第11話 賢者、圧倒する
一先ず、目の前に土壁を作り出して防いでから一気に横へ飛ぶ。とはいえ、筋力で動き回る事はできないから全て風魔法任せだ。こういうところで風魔法の有用性を強く理解させられる。
だが……ここは場所が悪いな。
アイスウルフのランクはC、一見すると高い数値に感じるがそれは違う。別にステータスが高いからランクが高いのでは無く、圧倒的な物理防御と氷魔法の連撃の強さ故にCにいるんだ。ステータスだけで見ればEが妥当だろう。
唯一の弱点は火魔法か炎魔法。
でも、それをここで撃ち込むわけにはいかないからなぁ。村人にバレるとか以前にアイスウルフが逃げ出して村に行く可能性もある。それに燃やし尽くす戦い方はアイスウルフの素材すらも壊す事になるし……。
だから、色々と考えて殺し切る。
まずはアイスウルフの強みの一つを潰させてもらおう。こういう時に突撃するのは愚策……やるとすれば魔法の準備を行っている間。その行動に移るまでは一度、守りに徹する。
アイスウルフの攻撃は単調。そこら辺は戦ったから分かっている。というか、奈落の低階層では高レベルのアイスウルフが出てきたから分かるどころの話では無いんだよなぁ。
アイスウルフの攻撃は爪か牙、魔法の場合は準備がかかるから即座には放てない。まぁ、どれも今の僕には即死に近い一撃なのは間違いない。だから、何をするかと言うと……足を奪う。
「ガルゥ……?」
土壌変化だっけか。
自分で作った魔法の手前、あまり魔法名とかは覚えていないんだよなぁ。でも、イメージだったり効果だったりはしっかり頭の中に入っている。簡単に言えば土魔法の応用で地面の性質を変える魔法だ。
そして今は地面を泥沼に変えた。
これの何がいいかって……僕は風魔法で少しだけ浮いているんだよね。だから、僕には地面の変化による影響はなくてアイスウルフには足を取られる地面がネックになる。もしも、目の前のアイスウルフの思考が奈落の時と同じなら……。
やっぱりか、木を地面替わりにするよな。
そこは予想の範囲内、既に対策は取ってある。というか、そうしてもらわないと僕の方が困ってしまうよ。今、敵が取れる攻撃手段は限りなく絞られたんだ。木を使わなければ僕に迫る事ができない……そのアドバンテージを活かす。
地面、空中を飛んでの攻撃は無い。
あるとしても空中から空中への一撃のみだ。もっと言えば連撃だって地面の都合上、行い辛いとなると圧倒的有利なのは僕。そして、それだけの時間をくれると言うのなら僕の勝ちは揺るがない。
「ガッ!?」
お前は木を使わないと迫れない。
要はさ、木を切ればいいんだろ。めちゃくちゃ、普通で当たり前の考え方だ。そうなってしまえば沼に足が取られる前に行動に移すはずだ。
「グルゥゥァァァ!」
足元を凍らせるための行動を、ね。
だから、そこをつけばいい。まずは闇魔法をぶつけて耐性を低下させる。ここで気を付けなければいけないのは僕の真意がバレないようにする事。だが、氷魔法を使ってしまった点と闇魔法を当てられた時点で詰んでいる。
「ガァッ!」
威勢だけはいいな……いや、気が付いていなかったからか。まぁ、そこら辺まで考えられていたのなら僕の勝ちは無かっただろうからなぁ。
さて、跳ぼうとして跳べない気分はどうだい。
本当なら話しかけてゆっくりと近付きたいところだが死ぬのは怖いからね。こうやって……自分の氷で足が固まって動けない間に殺し切ってしまおう。
「風刃」
お、上手く発音できたな!
それもあってか、イメージ通り風の刃が十二本飛んでアイスウルフの首を落とせたし。……いや、全くもって関係が無いんだけどね。そこら辺は過去の詠唱で学んでいる。上手く発音できていなくても魔力さえあれば同威力程度の魔法は放てるってさ。
さぁて、アイスウルフの解体は人形に任せるか。一体だけ保管用の人形がいるからそこにアイスウルフの遺体を仕舞えば……それでは肉とかが腐る可能性もあるな。ああ、でも、それはアイスウルフのコアを利用すれば何とかなるじゃないか。
やっぱり、風魔法は利用価値が高い。
毛皮の間の毛穴から風を送り込んで内部の構造がある程度、掴めるからな。こういうのを利用すれば簡単にコアの位置が分かる。特に知識はあっても素材を無駄にしたくない今みたいな時には有用性が高過ぎるよ。
「お、きあか」
うん、上手く発音はできませんっと。
そこら辺は家でもできるから別にいいか。これもまた一つの愛嬌よ。可愛らしさがあれば皆からより多くの愛情を貰えるからね。それに美しいお姉さんからも可愛がって貰える可能性が……。
と、そんな事は家に帰ってから考えよう。
タイミング良く森に出ていた戦闘用の人形と保管用の人形が来たからな。さっさとアイスウルフのコアに命令を書き込んで……それを保管用の方にはめこんだ。これで冷凍庫としての使い方もできるようになったわけだ。
それとは別にアイスウルフの爪を一本だけ折っておいて……おし、これで今日の仕事は終わりでいいかな。後は帰ってイリーナの寝顔を……とは、いかないか。
本当にこういう時のために人形を作っておいて良かったよ。急いで帰って次の戦闘の準備だ。……マウス達の伝達曰く、不穏な存在が下水道を通って家に迫っているらしい。その数、八人。
楽観的な考えは少しもしていない。
恐らくその八人は盗賊だ。僕の実家は田舎の名誉貴族だとはいえ、金自体は持っている方だからな。それに家には僕が眠らせてしまったイリーナだっている。だから、本気で潰してあげないといけない。
誰に喧嘩を売ったのか、理解させないとな。