第8話 〜ウィリアム編〜
ウィリアムは公爵当主として官僚として働きながらも家庭を大事にしていた。
美しい妻のジュリー。
頭の良いしっかりした息子のルイズ。
8年後には可愛い愛娘のアイシャが生まれて幸せに暮らしていた。
アイシャが3歳の時に前宰相が引退してウィリアムが新宰相として選ばれた。
初めは慣れない仕事に必死で時間に追われていた。慣れてくると更に期待されあれもこれもと仕事が回ってくるようになり、更に忙しくなった。
家令のマークには、ルイズが学園に入り寮暮らしになり妻とアイシャが二人っきりになるから、くれぐれもよろしく頼むとお願いした。アイシャが5歳の時だった。
そんな時、妻の金銭感覚に腹を立ててマークに言った言葉を思い出した。
「妻は一体何を考えているんだ。あいつは幾らでも金があると思って宝石を買ったりドレスを買ったりして!アイシャにはそんな子にならないようにきちんとみておいてくれ」
「かしこまりました」
わたしはマークにきちんと頼んだので安心して仕事に集中した。
マークからは定期的に報告書が来ており、アイシャは無駄使いをせず真面目に頑張っていると書いてある。
『外に遊びにも行かずしっかり家で頑張っている』と毎回報告があがっていた。
妻の事は『社交を忙しくされている』との報告はあるが特に問題はないようだ。
国王陛下とわたしは従兄弟なので仲も良いほうだ。第一王子で王太子でもあるエリック殿下とアイシャを婚約させるのもいいのではないかと陛下からの話があり、王妃がアイシャの教育係を自ら買って出てくれた。
わたしは感謝していた。
偶に遠くから見るアイシャは妻に似てブロンドの長い髪にグリーンの瞳、美しく儚げで14歳なのにみんなが振り返るほどの美少女になった。
エリックもアイシャとは幼い頃に何度か会っていて好感を持っていて婚約を喜んで受け入れてくれていた。
婚約後、いずれ王となるため、諸外国を留学して回り勉強と顔を広げるために1年間国を離れた。
帰ってきてアイシャが16歳になったら結婚することになっている。
愛娘が国で一番幸せな花嫁になる。わたしはそう信じてやまなかった。
それなのに、
「アイシャが心臓手術?余命数年?何を言ってるんだ。あの子は殿下と婚約していずれは妃になるんだ。死ぬわけにはいかないんだ」
わたしはジャン達からの言葉に呆然とした。
「貴方は馬鹿ですか?娘が死にかけているのに妃?そっちの心配をするより娘の心配をしてください!」
「な、何を生意気な!」
「貴方なんかに声をかけるんじゃなかった、もういいです、ジャン様行きましょう」
そして怒った二人はわたしを置いて帰って行った。
死にかけている?
だってあの子は毎日楽しそうに屋敷で過ごしているとマークからの報告書を昨日読んだばかりだ。
王妃もアイシャはとても優秀で頑張って王子妃教育を受けていると先程聞いたばかりだ。
このままいけば順調に来年には結婚出来るだろうと言っていた。
わたしはよくわからないまま診療所へ向かった。
そこに居たのは顔色が悪く意識がないアイシャだった。
何人もの医師達が慌ただしく治療をしている。何人かは話し合いをしていた。
そこに母の弟でもある前王弟のゴードン・ハウザー叔父がいた。
「叔父上、これはどういう事ですか?」
叔父上はわたしを見るなり不快な顔をして不機嫌な声で
「お前は何度会いたいと伝えても忙しいと言って会おうとしなかっただろう、なにがどういう事ですかだ!ふざけるな!!」
と、怒鳴られた。
「会いたい?そんな話は聞いていません、それにアイシャが死ぬかもしれないなんて有り得ないです。昨日屋敷の者からの報告書で毎日楽しそうに過ごしていると書かれていました。昨日ですよ?それに皇后もさっきお会いして頑張って王子妃教育を受けていると聞いたばかりです、さっきですよ?それなのに突然死ぬかもしれないなんておかしいでしょう?」
「お前は何も気づいていないのか?知らないでは済まされないぞ。アイシャ嬢はどれだけ辛い思いをしていたと思うんだ!」
「何を言っているんですか?あの子は毎日楽しく過ごしているはずなんですよ」
「仕事ばかりして周りが見えていないんだなお前は!アイシャに会う資格はない。出て行け!」
そしてわたしは報告書を叔父上に渡され追い出された。
「父上!アイシャに何があったのですか?」
息子も呼ばれたらしくわたしに気づき聞いてきた。
わたしは息子と二人で報告書を読んだ。