表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/59

第19話 賢者、馬子とサヨウナラする

 合計きっかり四十五秒。

 それでもコイツからしたら永遠に思える程に痛みを植え付けられただろう。その後に死んでしまったとなると無念で仕方が無かっただろうな。まぁ、僕からしたらどうでもいい話だが。


「……三秒の遅刻よ」

「すまないね、寂しい思いをさせて」

「仕方ないかしら。私のせいだから」


 ほう、ここに来て認めますか。

 つまり、これは彼女なりのデレかな。いやはや、少し時間はかかったが綺麗な少女のツンデレというのは悪くないね。話さなければ本当にお人形さんと間違えるくらいには可愛いからな。


 将来はお兄ちゃんのお嫁さんになる!

 そんな事でも言ってくれたらどれだけ嬉しいか。いや、やっぱり、却下で。どれだけ可愛くてもじゃじゃ馬子が相手だと面倒事しか寄ってこなさそうだ。あ、もちろん、体だけなら幾らでも欲しいですよ、うん。


 幼女の体を求める爺、我ながら気持ち悪いな。


「それにしても本当に強いのね」

「そうでも無ければ拠点に攻め入ろうなどとは思うまい。ましてや、ここに来たのも暇潰しでしかないからな」

「……でも、そのおかげで皆の無念が晴れたわ。その……ありがとう」


 そうか、伯爵家の兵士が殺されたんだもんな。そりゃあ、幾らか無念にだって思うだろう。自分を守るために命を懸けて戦ってくれた人達がいたのなら尚更だ。……やはり、この子は割と普通の感性を持っているよ。


 というか……聞き間違いじゃなければ……。




「感謝、できたんだな」

「失礼ね! 命まで助けてくれたのに感謝しないわけがないでしょ! それこそ、貴族として恥晒しよ!」

「何が恥なのかわかったものでは無いな」


 頬を赤くしながらそっぽを向くって……本当にツンデレか何かなのか。いやいや、ツンデレなら金髪ドリルの御令嬢だと何回言えば……って、別に可愛さなら同じくらいだしいいや。


「だが、良いのか、我は化け物かもしれぬぞ」

「化け物ならせめて化け物としての姿を見せてから口にするべきね。今の貴方じゃ良くてカッコイイ英雄にしかならないわよ」

「……口だけは達者だな」


 意地悪を言ったのにやり返されるとは。

 くそ、こっちの方が恥ずかしくなってきたぞ。顔も見せていないというのにカッコイイ英雄とか、殺すって明言しているのにカッコイイ英雄とか、嫌な事ばかりしているのにカッコイイ英雄とか、吊り橋効果で脳ミソが支配されちゃったんじゃないのか。


「決めたわ、貴方は強いから私のお嫁さんにしてあげる」

「それを言うならお婿さんだな。……まぁ、馬鹿の婿になる気は無いが」

「馬鹿!? 私の事を馬鹿って言った!?」


 おお、その姿は可愛いぞ。

 怒って目を釣り上げている癖に頬は大きく膨らませている。突っついたらどんな反応をするのだろうか……こういう時に年頃の表情を見せられると少しだけ来るものがあるな。これを助けなかったら見れなかったと思うと……うむ、悪くない。


「な、何するのよ」

「すまない、可愛くて触ってしまった」

「可愛い……ふん! 分かればいいのよ!」


 と、言う割には嬉しそうにするな。

 え、本当に僕を婿にしたいの。マジで言っているとか思っていなかったんだけど……うーん、でも、僕にはフィアナとイリーナがいるからやっぱり駄目だ。それに貴族の仲間になるつもりも無いからな。


「……我は身分が低い。貴族の君とは確実に生涯を共にはできぬだろうな」

「別に身分なんてどうでもいいわ。私はね、媚びたくないの。私が見て面白いかどうかで対応を変える。貴方は見ていて面白いと思ったから一緒になりたいと思ったまでよ」

「ふむ、それはさぞかし、周りから好まれぬ性格だろうな」

「それで文句を言う人間はそれまでよ。人を見切れない人間が人の上に立つ資格などないわ」


 なるほど、そういう考えは嫌いじゃない。

 だけど、それを誰も彼もが理解してくれるとは限らないからな。部屋の奥にある宝の山に手をつけて全て回収する。別に敵を倒したら勝手に死体が消えるし、さっきだって転移を見せたんだ。今更、馬子の前で隠す必要も無いだろう。


「……それに強い人を味方に引き入れれば将来的にも上手く事が運べるかしら。だから、貴方なら私を一生助けさせてあげてもいいと思ったのよ」

「遠回しでウザったいな。だから、馬子なんだ」

「誰が馬子よ! だ! れ! が!」


 空間魔法を見てからハッとした顔をしていた。

 はぁ……思い出したかのようにそれを言わないで欲しいね。本来なら僕の強さを見て仲間にしようとするんだ。まぁ、そういうところが無かったら恐らく好感を持っていなかったと思うけど。


