっしゃいませ」
「私はネムと言う。寝具と調理器具、加えて塩と胡椒が欲しくてここに来た。軽く見繕って来てはくれないか」
「……分かりました」
ネムと言ったら目を細められた。
さすがに根回しはしてくれていたか。ここもバレディの配下の小売業店らしいからな。また僕に無礼な事をして自分の身が脅かされるのは恐ろしいのだろう。……悪いのはバレディでは無いのに可哀想だよね。
まぁ、こうやってしっかりとした対応をしてもらえるのなら悪くは無いな。店員も恐れを抱いてはいるが、それは力においての恐怖だろう。金に関しては持っている事もバレディから伝わっているだろうしな。
「ネム様、準備が整いました。ここより出て三箇所に各ご要望の商品を置かせていただいております。どうぞ、ご高覧ください」
「ふむ、分かった。では、近い場所から見ていく事としよう」
今日、ここに来たのは他でもない。
買った子供達が暮らせる空間を作るための準備をする。そのためだけに来ているのだが……うーん、迷ってしまうなぁ。
ぶっちゃけて言えば品揃えが良すぎる。
数分間で用意してもらったのに広い部屋に綺麗に並べられているのとか……どれだけ人件費がかかっているんだよ。いや、雑用係は奴隷かな。だとしたら、この仕事っぷりも納得がいくが……。
まずは……値段からだなぁ……。
一応、金なら少なからずある。大金貨が百枚弱とかいう一般市民からしたらビビる金額だ。それでも寝具の種類によっては軽く大金貨三十枚は飛ぶから気を付けて購入しなければいけない。
もっと言えば奴隷が使う用の寝具だ。
その子達のためとはいえ、あまり高い物を買い与える気は少しも無いな。出してもシングルベットが人数分だろうか。サイズからして大きくなったとしても問題は無いだろうが……素直に値段が高いな。
「……一気に買ったら安くなったりはするだろうか」
「幾つ購入するかによりますね」
「四十だな。もしも合わなければ三十八にする予定ではあったが」
奴隷用に一人一個、それと多めに買ったのは僕と今後のためだ。たくさんのヒロインを見つけてハーレムを築いていく。そのために準備をしておかないのはあまり宜しくないだろう。とはいえ、金の使い過ぎもよろしくないから減らしたりはするが。
「ベットのみで幾らまで出せますか」
「ベット四十個ならば大金貨四十枚、一個につき一枚程度の考えをしていた」
「それであれば……可能ですね。他にも購入していただけるのであれば多少の損は勘定できるでしょう」
なら……目に見えるシングルベットを四十購入しよう。どれも大金貨一枚以上という事もあってかなりの良い品だ。大金貨一枚で一億円くらいの価値がある。まぁ、ベットは大量生産できないところも踏まえて高値になっている部分もあるからなぁ。
要は四十億円をベットで使っているんだ。
これでどうして悪い品を買う羽目になると思う。ま、まぁ、それを奴隷一人一人に買い与えるのはあまり良くないかもしれないね。今度からは少しだけ考えて商品を買う事にしよう。……いや、というか、待てよ……?
