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第9話 賢者、暗躍する

 即座に剣を振って首を落とした後に蹴って次のワイバーンへと向かう。未だにデカい図体のせいで急旋回できていないようだからな。ものによっては地面に叩き付けられている奴だっている。


 ここまでは想定内、でも、その被害をより大きくしなければ意味が無い。だから、何体もワイバーンの首を切って落としているんだ。地面に叩き付けられた奴は簡単には起き上がれないからな。その上に何体ものワイバーンの雨を降らす。


 大きければ間違いなく驚異に思うだろう。軽く尾を振れば簡単に人間なんて殺せる……だが、それは弱い相手に限った話だ。ある程度の強さがある人からすれば大きさなんてデメリットにしかならない。


 だって、そうだろ。小さければ僕に足場にされる事は無かった。確かにワイバーンの強みは多くある。現に最初の段階でワイバーンの群れを足場にしなかったのは速度故だ。ただ速度を殺させてしまえば後は僕の思い通りの道具にしかならない。


 二体目、三体目……横への移動も難しくないから切って蹴るの単純作業でいいから楽でいい。恐らく九体目の首を切ったところで迫ってきたワイバーンがいたが……数は二体だけだ。上からも四体来ているが……。


「じゃあな」


 念の為に投げたナイフと位置を交換する。

 そして二度目の激突、今回は生き残りの大半がぶつかったから後は落ちるのを待つだけだ。それに運が良い事に先陣を走っていたサンダーバードの数体も巻き込まれたからな。……その間に傷を負っているワイバーンにトドメを指す。


 追ってくるサンダーバードがいるのならそれでいい。どうやら今のアイツらには得意の雷魔法を放つという考えは無いみたいだ。そこら辺は僕のナイフの脅威を考えてか……それとも群れの意思が撃たない方が良いと決めたか。


 どちらでもいい、撃ったとしても僕に当てるのなんて不可能だ。最初に傷を負わせた生き残りのワイバーンにナイフを投げる。その間に落としたワイバーンからナイフを戻してサンダーバードの群れにも投げておく。


 ブラックウルフからの追っ手は……来れるわけが無いよな。予想通り、大半が落とされたワイバーンの下敷きになっている。もちろん、全てとはいかないがワイバーンの雨が降り続ける限りは避け続けるしかないだろう。


「はろーあー」


 さっさと空中への一撃を持つ生き残りを狩る。

 追尾させてあるから……八本全てが五体のワイバーンに突き刺さっているな。真っ二つにしてから胴体を蹴り上げてサンダーバードの群れに向かう。その勢いのままナイフを投げて……僕は他のワイバーンの場所へと移動だ。


 二体、三体……五体目も殺し切った。

 さてと……次はクソ鳥だ。数は十五匹程度か。空中戦なら間違いなく不利だが……こうやって固まってくれているのなら話が早い。手に持つナイフを空中に固定してぶら下がってから……群れとは反対側の岩山へと投げ付ける。


 すぐに場所を移動してナイフを回収。

 少しだけ勢いを殺すのに時間はかかったが渓谷に落ちずに止まれた。さてと、ここからなら一気に殺せるよな。何も考えずに飛んでくる馬鹿共を一撃で吹き飛ばす。大量の魔力を流したが魔法を使わないのであれば問題の無い量だ。


 それを一振と共に弾き出す。


散弾刃(サンダンジン)


 一つの大きな斬撃が複数の斬撃に分かれる。

 後は斬撃に巻き込まれてサンダーバードが殲滅されるのを待つだけ……とはいかないよな。ナイフを地面へと向かって投げて下へと降りる。最後に倒すと言った犬コロの相手をしないといけない。


 まぁ、今までの戦闘で巻き込まれて数えられる量になってしまったが……全員で現れたのは少ない数では僕を倒せないと踏んでかな。いやー、探す手間が省けて楽でいいね。ナイフを全て回収して別事件へとしまってから……突っ込む。


 もうコイツら如きに警戒する理由は無い。

 ただ近くにいる奴らを狩り尽くすだけだ。割と殲滅に時間がかかってしまったからな。今日中にしたかった事ができなくなってしまうのは避けたいんだ。それこそ、夜にしかできない事でもあるからな。