「ふっふーん、私の可愛さに恐れ戦いたかしら」

「可愛いとは思うが我の母に比べれば大した事が無いな。母並に美しい女性以外には興味が無いんだ」

「ぷーくすくす、貴方ってマザコンって言うやつなのね! 通りで私に靡かないわけよ!」


 呆れて顔を見ていただけだと言うのに……。

 というか、貴様、今、僕の地雷を踏んだな。フィアナを綺麗だと言って何が悪い。本当に世界三大美女、いや、世界一位の美しさがあると言っても過言では無いんだぞ。それが仮にマザコンだと言われるのなら……。


「あ? マザコンで何が悪い?」

「あぅ……いえ……何も悪くありません」

「口を慎め。折角、興味を持ち始めていたのに興味が失せていくではないか」


 おい、今の発言で喜んでいるんじゃないよ。

 えっ、それってとか小さな声で言っているけど聞こえているんだよ。いや、確かに好意的な考えが少しも無いわけではない。むしろ、割とマシな方だと思ってはいるけど……我、赤ちゃんぞ。そういう話はまだ早い。


「という事で、これで我の目的は終わった。馬子は勝手に帰れ。我も拠点に戻らせてもらう」

「誰が……って、家まで送ってくれないの」

「面倒な事は嫌いなのでな。貴族連中から嫌味を言われるのも好ましくない。ならば、これで分かれる方が我としては楽でいい」


 もっと言えばイリーナが起きる前に帰りたいっていう考えもある。まだ一時間は起きなさそうとはいえ、早く帰れればそれだけ長い時間、イリーナの寝顔を見ていられるわけで……そこを踏まえれば馬子を相手にしている暇は無いのだよ。


「……どうすれば助けてくれるの」

「あー……我の事を対等に扱え。そして……その先は言わずとも分かるだろう?」

「伯爵家の娘に対して……でも、いいわ。貴方以外に助けてくれる人なんていなさそうだし」


 汚れた服を下から捲って生脚を見せて……。




「私の体を自由にしていいから」

「おい、それはどうでもいい。というか、要らない」

「え……違うの……?」


 それなわけが無いだろ。

 何が悲しくて幼女に体を求めるんだ。いや、確かにマザコン気質かもしれないけどロリコンでは決して無いぞ。可愛いとかの感情は抱くが馬子に見い出すのは将来性であって、今の状態でエッチな事をしたいと思うほど落ちぶれてはいない。


「はぁ、一言あるのでは無いかと言っているだけだ。別に見返りは求めていない」

「そう……それなら……助けてください……」

「仕方が無いな。その代わり面倒事は起こすな。これから起こる事も他の人に話すな」

「うっ……わ、分かったわ」

「なら、契約成立だ」


 ふむ、思ったよりも上手くいってくれた。

 元より御令嬢様を一人で返そうなどとは思っていないさ。だって、ここからだとかなりの距離だからな。帰り際に襲われかねないし、仮に襲われなかったとしても歩いて帰るなんて無理だ。確実に死んでしまう。


「まさか……闇魔法?」

「おー、意外と物知りなんだな。そうだ、助ける代わりに僕の事は誰にも話さないって契約を成立させたんだ」

「……そう、本当に規格外なのね」

「そりゃどうも」


 契約を勝手に結んだのに嫌な顔はしないんだな。というか、小声で「繋がり」とか口にして喜ばないで欲しいんだけど。え、この子ってドMかなにかなの。契約とかいう最悪な繋がりでもあったら喜ぶような子なんですか。……その歳でドMって絶対に苦労するだろうなぁ。


「助けるからには名前を教えろ」

「私はララ・ド・ロレーヌよ。可愛い名前でしょ! それで貴方は?」

「……ネームレス・ヒュポクレティ」

「長いわね! ネムさんって呼ぶわ!」


 な……折角、カッコイイ名前にしたのに……。

 訳して無名の偽善者、うーん、我ながら良い名前だと思うよ。我の名前はネームレス・ヒュポクレティ……このカッコ良さが分からないとはね。だから、女児というものは嫌いなんだ。


 それにしてもロレーヌ家ね……これまたデカい家の少女だ事。確か僕が転移してきた時には公爵家だったはずだ。数十年程度で衰えるとは思えない事を踏まえると……ロレーヌ家の分家とかか。


 いや、だとしても、大きな家には代わりない。

 まぁ、だから、なんだという話ではあるが。どんな家柄だろうとクソガキには変わりないから適当に流して後は放置だ。助けてあげるのだって放置して勝手に死なれたらアルに迷惑がかかる可能性もある。……まぁ、多少は顔が綺麗だからって言うのはあるけど。


「うん? 見つめてどうしたの?」

「黙っていれば愛らしいなと思っただけだ」

「えーと……あ、ありがとう」


 うん、駄目だ、この子。

 吊り橋効果で頭の構造が変化してしまったんだ。さっきまでのじゃじゃ馬子はいない。クラスアップしてララになってしまったんだ。バイバイ、馬子。君の事は覚えている限り忘れないよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