第17話 賢者、闘争を求める
少女を解放してから五分程度が経った。
ようやく粗方の場所は探し回り、一箇所を残すだけになっている。その場所はもちろん最奥、盗賊の頭がいるであろう付近だ。
気分としては割と良い方ではある。
それもそうだ、少女を守っていた二人でさえ、僕の魔法を耐えてきたからな。頭ともなればより強い存在と相場が決まっている。あの時は二人にハンデをあげたというのに簡単に隙を晒すしで楽しさは少ししか感じられなかったんだ。
きっと、頭ともなればもっと楽しめる。
三人ばかり女を囲っているようだが……まぁ、それもご愛嬌だ。どちらにせよ、盗賊に与する時点で殺す事は確定している。さすがに少女に見せるのはあまり好ましくないけど。
「ここで待っていろ」
「……私が言う事を聞くとでも」
「……見たいなら見ていいが年齢からして早いと思うけどな」
とはいえ、知識はあるのか。
いや、知識があるのかよ。そうじゃないと僕の発言で頬を赤くしたりしないよな。え、今の幼稚園児ってエッチな知識も持っているのか。赤ちゃんがどうやってできるかって聞いたらコウノトリなんて可愛い返答は来ないって事かよ。
はぁ……少しだけ悲しくなってしまった。
女の子ってもっと純粋なイメージがあったんだけどな。……いや、それはただ単に僕が処女厨なだけかもしれない。どうであろうといいでは無いか。僕が好きだと思える女性であれば綺麗であろうが汚かろうがどうでもいい。
「それでも見たい。私を誘拐した相手の顔くらいは覚えておかないといけないから」
「……分かったよ。僕が入ってから少しして入ってこい。出入口は使えるようにしておくし、その間に大人の時間は潰しておく」
えー、何で少し残念そうなの。
見たいの……いや、この年で見せるのはさすがにまだ早いと言いますか……というか、もっと幼い僕にはより早い情景でもあるからね。赤さんに行為を見せますかって話ですよ。中身は良い感じに熟したジジイではあるけれども。
「これが最大の譲歩だ」
「……仕方ないわね。貴方しか頼れる人がいなさそうだし許すわ」
何という上から目線、すごくイラッとくる。
分かった、このこの名前はじゃじゃ馬子としておこう。もちろん、口にしたら面倒臭そうだから僕の中での話だ。じゃじゃ馬子はエッチな事が大好きな思春期男子のような女の子……いやいや、女の子というか幼女だな。
「なにか失礼な事を考えていない」
「いーや、全然。可愛いなとしか思っていないな」
「あら、人殺しでもマトモな感性は持っているのね」
皮肉に対して皮肉で返してくる。
うーん、やはり貴族の子。そういうところではしっかり教育が行き届いているんだな。いや、むしろ、遺伝の可能性すらある。誰が人殺しだとキレてやってもいいが……それはそれでしてやられた感じがして嫌だな。
何というか、どの選択肢を取っても負けのような気がしてしまう。コイツ、意外と僕の事が好きなんじゃないか。そうでもなければ僕をここまでコロコロと手の平で動かしたりできないだろ。……と、女の子との関わりのなかった僕が言ってみたりして。
「誰が勘違い野郎だ」
「……誰も言っていないわよ」
「じゃじゃ馬子が続けそうな言葉を予想して口にした迄だ」
と、ツッコミが漏れてしまったか。
まぁ、いい。頭の中で計算したじゃじゃ馬子の言葉に適した返しがさっきのそれだ。そこに関しては事実、偽りの無いものなのだから特に何かを言う必要は無いだろう。……ただ、じゃじゃ馬子の表情を見て思ったが一つ失敗をしたな。
「ふーん……って、誰がじゃじゃ馬子よ! 私はじゃじゃ馬なんかじゃ!」
「じゃじゃじゃじゃうるさいな! 分かったよ! じゃあ、行ってくるからな! 馬子!」
「誰が馬子よ!?」
もう面倒臭いから馬子を置いて中に入る。
未だに行為中のようだが……まぁ、さっさと戦闘態勢を整えてもらおうか。魔法を使ったところで筋魔反転のせいで大した一撃は見込めない。それなら……。
