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第13話 賢者、お願いをする

「こちらです。……数にして三十六人。まだ調教も終えていない存在がおりますがネム殿の望まれた子供達を連れて参りました」

「ふむ……助かる」

「滅相もございません」


 うーん、さっきの威圧は要らなかったか。

 そのせいで大袈裟に膝をついてきたし。誰もそこまでの事は望んでいないんだよなぁ。……ここまでされると僕は王様か何かと勘違いしてしまいそうになる。そのような輩になるつもりは少しも無いからな。


 とはいえ、このまま普通の体勢に戻れと言っても恐れを抱かれるだけだ。それなら今のような反応が普通だと思って並べられた奴隷を見ていく事にしよう。少しばかり気になる存在もいるからな。


 例えば……真ん中あたりにいる少女。


「ひっ……!」

「ふむ、悲鳴か。そうか、今の我は恐怖の対象足るものなのか」


 それとも……その傷のせいか。

 あの時よりも増えているな……少しの間に調教という名の下で人権すらも踏み躙られている。なるほど、本当にこの世界というのは日本とは似ても似つかないとつくづく分からされてしまう。


「え……」

「恐怖に耐えた礼だ」


 親に売られたであろう幼い子、その子にどうして悲しみを渡し続けられる。どのような理由があれど子供が苦しむ世界に正しさなどない。……それを一歳と少しの僕が言うのはどうかと思うけどな。


「……バレディ殿、どれだけの人数であれば、いただいても許される」

「はっ、この者達は売るにしても大した価値の無い者共です。欲しいと言うのであれば幾らでも譲りましょう」

「なるほど……それを踏まえた上で考える事にしよう」


 全員……というわけにはいかないか。

 助けたいという気持ちはあれど、それは本人の個性を理解した上での話だ。例えば仲間に迎え入れて裏切ってくるような人間を、そんな存在は連れて行く気も無い。そこら辺は少しばかり見抜く方法を知っている。


 いや……見抜く方法ではなく僕本来の力だ。

 転移者は転移する時に神から力を与えられる。多くて五つ、少なくて一つだ。そのどれもが扱い方によっては多くの人から求められるほどのチート能力だから。そして僕が手に入れた力は……魔眼、もっというと魂を見抜く力だ。


 相手の魂を、そして体の中を通る魔力の流れを見て敵の考えを読む……また魔力の色や流れる位置によって適正のある魔法やスキルも理解できるから本当に強い力だよ。ここら辺はスキルとは別の僕の魂に植え付けられた能力だから転生しても引き継がれたままだったのだろう。


 そして……いや、そっちは気にしなくていい。




 一番、端から見ていくとするか。

 この子は……いや、左から順に幼いのだろう。この子は明確に四歳になるかどうかの幼子だ。そんな子でさえも奴隷として生かされる世界というのが本当に怖い。


 才能は……水魔法、それと料理くらいか。

 近接戦での才能は無さそうだが素直な性格ではあるのだろう。少しも魂にくすみが無いから確実に欲しい存在ではある。食というのはどこまでいっても欠かせない大切な要素だ。


 次は……コイツは駄目だな。

 同じくらいの子のはずなのに既に目と魂がくすんでしまっている。復讐心から……だとしても、命を狙われる可能性を踏まえれば……いや、この復讐心は使えるか……?


「君は何を望む」

「……ボクを売った……ヒトを殺したい」

「そうか」


 復讐心の高さは扱いやすさでもある。

 そして……この子自信を成長させるための起爆剤ともなり得よう。こういう子ほど僕が望んでいた逸材だったのでは無いか。だって、この子の戦闘の際は間違いなく高い。いや、高いから売られてしまった可能性もある。


 三人目……あ、これは絶対に要らない。

 目で見てすぐ分かった。この子は全てに対して諦めを抱いている。それだけならまだいい。それが一周して自分以外を利用しようとする……魂も黒くなっていて確実に不必要だ。視線だけ向けて次の子へと進んでおいた。


 八人目、そこら辺で六歳頃の子供へと移った。十九人目で八歳頃、そこからは九歳か十歳頃の子供達だ。後半の五人は恐らく一応で連れてきた十二歳までの子供達……確かに欠損している者も数人だがいるな。


「まずは我の前に姿を見せた礼だ。君達の疲れや怪我を全て癒そう」


 全員に回復魔法をかけておいた。

 はぁ……あまりこういう態度は得意では無いのだけどな。本音を言えば普段通りの話し方をして将来の話とかをしたい。……でもさ、全員が全員、素直な良い子と言えるわけではない。中には僕の首を狙うかもしれない危険因子だって……あれ、それの何が怖いのだろう。