一人一億のベットとか、よくよく考えたらおかしな話だよな。いや、この品の質に関して文句を言っているわけではない。ただ単純に僕が家で使っているようなベットとは明らかに華やかさが違うんだよ。
それに普通に考えて使い過ぎだとは思わないか。これが小金を持ったが故に起こる危険性、金があるから使ってもいいかみたいな考えになってしまう恐怖……おー、怖い。
一応、聞いてみるか。
「……これよりも質の低いベットはあるのか」
「あるにはありますが……あまり贈り物や貴方様が使われるには微妙な品かと」
「いや、使うのは私の奴隷達だ。もしも金貨で買える物があるのならばそちらを多く購入しようかと思ったのだよ」
冷や汗を流し始めたって事は……コイツ、金があるからと無理やり買わせようとしていたな。危ない危ない、あるのならもちろんだけど安いのを多く買うよ。
「この二人用のベットを一つ買おう。それと一人用のベットが三つ……後は金貨程度のベットを四十だな。できるか?」
「か、可能です……」
「では、そちらで頼む。しめて、大金貨十五枚だな」
ここで粗悪品を出すのならそれでいい。
そうなればバレディに「このお店は金貨一枚でこの程度の品しか出せないのだな」と伝えるだけで話は終わるからな。まぁ、個人的に何かをするつもりは無いよ。でも、知識の無い人を騙してまで金を取ろうとするのはどうかと思うなぁ。
ダブルベッドが大金貨五枚、シングルベットで大金貨二枚のを三つ、そして金貨一枚のベットが四十で大金貨十五枚……つまり十五億円だ。金貨一枚のベットでも高いと思うけど、これならまだ許容範囲内だ。
それにこれ以上のグレードダウンは目の前の店員との関係悪化にも繋がりかねないからな。いや、この人との関係が悪化しようとバレディに話をすればいいだけだから別にいいけどさ。でも、敵対する人は減らした方が楽でいいだろ。
「……金貨一枚となるとコチラです」
「ふむ、悪くないな。これならば奴隷達には十分なものであろう」
「さ、左様ですか」
残念だったな、思い通りにならなくて。
でも、ここまでしたら次に並ぶ商品にだって影響は出るよな。僕は金を出す物には多く出す。ただ減らせる部分では限りなくゼロにする。例えばだけど奴隷用のベットに疲労回復用のセラピー音楽とか必要あるか?
いや、そういうのを無くしたいわけではない。単純に奴隷の疲労回復なんて僕が魔法を使えば一発で解決するだろ。わざわざ、このような部分に金をかける理由が無いだけだ。僕が何とかできる部分があるのなら僕がすればいいだけだろ。
それにそういう蛇足的要素で十倍以上の値段にされてみろ。こっちはたまったもんじゃないって。新品で人が安心して寝れるようなベットだったら何でもいいんだよ。……お金はあればあるだけいい。仮に無駄遣いを覚えて結婚したらお嫁さんにビンタされてしまうからね。それはそれでご褒美ではあるけど。
「次は料理道具に関してですが……」
「おおー、これは良い物ばかりだな。実のところ料理ができる人は僕以外にいなくてね。全てとまではいかないが多く買わせてもらうよ」
「あ、ありがとうございます」
一気に値段が下がったな……いや、ベットと料理道具の値段を比べる方がおかしな話か。高くて大銀貨五枚とかだから割とリーズナブルで買いやすい物ばかりだ。それに説明に書かれている話も蛇足が無くて使いやすそうだし。
後は単純な料理に必要な魔道具達だ。
例えばコンロのような魔道具であったり、ポットのような魔道具であったり、冷蔵庫や冷凍庫のような魔道具だったり、ランプだったり……そういう物は確実に必要になるから買っておいてっと。
これだけあれば日常生活においては問題は起こらないだろう。ランプは多めに買ったのと、これらを動かすための魔石は魔物からたくさん取っているから問題が無い。オーガの魔石とかで一年は持つだろうしな。
最後に塩と胡椒、後は香辛料を少しだけ買っておいた。少しとは言っても合計で金貨一枚分、それだけ調味料が高いと言えばそれまでだが……ここら辺も後々に何とかしたいところではあるな。まぁ、僕が何とかできる部類の話だからルートの開拓次第か。
「さてと、良い取引であった。私はこれで帰らせていただこう」
「こ、こちらこそ……これだけの数を買っていただき光栄でございます」
バレディがくれた小袋に全部、入っちゃったもんなぁ。そりゃあ、驚きもするか。……というか、それだけの物をサラッと渡すバレディの神経も少しだけ分からないな。それだけ僕の事が怖かったとかだろうか……失敬な、僕の顔はこんなにも可愛らしいというのにさ。
はぁ、今日の疲れはフィアナの寝顔で癒そう。いつもよりも早く帰れる分だけ長く見れるな。……まぁ、横にいるアルがすごく邪魔ではあるけど我慢しよう。全ては我が癒しのため……。
ああ……早く彼女を作れる歳になりたいよ……。