第6話
サラ様とお茶を飲んだ後、サラ様はお買い物へ行かれた。
わたしは食器の片付けをしていた。
ガタッ!
何かの音に気づき、キッチンを出てテーブルの部屋を覗く。誰もいないが不安になってキリアン君の様子を見に行った。
ベッドに寝ているはずのキリアン君がいない。
「キリアン君?キリアン君何処にいるの?」
わたしは大きな声でキリアン君を呼んだ。
辺りを見回してもどこにもいない。
全ての場所を探した。
エマ様の部屋、トイレにお風呂、もう一度キリアン君が寝ていた部屋、キッチンにもいない。
「……外?」
わたしは慌てて玄関の扉を見ると鍵が開いていた。
「キリアン君!何処にいるの?」
玄関を出て大きな声で叫んだ。
「キリアン君!」
わたしは玄関の周囲を見て回った。
花壇にも裏庭にもいない。
急いで家の前の道に出て左右を見回した。
「キリアン君!キリアン君!返事をして!キリアン君!!!」
わたしは夢中でいつも二人で歩く散歩コースを歩いた。子どもの足だから遠くにはまだ行ってないはず。キリアン君は歩きながらよく立ち止まり興味のあるものをじっとみる。だから他人の家の庭に入り込むこともある。
走ってはいけない、よく周囲を見なくっちゃ。
「キリアン君!キリアン君!!」
わたしは生まれて初めて大きな声を出し続けた。
(お願い、無事でいて)
祈るようにゆっくりと見落とさないように探して回った。
「キリアン君!何処にいるの?キリアン君!」
「あーい」
キリアン君の声が聞こえた。
声の方を振り向くと知らない男の人がキリアン君を抱っこしていた。
「キリアン君?……よかった無事で……」
わたしはホッとしてキリアン君のそばに行くとその男の人の顔を見た。
わたしより年上の綺麗な顔の人だった。キリアン君は知り合いなのか嬉しそうに抱っこされていた。
「ありがとうございました」
「キリアンが表の道を一人で歩いていたんだ、驚いてつかまえて抱っこしていたんだ」
「キリアン君がお昼寝をしていたのでわたしが食器を洗っている間にいなくなってしまって慌てて探していたんです、わたしの不注意です。すみません、助けてくれてありがとうございました」
「君は誰?キリアンの面倒を見てくれていたの?」
「わたしはアイシャと申します。エマ様の家でお世話になっています。サラ様がお買い物に出られていてわたしとキリアン君でお留守番をしていました」
「おねぇたん、だっこぉ」
わたしはキリアン君を受け取り抱っこするとギュッと抱きしめて「よかった無事でいてくれて」と言いながらキリアン君の頭にキスを落とした。
キリアン君がいなくなったのは10分くらいだったのに何時間も経った気分だった。
わたしはキリアン君を抱っこして家へ戻った。
男の人の名前はジャン・シュトリク様、わたしより5歳年上の19歳。
サラ様とエマ様のお知り合いで二人に会いに来る途中でキリアン君を見つけてくれて保護してくれていた。
(良かった、変な人に攫われなくて…)
家に戻るとキリアン君を椅子に座らせてお水を渡した。
まだ暑い夏、小さな子どもには少しの散歩でもすぐに脱水を起こしてしまう。
「キリアン君お水を飲んでね、もう少ししたらおやつを用意するわ」
そしてシュトリク様には冷たいお茶を出した。
「助かるよ、この暑さで喉がカラカラだったんだ」
綺麗な顔の人ってお茶を飲む姿も綺麗なんだなとぼっーと考えていると、
「ただいま」
とサラ様が帰ってきた。
「あら?ジャン、思ったよりも早く着いたのね」
やはりシュトリク様はお二人の知り合いだったみたい。わたしはサラ様に先程のことを伝えてお詫びをした。
「キリアン君が無事だったから良かったけど全てわたしが目を離した所為です、本当にすみませんでした」
「キリアン、いつも勝手に外に出ては駄目だと言っているでしょう!めっ!!」
サラ様は普段とても優しくて怒ることがないのにキリアン君を叱りつけた。
キリアン君はわんわん泣き出した。
「めっ!!いやぁー」
わたしはキリアン君そばに行き頭を撫でてよしよしをした。
「アイシャ様、心配をかけてすみません。何度かこの子は抜け出したことがあるんです。だからしっかり鍵をかけて行ったのに……たぶんアイシャ様がいないと思って探しに出たのだと思います。最近は聞き分けがよくなって出て行くことはしなくなっていたので安心していたのですが、こちらこそ伝えそびえていました」
「わたしを探しに?キリアン君、心配かけてごめんなさい」
わたしはキリアン君の気持ちが嬉しくて涙が出た。
わたしなんかを心配してくれる人がいる、それだけで心があったかくなった。
「キリアン、おねぇたんにごめんなさいは?」
キリアン君は泣き止んでわたしを見て
「ごめんちゃい」
と言ってくれたのでわたしも
「ごめんなさい心配かけて」
と答えた。
そしてホッとしたのかそのまま意識を手放してしまった。
「アイシャ様!」
と、遠くで声が聞こえた。