第7話
「アイシャ様!」
サラはアイシャの顔が青白くなっているのに気づいてはいた。
だから早めにゆっくり休んでもらおうと思っていたがキリアンのことを心配するアイシャ様に言えなくて様子を見ていた。
そしたら意識を失い倒れてしまった。
「サラ様、この子は何処か悪いのですか?真っ青な顔をしています、それに異常な汗が出ています」
「心臓病を患っています。王宮に行って先生を呼ばなければ…ごめんなさい、キリアンをお願い出来るかしら?」
「僕が行きます。お祖父様を呼んでくればいいのですね?」
「お願いします、なるべく早く」
「わかりました」
ジャンは乗ってきていた馬に乗り急いで王宮へ向かった。
アイシャ様をベッドへ寝かせてもらっていたので、急いで胸元の服を緩めて息がしやすいようにして手首から脈を測った。
足を見てみるとかなり浮腫んでいる。
寝ているのに咳が出て息苦しそうだ。
この症状は一体なんなのかわからない。サラは不安の中キリアンを抱っこして見守るしかなかった。
「おねぇたんいっしょ、ねんね」
キリアンがベッドに入ろうとするのを「今は一人でねんね、ね」と諭しながら見守っていた。
どれくらい時間が経ったのか、サラにはとても長く感じられた。
◇ ◇ ◇
「アイシャ嬢は?」
先生が急いで部屋に入ってきた。
「先生、此方です」
先生は寝ている姿を見て
「急性心不全を起こしている、急いで診療所へ連れて行こう、しばらくは安静にしていないといけない。急いで治療を行う」
「ジャン、お前が運べ」
「お祖父様、わかりました」
ジャン様がアイシャ様を抱っこすると
「この子は何故こんなに軽いんですか?」
と心配そうにわたし達を見た。
「そんなこと気にするな、とにかく一刻も早く点滴をして薬を飲ませないと危険だ」
アイシャ様はそのまま王宮へと運ばれた。
◇ ◇ ◇
「先生、アイシャ様は大丈夫ですか?」
エマが心配して急いで駆けつけた。
「他の医師達にも声をかけてくれ、急いで応急処置をしよう」
「わかりました」
そして慌ただしく去っていった中で、ジャンは呆然と立っていた。
「ジャン様、貴方は医師を目指して勉強中なんでしょう、一緒に来てください」
エマに言われてジャンもアイシャの元へ向かった。何か出来るわけではないがキリアンを抱っこして微笑んでいたあの可愛い女の子が突然倒れるのをみて、自分も少しでも役に立ちたいと思わずにいられなかった。
「エマ、宰相と兄のルイズを呼んできてくれ。アイシャ嬢が死ぬかもしれないと言えば流石に来るだろう、来なければわしの名前を出して命令だと言ってくれ!」
「わかりました」
「お祖父様、僕も行きます」
ジャンもエマと一緒に二人を呼びに向かった。
「ねえエマ、宰相と言うことはアイシャさんは娘ということ?」
「そうです」
「だったら僕とも親戚だよね、そしてエリック殿下の婚約者だよね」
「そうですね、ただアイシャ様はお仕事が忙しい家族に蔑ろにされているんです、だからわたしが預かっていたんです。なのに……キリアンの所為で……」
「それは違うよ、あの子はキリアンをとても可愛がっていたように見えるよ、確かに歩き回って探していたけどあれは持病だよね、元々かなり悪かったと思うよ」
「はい、心臓手術をしなければ助からないと言われています」
サラは泣きながら宰相の下へ向かった。
途中部屋に入ろうとしたら騎士達に止められた。
「此処には勝手に入れません」
「僕はジャン・シュトリクだ」
と言って胸元からチェーンで吊るしている王族の印の指輪を騎士達に見せた。
「少しお待ちください、宰相閣下に聞いて参ります」
「急いで、閣下の娘さんが死にかけているんだ」
騎士はそれを聞いて急いで呼びにいってくれた。
その間に兄であるルイズにも騎士に頼んで診療所へ来てもらうように頼んだ。
宰相は突然の呼び出しに戸惑いながらも
「アイシャが死にかけている?何を言っているんだ!」
と不機嫌そうに出て来た。
ジャンが先程の様子を話して聞かせると、驚いていた。
「アイシャが心臓手術?余命数年?何を言ってるんだ。あの子は殿下と婚約していずれは妃になるんだ。死ぬわけにはいかないんだ」
「貴方は馬鹿ですか?娘が死にかけているのに妃?そっちの心配をするより娘の心配をしてください!」
「な、何を生意気な!」
「貴方なんかに声をかけるんじゃなかった、もういいです、ジャン様行きましょう」
エマはウィリアムを置いて急いで診療所へ戻った。
「あんな人親ではないわ。アイシャ様が可哀想すぎる。本人は助かるのに手術も諦めて死ぬのを受け入れているのに……」
エマは泣きながら歩いた。
ジャンはそれを聞いて
「あの子は助かるかもしれないのに何故?」
と、呟いた。
「屋敷で使用人達からも虐待されているんです、親に見放されているんで使用人もやりたい放題なんですよ、だから手術などしてもらえないと諦めているんです」
「そんな…」
ジャンはあの細くて軽かったアイシャの体を思い出し納得したのだった。