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賢者の転生

 僕の名前はトーマ、俗に言う異世界人である。

 この世界に転移してきたのは何十年と前だ。それこそ、よくある勇者召喚に巻き込まれて連れて来られた。最初は同じ学校のクラスメイトだった勇者達とも仲良くしていたが、それは徐々に崩れていったんだ。


「無能は要らない」


 ハッキリと彼らはそう口にした。

 当時でさえ、珍しく有用であった空間魔法使いの僕の首を切った勇者達は迷走したらしい。それもそうだろう、自慢では無いが僕のおかげで後方からの状況整理が上手くいっていたし、何より荷物運びとかが僕一人で事足りた。新しく仲間を集ったらしいが上手くいかなかったと聞いている。


 それもそうだ、何せアイツらは傲慢だった。

 僕が弱いと罵るだけで何を助けて貰っていたのかも理解しようとしなかったからね。魔法の援護も汚いやり方だのなんだのと否定するばかり……そんな人達と一緒にやっていける人の方がいないだろ。


 対して僕は一人になった。

 念願の自由な世界、勇者召喚を行ったクーベル王国が口封じのために暗殺者を放ったりとかはあったけど……まぁ、特に問題も無く暮らす事ができた。ただ、そのせいで仲間を作る事はできなかったし、表舞台で生きる事もできなかったからダンジョンの中で暮らす事になったけど。


「二百九十九階層、攻略」


 僕の人生の大半をかけてこれだ。

 僕が根城にしているダンジョン、『奈落』はこの世界において最高難易度のダンジョンの一つとされている。数百年の歴史があるダンジョンでありながら誰も攻略ができなかった。だからこそ、僕は人生を賭けて攻略したいと思えたんだ。


 仲間もいない、表にも出れない……ならばこそ、何かしらの功績を作ってから死にたい。そんな僕の小さなワガママだった。だけど、それももう少しで終わる。僕の死期が迫っているのは間違いない。ただ、それと同様に奈落の底も見えてきた。


 僕は知っていた。魔法で偵察部隊、通称『ドローン』で最下層が三百階であると先に理解してから攻略を進めてきたんだ。僕も既に八十……五だったかな。全盛期程の力だって持ち合わせていないからさ。だから、早く終わらせよう。


氷の神殿(アイス・メイデン)、悪いがポップするまでの時間を待つ気は無い」


 魔物を作り出す影、いや、魔素の集合体と言う方が正しいか。それらが集結する前に全てを氷の女性像の中に閉じ込める。一個ではなく個別にだから計十六個、それらの内部を空間魔法で圧縮して押し潰す。


 はぁ、倒し切る事には成功したが今ので残っていた魔力の大半を使い切ってしまった。でも、魔物と化してから戦ったら間違い無く、もっと苦戦していただろう。無理やりにでも倒し切った事を今は喜ぼう。ましてや……。


「これで……死ねる」


 自分に課した枷、それがようやく外れるんだ。

 もちろん、有るようで無い枷だから無視する事だってできた。それでも、ここまで耐えたのは攻略した事の無いダンジョンから出る報酬がどんな物なのか気になったからだ。それに他にやりたい事も無かったからな。


 暗い岩肌の空間に一つの大きな穴があく。

 その先にあるのは階段だった。これが三百一階層、ダンジョン攻略を終えた者だけが入れる攻略の間へと続く階段だ。止まりかけの心臓が早鐘のように高鳴る。動悸が激しい……もう死が目の前にあるかのように感じられる。


 でも、この足を止める事はできない。

 何十年と生きてきた僕でさえも知らない何かがそこにはあるんだ。そして、それを僕自身の手で叶えた。何も無いわけが無い……きっと、そこにある物は誰もが欲しがるような物のはずなんだ。


 いつの間にか、僕は走っていた。

 階段を降りてすぐに見えた魔法陣、それすらも他のダンジョンとは違う。他のダンジョンだったら攻略の間には水晶だけがあるはずだから。罠だとかの確認もしない、もうここまで来れたのなら死んだっていいんだ。


「これは……」


 魔法陣に入った瞬間、光が灯り始めた。

 まるで僕が魔法陣の中に入った事が引き金のように感じられるけど、恐らく違う。この室内に僕から漏れ出した魔力が充満したからだ。それと同時に魔法陣や室内に明かりが灯っただけ。


 でも、明確に歓迎されている事は分かる。

 魔法陣に触れた時に確かに「おめでとう」って聞こえたんだ。なぜかは分からない……だけど、ここが僕を歓迎する理由がある事は間違い無い。ならばこそ———


「ようこそ! よくここまで辿り着いた!」


 大量の魔力を魔法陣に流しただけ。

 でも……僕はその声を聞いて後悔した。聞こえた声が嫌いだったとかでは無い。単純に声が伝えてくる内容が今の僕にとっては苦痛でしか無かっただけだ。


 声は言った、ここがスタート地点だと。

 そして新しい固有スキルが手に入った。でも、それは今の老耄と化した僕には勿体なく、価値すらも感じない物。この声の持ち主は化け物のような強さだったのだろう。だから、こんな物を攻略者である僕に渡した。




 ______________________

 固有スキル『成長促進』

 全ての才能を一段階上昇させ、手に入る経験値を倍増させる。またレベル上限を無くし、才能値を強制的にSへと変える。

 ______________________




 これは……俗に言う成長チートなるものだ。

 だが、それは老い先が短い今の僕には微かな価値すらも感じられない。……やっと死ねると思ったんだ。死んで知識欲や研究欲が満たされると思った。でも、これはあんまりだ。


 初めて生きていたいと思えた。

 死にたいと思うばかりの人生で声が伝える事を成し遂げたいと思ったんだ。全ての高難易度ダンジョンの攻略、そして未だ表に出ていない他のダンジョンの攻略……その先に見える景色は何だというのか。


 もしも、一からやり直せれば……。

 きっと、その時はダンジョン攻略に全てをかけて若くして奈落をクリアしたはずだ。できるかできないかではない。今の僕の知識があれば幾らでも強くなる方法はある。


 そうか、そうだ、それでいいんだ!

 簡単な話だよ……僕が生まれ変わればいいんだ。禁忌の魔法ではある。きっと神とかいう存在が本当にいるのであれば僕は嫌われ嫉まれ、そして生きている事を後悔する羽目になるだろう。でも、そんなのは当に味わっている。


 苦しかった僕を助けなかった神に一体、何の温情があるというのか。僕は誓う……ここにまた戻ってくると。


「神より受けたわまりし恩顧の体よ」


 後悔はあるか……少しはあるさ。

 苦しみから解き放たれるはずだったから。


「魂だけを繋ぎし幽界の神よ」


 この力は神も許さぬ魔法の一つ。

 神性魔法……同じ文字の神聖魔法とは違う、本当に神が過去の賢者に授けたとされる魔法だ。誰もが使えるわけではなく、魔法を完璧に扱える者だけが使用できる力……そうか、この魔法が使えたのなら僕の人生にも意味はあったと言えるのだろうな。


「全てを解き放ち、新たな生命へと宿せ」


 視界がボヤける、気分は心底、悪い。

 マイナスな考えすら浮かばない程の拒絶感。でも、不思議と心は踊っていた。この感触は間違いなく魔法が発動しているから……それなら、僕が最後に願う事は一つだけ。


転生(リンカーネーション)ッ!」


 願わくば来世の僕が幸せでありますように。

 その思いと共に瞼が落ちた。

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