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第12話 賢者、強力なサポーターを手に入れる

 バレディウスは少しだけ思案げに俯いた。

 それもそうだよなぁ……明らかに利があり過ぎる話だ。そこに裏があると感じるのは間違いのない正常な思考だからな。だが、こちらとしては売る場所が欲しいだけで別に裏も何も無い。


「実のところ、私は表舞台に出る気は無いのです」

「……それはどうしてでしょうか。もしも、問題が無ければお教えいただきたいです」

「貴族の仲間にされるのは面白くないでしょう。冒険者は自由とよく言ったものですが……あれはただの飼い殺しだ。貴族や金のある商人に尾を振る飼い犬に過ぎない」


 と、少しだけ素の言い方が出てしまったな。

 だけど、この言葉に関してはバレディウスも上手い返しが見つからないだろう。だって、そこに関しては事実のはずだ。金さえ払えば何でもしてくれる意地汚い連中、内心ではそう小馬鹿にしていたのだろう。


「もちろん、貴方達を責める意図はありません。単純にそれらと一線を引きたいだけです」

「……申し訳ありません。確かに、そのように考える者も少なくは無いでしょう。私の考えが不足しておりました」

「お気になさらなさいでください。私は私なりの誇りで動いているだけです。バレディウス殿にもバレディウス殿なりの誇りがあって動いているのでしょう」


 バレディウスは何も言わずに首を縦に振った。ここでの発言は僕の地雷を踏みかねない、そう考えて何も口にせず首を振っているのだろう。相手側からしたら僕の一言一句が怖いはずだ。もっと、もっと怖がってくれ。


「ですが、少しだけ不快に思ったのも事実です。どうです、お互い素で話をするという事で手打ちにするというのは」

「……いいでしょう。腹の探り合いは苦手でね」

「我もそうだ。あのような堅苦しい言葉は大嫌いなのだよ。どうして我よりも弱い者に気を遣わなければいけないのか不思議で仕方がない」


 どうせならばより僕に恐れを抱かせる。

 少しだけ強めに威圧感をかけたが……ふむ、これを弱き体で耐え切るのか。Bランク程度の魔物なら一瞬で気を失わせられるものだったというのに……本気でかけてやった方が良かったかもしれないな。いや、今はそれよりも先に……。


「やるではないか。今のを耐えるとは思ってもいなかったぞ」

「……お褒め頂き光栄です。化け物級の強さとは考えていましたが、まさかここまでとは思いもしませんでした」

「褒められるのは悪い気はしない。だが、崩した話し方をすると言ったのに戻すとは……あまり良い気はしないぞ」


 ここら辺はただの引き付けるための脅迫。

 僕に有利な交渉はしたいが……別にバレディウスと仲違いしたいわけではない。先程の発言を是とするのならば堅苦しい言葉を使わせないようにした方が楽でいいからな。もっと言えば腹の探り合いをする気は無いと強調する意図もある。


 そこに気が付かない人ではあるまい。




「よろしく頼むよ……名も無き化け物よ」

「ネームレスだ。気軽にネムと呼べ」

「分かりました、ネム殿。では、私の事はバレディと呼んでくだされ。貴方に呼んでもらえるのなら名付けてもらった意味も出てくるというもの」


 なるほど……これは落ちたかもしれないな。

 我が手の内に落ちた……そう捉えても問題が無いほどにバレディの目には強い恐れが現れた。加えて圧倒的な力の差を感じたものの尊敬の念さえ浮かんでいる。この目は何度も見てきた。


 賢者だから、そう言って僕を持て囃して力を求めてきたんだ。そして助ければ使い捨ての道具のようにクーベル王国に売る……何度も信じて裏切られてきた。だから……今度はそうしない。


