第5話
わたしは今まで他人に自分の境遇を話した事はない。
なのに先生とエマ様、サラ様の前では不思議に話してしまう。
話してはいけないと思っていたことまでつい話てしまうのはあの優しい目をした人達だからだと思う。
安心して自分の心の中を出せる人。わたしは初めて人の温もりを知った。
みんなの前では普通にしているけど本当は胸が苦しくて横になっていないといけない事が増えている。でもキリアン君の笑顔を見ると心がほんわかしてきて苦しみも和らぐから不思議。
「ほぉん、よむ」
キリアン君のお昼寝の時間は二人でベッドに入りキリアン君お気に入り絵本をいつも読んでいる。
キリアン君はいつもわたしの横で楽しそうに本を目で追ってとても可愛い。
今日はすぐに寝たのでわたしは起きてサラ様のお手伝いをしようと思って部屋を出た。
「サラ様、何かお手伝いはありませんか?」
「そうね……此処でゆっくりお茶を飲むのがお手伝いかしら?」
「え?お茶?」
「貴女はゆっくり休むことも覚えなきゃ駄目よ。ずっと動いていたから体が悲鳴をあげるのよ」
「悲鳴……」
「そうよ、まずはゆっくり体力を戻していきましょう」
「わかりました」
どうせ死ぬのだからやれる事はなんでもやって死にたかった。少しでも二人の役に立って死にたかったけどそんな事を言うと悲しそうにするので言えなかった。なので大人しくお茶を飲むことにした。
◇ ◇ ◇
王宮内 診療所~
「先生、アイシャ様の手術をしてくれそうな医師はみつかりましたか?」
「うーん、今のところ断られているんだ。今の医学ではまだまだ難しい病気だからね、やはりルビラ王国にお願いするしか道はないな。ウィリアムにも先触れは出しているんで明日には会える、アイシャのことをどう思っているのか確かめないとな」
「公爵家の屋敷の使用人達の事を調べた報告書は今は纏めているんですがかなり悪質ですね。勝手に使い込んでいる額が多すぎます」
「ウィリアムは宰相の仕事に追われて家庭を顧みていない、アイシャ嬢のことも気にもしていないんだと思うよ」
「それにしてもアイシャ様はあまりにも酷い生活をしていたみたいです。体には傷あとがあるし栄養が足りていない所為で貧血も酷いし何より可哀想なのが寝ている時に魘されている姿です」
「そんなに魘されているのか?」
「……はい……
『ごめんなさい、わたしは役に立たない人間です。許してください』って寝ているのに泣きながら謝っています。突然悲鳴をあげたり、泣いたり、毛布に丸まって震えている時もあります。キリアンと今は寝ているのであの子がそばにいる時は少しは落ち着いて寝ているんですがあの子がいない時は可哀想で見ていられません。それにあの細すぎる体……今もキリアンより食べる量が少ないです。あのままでは手術しても体力と精神力が病気に負けてしまうと思います」
「……ウィリアムの奴、親失格だ」
「それに先生、お妃様もアイシャ様に虐待紛いの王子妃教育をしていたみたいですね、陛下はご存知なのでしょうか?」
「あれは王妃には頭が上がらないからな、知っていても知らん顔するだろうな」
「この国の王族達は腐ってますね」
「ウィリアムも確かにわたしの姉の息子だからな、あれも王族だな……そして…忘れておるかもしれないが…わたしも王族だぞ」
「ごめんなさい、知ってて言いました」
エマは舌を出して謝った。
「王妃がアイシャ嬢をそろそろ王子妃教育を復活させたいとわたしに言いに来た。まだ体調が悪いからと伝えてはいるが、何処にいるのか訪ねてきたらエマは知らん顔しておけ、アイシャ嬢の居場所は教えるな」
「もちろんです!宰相様にも伝えるつもりはありません、ていうか心配もしていないのですか?」
「一応はアイシャ嬢が倒れた事は伝えてある。屋敷には暫く療養するので王宮で預かると言ってある」
「では誰もアイシャ様の居場所は知らないのですね」
「ああ、此処に居ると思っているはずだ、なのに誰一人会いにすら来ない」
先生は怖い顔をして何かを考えていた。