「一気に来いよ! 獣之咆哮ッ!」


 向かってくるのを狩って狩って狩り尽くす。

 呆気の無いものだ。奈落に来てすぐの時は苦戦していたはずのブラックウルフが、ワイバーンが、サンダーバードが……どれもが今の僕には雑魚でしかなくなってしまっている。これだけの存在がただの素材の山にしか見えないんだ。


 気持ちいい、屠る事で得られる快楽が。

 だって、そうだろ。この優越感、誰よりも優っているという事実が、今の僕を楽しませてしまうんだ。もしかしたら、本当の僕は強敵を求めていただけなのかもしれない。奈落攻略後に死を願ったのは奈落よりも強い敵がいないと思っていたからだったのだろう。


 あの化け物みたいな騎士がいたというのに。

 ……はぁ、そんな勘違いももう終わりだ。これを倒せば周囲に魔物がいなくなってしまう。それと共に僕は本来の僕へと戻っていくんだ。一振、強さではなく美しさだけを求めた一撃をブラックウルフにぶつける。


 血飛沫……ああ、真っ赤だ。

 今の僕は血だらけ……だけど、どこにも怪我なんて無い。全て敵の血で赤く染ってしまっただけ。だけど……あまり気分の良いものではないな。昔はあれだけ快感に覚えていたものが、ここまで吐き気のする感覚に変貌するのか。……いや、いいさ。敵は狩り尽くしたんだ。後は二階層に続く階段へ向かおう。


 十五分くらいかけて階段に到着した。

 本来なら一階層のマップもあるから時間もかからない予定だったが、思いのほか良い薬草とかが多くあったせいで遅れてしまったんだ。まぁ、そのどれもが魔力が多く漂う空間でしか手に入らない物ばかりだったからな。後悔は少しもない。


 重厚そうな三メートルほどの石扉を開ける。

 その先に続くのは下へと続く階段だ。その階段を降りてすぐに魔法陣が設置されてある。それの上に立って魔力を通して外へ出た。出た場所は奈落を入ってすぐの入口付近だ。


 この魔法陣がポータルと呼ばれるもの。

 簡単に階層を行き来できる代物だが……同じものを書いても効力を発揮しないから誰も転用できていない。恐らくだけどダンジョンがポータルを稼働させるスキルを持っていると予想している。まぁ、自分用のダンジョンがあるわけじゃないから正解かは分からないけど。


 って事で、このまま転移で移動だ。

 本来は座標とかを指定しなければいけないけれど今回の場合はマウスがいるから問題無い。マウスの場所に向かって転移を発動させる、ダンジョンに来るのと同じだから失敗はしないだろう。マウスの周囲に人がいない事も確認済み。


「……おいしょっと、潜入成功」


 転移先は王都、つまり王国の中心都市だ。

 夜も遅いというのに少し先の大通りでは人声が絶えず聞こえてくる。ここら辺はリーフォン家の村とは大違いだな。あそこは夜になればカエルやコオロギの鳴き声しか聞こえないというのに……まぁ、嘘だけど。


 この世界のカエルとかコオロギなんて大きくて強いとかいう最悪な存在だ。Eランク程度の、下から二番目の魔物とはいえ、そいつらに村が滅ぼされた事案とかも少なくないらしいし。


 それでここに来た理由だけど……おっと。




「おら! 早く来いや!」

「嫌っ! 誰か助けて! 誰か!」

「誰も来ねぇよ! お前の親はお前を売ったんだからな!」


 ……うーん、異世界ならではの景色だ事。

 今、見た子って十歳にも満たなさそうだけどな。そんな何も知らなさそうな無垢な子を売るって親は青い血でも流れているのか。僕の実家族でさえ、そこまでは酷くなかったぞ。……それで助けない僕も僕か。


 さてと、さっさと仕事を終わらせて帰ろ。

 この気分の悪さはフィアナの笑顔を見て潤すんだ。フィーナもいれば最高だね。……という事で、裏道でも通りながら向かいますか。表通りを歩いたら酔っ払いに絡まれかねないし。

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