「それでどうしたい。今の力を見て我と契約を行うか否か。すぐに返答をいただきたい」

「もちろん、お願いしたい。隠し事をする気は無いので事実を並べるが……ネム殿と組めば確実に私の懐は大きく潤うだろう。拒否する理由などない」

「……契約は完了した。良いか、我を裏切ろうとはするなよ。代わりに我もバレディ殿を裏切ろうとはしない。言わば、蜜月の関係だ」


 ふむ、多少は冷や汗が減ったか。

 バレディが僕を裏切らないのなら、これ程までに嬉しい話は無いだろう。これだけの力を持つ存在と関わる事ができる、完全に敵になっていないという状況は喜ばしいはず。自分の害となれば手助けをしてくれるかもしれない、そう思えるだけで話は変わってくるだろう。


 これが僕なりのアメとムチだよ。

 それをバレディがどのように動くか……ああ、本当に今日は良い夜だよ。こうやって金に関する問題も一気に解決できたんだ。それも世界で一、二を争うほどのペネトレーター商会をバックにつけられた。Amaz〇nをサポーターにしたのと同じくらいの功績だよ。


「闇魔法も扱える……本当に化け物か」

「我の魔法は賢者にも負けぬからな。それに魔法に勝る力は無い。魔法が扱えてこそ、全てに対して圧倒的な強さを手に入れる」

「……それが世界最強に届いた人間の出した答えと。とても良い勉強になりますな」


 ようやく本物の笑顔を見せてくれたか。

 いやー、本当に話が早くて助かるよ。面倒な事も全て助けてくれて、こうやって僕に対して契約すらも結んでくれた。……くっくっく、少し大きくなったら金を使って皆にプレゼントでも贈ろうかな。アルにだって渡してもいい。そう思えるくらいには気分がいいな。


「よろしく頼むよ、バレディ殿」

「……こちらこそ、頼む。ネム殿」


 手を差し出したらしっかりと握り返してくれた。この握手がどれだけ重いものかは豪商ともなれば分からないわけが無い。……だからこそ、返してくれて本当にありがたく思えるよ。まぁ、闇魔法で契約をされた手前、無碍にはできないか。


「ネム殿、よろしければもう少しだけ、お時間をいただけますかな」

「なにかな。話によって返答を変えよう」

「それはありがたい。なに、簡単な事ですぞ」


 大きな深呼吸、意を決した様な目。

 そこまで仰々しい態度を取るという事は依頼でもしたいのかな。……夜のうちで報酬が良ければ許さなくは無いが、どれかが欠けていたら受けられない。リスクを犯してまで得られるものも特に無いし。


「お近付きの印に贈り物を渡したいと思ったまでですよ。ワイバーンの翼をいただいて何も返さないわけにはいきませぬ。もしも、外部に漏れたら体裁が保てませぬからな」

「……では、いただこう。折角であればバレディ殿に贈り物を考えていただきたい。豪商がいち市民にどのような物を贈るのか、興味があるのでね」


 うーん、冷や汗ダラダラだな。

 そりゃあ、そうか。下手な事を言ったり、よく分からない物を渡したら関係が壊れかねない。本当に興味で言っただけなんだけど……うん、さすがに意地悪が過ぎた。


「冗談だ。即座に答えられていたら考え無しと帰っていたところでな。そこまで悩んでいただけるとは良い交渉相手を手に入れたと再度、感じたよ」

「そ、そうでしたか!」

「ああ……そうだな。若い奴隷が欲しい。良かったら十歳未満の子供だな。欠損でも良いから一箇所に集めてはくれないか」


 これは後々、やろうとしていた事だ。

 今から始めるとしても悪くは無い。いや、今すぐには無理だが話をつけておいて困る事も無いからな。どうせ、報酬として渡したいと強く願うのなら僕が欲しいものを伝えた方が良い。それと……いや、それは話の進み次第か。


「わ、分かりました! おい! 今の条件に合う奴隷を解体部屋に集めろ! あそこなら全員を入れる事ができるはずだ!」

「感謝する」

「いえ、こちらもネム殿の喜ぶ贈り物が贈れるように思考を巡らせていました。ですので、教えていただけるととても助かりました」


 うーん、恐怖から敬語に戻ったねぇ。

 まぁ、舐められた態度を取られるよりは確実に良いか。帰り際にでも伝えておこう、探るような言い方はしなくていいって。

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