 そういう子を成長の段階で自分に追随するように教え込めばいいだけだ。それができてこそ、ようやく一人の賢者では無いのか。……ましてや、信頼できない相手であれば窓際へと向かわせればいいだけの事。


 仮に裏切られて恐ろしい相手か。

 あの騎士の少女……それと比べれば大した脅威は無い。そこまでの才能も無いからな。であれば、この子達への返答はただ一つ。






「我に従え。従うのであれば幾許かの自由を君達に与えよう。少なくとも他の者に買われるよりは幸せな子羊でいられるだろうな」


 僕が……この子達を最強の戦士に育てる。

 人によっては非戦闘員としてかもしれないが、それでも身を守れるだけの力を手に入れさせるつもりだ。そして……僕があげられる褒美なら渡してやらないとな。


「我の名はネームレス・ヒュポクレティ。孤高の賢者の生まれ変わりなり。我の手を取りたいと望む者は手を挙げよ。その全てを我は囲い込もう」


 一人、一人と手が挙がっていく。

 最初に挙げたのは回復魔法によって欠損した体を戻された者達だ。そして次に年上の五人と最初に話しかけた少女……最後に復讐心に駆られた子供だった。これで全員の手が上がった。きっと、もしかしたらという最後の希望に賭けたい子供が多いのだろう。


 だから、僕はこの子達を受け入れる。

 この子達が強くなって、僕の配下として動いてくれるように教え込む。……申し訳ないが必ずの幸福は与えられないだろう。だって、僕の奴隷になるという事は僕の意志によって未来が変わってしまう、言わば捨て駒の兵士だ。


「一月後、その時に我は子供達を回収しに来る。その前に何度か交渉をしに来るだろう」

「分かりました。その間にして欲しい事などはございますか」

「……この世界における基礎的な知識と常識を与えて欲しい。加えて指さす四人に商人としての基礎知識も与えておいていただけると助かる」


 バレディが少しだけ焦った顔を見せたが当たり前ではあるか。自身の立場を揺るがしに来るかもしれないと捉えかねない。……だが、そこまで予測していたとしても言わざるを得なかった。


 指をさしたのは最初の少女、五歳の男の子、年長組の男の子、最後に最年長の女の子の計四人だ。そのどれもが商人系のスキルに対して適性を持っている。


 商人という役割も後々、仲間から排出しなければいけないからな。それを見越して今のうちに育成してもらう。仮に駄目であれば元商人の奴隷とかを購入して鍛えてもらうだけだ。そこまで困る事も無いだろう。


「……専門的な部分は私の商売にも影響があるため教えられませんが、基礎知識であれば問題はありません」

「それは助かる。だが、くれぐれも過度なシツケはするなよ。それをするのは我であって加減を知らない者達では無い」

「人様に売る予定の奴隷に対して傷を付けるなどクビで済むわけもありません。そのような輩には我が愚かな従兄弟と同様にシツケを施して対処するまでです」


 そこまで言うのであればそうなのだろう。

 であれば、これ以上は詳しく頼み事をする必要も無い。だが、頼み事をするというのに無償というのは申し訳が無いな。


「この二つも譲ろう。奴隷に教育を施してくれる礼だ」

「ブラックウルフにサンダーバード……いやはや、感謝致します」

「気にするな。我とバレディ殿の仲であろう。この仲は大切にしていきたいのでね。これでも足りないと思うくらいだよ。それほどまでに教育というのは難しく、金のかかるものだ」


 大学卒業までに一千万程度はかかるらしいからな。まぁ、そこまで専門的な知識ではなくとも教えるのが難しい事はよく知っている。だから、ブラックウルフとサンダーバードを一体ずつ、まるまる渡したんだ。解体できる人がいるのであればワイバーンの翼とは比にならない金額になるだろうし。


「では、一つだけお教え下さい」

「なんだ」

「貴方は……ただの化け物なのですか。それとも神や悪魔の類なのですか。私にはその見分けが付かなかったのです」


 神か悪魔か……であれば、化け物だな。

 後者の二つであれば私はここまで苦労などしなかった。二人もの大切な存在を失わずに済んだと言うのに……いや、そんな悲観的な考えは後だ。それに別にただの後悔で終わった話でも無い。


「私はただの化け物だよ。むしろ、バレディ……お前の方がよっぽど悪魔では無いか」

「ご謙遜を……しかし、そのお言葉を褒め言葉としてこれからも仕事に励みましょう」

「本当に食えない奴だ」


 笑顔で返事をしたバレディに対して薄らと隠蔽を解く。軽く顔が見えるくらいだ。それも自分がイメージする賢者の時の顔でしかない。だが、見えたという事実だけでバレディからすれば安心できるだろう。


 バレディに手を差し伸ばし握手をしてから帰宅した。不思議と空には満天の星が輝いていた。

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