りぃちゃんとはるちゃん
・長谷川 鈴 (はせがわ りん)/少し暗い赤髪
・雪宮 春 (ゆきみや はる)/黒髪
2人は違うクラス/鈴視点/出会った時はお互い小3
昇降口を出て左に曲がる。ぐるっと裏に出るとそこには森が広がっている。小学生には危険だが、そのおどろおどろしさに誰も近づかないため簡単に入れるようになっている。
いつものように学校が終わりその森に向かうと木の根元に男の子が蹲っていた。今まで誰にも森で会ったことのなかった鈴は驚いて足を止めた。
男の子も鈴に気づいたようで顔を上げる。その顔は前髪で半分以上が隠れていた。
「あなた、だぁれ?」
「ぼ、ぼくは春」
「そう。私は鈴。ここにきたのは…はじめて?」
「…うん。ひとりに…なりたくて。」
「じゃあ、わたしがいるのはめいわく?」
「…ううん。」
鈴も1人になりたくて森に来ていたが、実は話し相手が欲しかったのかもしれない。春と話すのはとても楽しく感じた。
鈴と春はたくさんの話をした。お互いの色んなことを知った。放課後のこの時間だけが、2人の安らげる唯一の時間だった。
「わたしね、おかあさんがいないの。」
「いない…?」
「そう。おとうさんがいうには、びょうきでしんじゃったんだって。だからずっとあってないの。でもね、おかあさんはぜったいいる。ぜったいまたあえる。ここにくるのはね、おかあさんをさがすためでもあるの。」
春は黙って話を聞いてくれた。
「おかあさんとね、よくおさんぽしたの。たくさんおさんぽしたのがね、もりなの。おかあさんはしぜんがだいすきなんだって。」
「じゃあ、ここにいるかもしれないね。ここはすっごくひろいもん。」
「うん!」
春は鈴に森の話をたくさんしてくれた。動物のこと、自然のこと。春はなんでも知っていた。
春がりぃちゃん、りぃちゃんと呼んでくれるのが鈴は好きだったし、春もはるちゃん、はるちゃんと鈴が呼んでくれるのが嬉しかった。
鈴と春、5年生のあきあかねが飛び交うころ。校庭に出て、絵を描く授業があった。初の3クラス合同授業に周りははしゃいでいた。
鈴は1人スケッチブックと絵の具を抱えて森に向かった。想像通り、そこには春がいて鈴は笑顔になった。
春は木の絵を描いているようだった。同い年とは思えないぐらいのクオリティに鈴は目を丸くした。
「すごい!はるちゃんは絵がとくいなのね!」
春ははにかんだ。
5年生の教室前の廊下では、それぞれの絵が飾られていた。鈴が春を探すと、騒がしい輪の中心にいた。先生も含めた色んな人から口々に褒め称えられている。
鈴は静かに顔を背けた。
驚くことに、鈴の絵の前にも人だかりができていた。何事かと鈴が近づくと、それに気づいた人達が気まずそうに顔を背けた。先程鈴が聞いた気持ち悪いという声は幻聴ではなかったようだ。
鈴が描いたのは森と、春の絵。自分が描かれていることを知ると、春はぶんぶんと揺れる尻尾が見えそうな程嬉しそうに笑ったが、お世辞にもうまいとはいえない。それは鈴も知っている。
絵の前にいた1人の女子が、勇気を振り絞るように一歩近づいて鈴に言った。
「あ、あの…よくないと思うの。みんな、学校の絵を描いてるし…その…鈴ちゃんは…絵があまりうまくないでしょう?だから…春くんも、めいわくだと思うの…。」
「そうだぞー、長谷川。せめて雪宮みたいに描けるならなぁ。」
先生が同調して笑った。
鈴は春と自分の違いに悲しくなった。
色んな人を突き飛ばして自分の絵の前に行き、絵をびりびりと剥がしくしゃくしゃに丸める。
走り出した鈴の瞳には涙が浮かんでいた。 春に会いたくなくて、鈴は森に行かなかった。代わりに駆け込んだのは、教室から1番遠い空き教室。日が暮れて、こっそり帰ろうとそこから出た。
下駄箱のあたりで、人だかりができていた。話し声に耳を澄ましてみる。
「ねぇ、なにがあったの?」
「5年生のだれかがいないらしいよ?」
「もしかしてあの赤いかみの?」
「ちかう、ちがう。さがされてるのは絵のじょうずな男子。」
「その赤いかみの子をおいかけて行ってそのままもどってないんだって。」
それを聞いた鈴は走り出したた。人だかりを抜け昇降口に出ると先生や春の親らしき裕福そうな女性が立っていて、話しかけてきた。
「あ、長谷川!雪宮は!?一緒じゃないのか!?」
うっさいうっさい!あんたたちに何が分かる!はるちゃんのことなんにも知らないくせに!おしえてやるもんか!
叫びながら前を通り過ぎ、そのままひたすらに走った。
森の入り口に、春がランドセルを抱えて座っていた。その姿を目にした鈴の目から、涙が溢れる。
「はるちゃん!はる!はる!」
勢いのまま春に飛びつくと、春がうわぁ!?と驚いた声をあげた。そして草の生い茂った地面に2人して倒れ込む。
「ごめん。ごめんねはるちゃん。」
「どうしてあやまるの?」
「はるちゃんがよろこんでくれたのに、絵、びりって、ぐしゃってしちゃった。」
嗚咽をもらしながら鈴が言うと
「じゃあ…またかいて…くれる?」
と春が言った。
「もちろん!」
鈴が言うと春は嬉しそうに笑った。
不意に、春が顔を曇らせた。
「ごめんね、りぃちゃん。ぼく、なんにもできなくて…。りぃちゃんいないかなぁって思ってね、ここにきたけどいなかった。でもねほかにりぃちゃんが行くところが分からなくて…。まえにさ、おかあさんがここにいるかもって言ってたから、さがしてたの。せめておかあさんを見つけられたら、りぃちゃんよろこんでくれると思って。でも…いなかった…。」
春の話を聞いて鈴の涙が更に溢れた。
「ごめんね。ごめんね、はるちゃん。ありがとう。だいすきだよ。」
「…え、えーっと、ぼ、ぼくもだいすきだよ…?」
春の顔が赤く染まった。
心のどこかで諦めていた。分かっていた。お母さんとはもう会えないと。春にその話をした頃にはもう探すこともほとんどなくなっていた。
でも、春は鈴の荒唐無稽な話を信じて、鈴のためにお母さんを探してくれた。何時間も、何時間も。泥だらけになってまで。
鈴は、春をとても愛おしく思った。
「だいじょぶ。もう、分かってるよ。」
春はそれを聞いて安心したように笑った。
「ねぇ、はるちゃん。ずっと…いっしょにいてくれる?」
「もちろん。ぼくはずっとそばにいるよ。だからりぃちゃんもずっといっしょにいてね。」
「うん!」
2人の手は、固く繋がれていた。
お読みいただきありがとうございました。
夢で見た内容を物語としてまとめました。小学生のほのぼの恋愛を夢で見るなんて自分でもびっくりです。ちなみに、2つ見た夢のうちのもう1つは人をアヤメテ逃走する夢です。「「夢」」