「……はぁ?」
「随分と余裕そうだな」
「くっそ……!」
おー、すごいすごい。
咄嗟の反応で僕の剣を流し切るなんて大した技術力だよ。これなら先程まで繋がっていた首無しちゃんも地獄で喜んでくれるね。さてと……次はもう一人の女盗賊だ。
「君は邪魔だ」
「え……?」
「……化け物かよ」
一瞬だけ筋魔反転を解いただけですよ。
さながら今の僕の顔はデスビームでも撃ちそうな感じなんだろうな。我の戦闘力は五十三万……どうせ言っても通じないしやめておこう。今は一人の強敵と戦える事を喜ばないといけない。
「安心してくれたまえ。我は君と遊びたいんだ。我の得意な魔法は使わないでおいであげよう」
「……使わなくても余裕ってか。ふざけんじゃねぇよ。顔も見せねぇ、ゴミが」
「盗賊をやっている君がゴミと言うか。低脳でも冗談の一つは言えるみたいだね」
おっ、一気に距離を詰めてきてくれた。
でも、既に筋魔反転を発動させている。だから、そう易々と力負けしたりはしない。……しないが想像以上だな。魔法の練習のおかげで高いはずの魔力攻撃でさえ負けかける程の力か。
面白い、本当に面白いよ。
奈落に初めて足を運んだ時のようだ。勝てるかどうか分からない状態で、勝つための戦い方だけを考え続ける。今も同じくらい集中しなければ負けられるくらいの強敵だ。あぁ、本当に楽しくて楽しくて楽しみだよ。
「その剣は……ギランに渡した奴か」
「ギランは誰か知らないが殺した盗賊が持っていた物には変わりないな」
「ふざけんなッ! アイツは誰よりも仲間思いな良い奴だったんだぞッ!」
お、もっと早くなったぞ。
いいねいいね、これは気を抜いたら一撃を貰ってしまいそうだ。圧倒的な速度の差を対応できているのはただの技術の差だ。やはり基礎、基礎ができていれば如何様にも次の一手へと繋げられる。
「その程度かな。だとしたら、つまらないのだが」
「ふん、防戦一方な奴が何を言う。仲間を殺した代償は払ってもらうぞ」
「そうかそうか、あんなにも頭の回らない無能でも仲間なんだな」
怒れ怒れ、そしてもっと早くしろ。
命を燃やせ、僕に対しての憎しみで勝つための要素を探れ。楽しませて欲しい。死の淵を見せるだけの力を教えて欲しいんだ。……ヴァンレベルを望んだりはしない。せめて、奈落の時のような楽しみを味合わせてくれ。
全身全霊を持って、本気のお前を殺そう。
今でさえ、勝機が見い出せない僕をより楽しませる戦いを、闘争を味わおうじゃないか。それだけの才能があると僕は信じているよ。だって、盗賊の頭なんだろ。強くなかったら意味が無い。
「どうした。その程度か」
「何でだよ……何で一撃も当てられねぇ!」
「単純な技術力の差だ。安心しろ、お前は弱くは無い。人の中では上位に入る強さだと我が認めてやろう」
それに関しては事実だからな。
鍛錬次第では奈落の三階層までは行けるのではないか。これは大した事が無さそうで意外とすごい事らしいからな。昔はよく言われていたが僕目線で色々な事を判断すると非常識的な答えが出てしまうらしい。だから、認めるところは認めてやらないと。
剣術スキルがある盗賊と本当の技術という名の知識を持つ僕……これで渡り合えているという事は、つまりスキルは補正をかけるのに過ぎないという事だ。あって困りはしないが無くても対応自体は幾らでもできる。
頭の剣を流して腹を蹴り上げた。
そのまま一旦、大きく下がって深呼吸をする。どんな時にも冷静に、闘争を楽しむのは良いが自分を忘れては全てが無意味と化す。僕がしたいのは楽しみながら技術力を高める事だ。強い相手と長時間戦えばスキルだって獲得しやすいからな。
元の技術に剣術スキルの補正がかかったら……ああ、想像しただけでワクワクしてしまう。だから、もっと楽しませてくれ。
「さぁ、二回戦目だ。もっと楽しませてくれ」
「ああ、次は殺してやるよ」
瞬き、その間に目の前へ剣が迫っていた。




