第27話 最終話
アイシャが死んで半年後、リサは妊娠した。
アイシャが亡くなった後にリサはルビラ王国の公爵の息子であるハイド・レオンバルドと結婚した。
カイザは王弟でリサはその娘だったのだが、魔術師としての生活が長くリサは貴族らしからぬ性格で、知らない人からすると平民によく見られていた。
本当はリサ・ルビラ公爵令嬢でカイザは公爵でもあるのだが、魔術師として二人はルビラ王国では一番の力と技術を持っていた。
だから貴族としてではなく魔術師としての行動と言動が多かったのだ。
そしてリサは現在、リサ・レオンバルドとなり公爵夫人である。
妊娠しても尚魔術師として働いている。
「ねえ、お父さん、お腹の子だけど女の子よ」
「ああ、名前はもう決めてあるんだろう?」
「もちろんよ」
「早く会いたいわ」
そしてリサは出産した。
「貴方、見て。ブロンドの髪にグリーンの瞳よ」
「う、うん?だ、誰に似たんだ?」
「ふふ。この子はね、アイシャちゃん。ねえお父さん」
カイザを見てリサは笑った。
「久しぶりだね、アイシャ。わたしたちの家族として戻ってきたんだね、歓迎するよ」
まだ産まれたばかりの赤ちゃんに二人が知り合いにでも話すように話しかける姿を見てハイドは
「もしかして転生?」
と聞いた。
「ええ、お腹にこの子が入った時にすぐにわかったの。神様はアイシャちゃんをわたしの子として幸せに育てるようにと決めたんだと思うの」
「アイシャか……ようこそレオンバルド家に。
君を歓迎するよ、僕たちの子どもとして産まれてきてくれてありがとう。君を全力で守り大事に育てるからね」
ハイドは、産まれたばかりのアイシャを抱きながら優しく語りかけた。
アイシャが記憶を持って生まれたのか、全てを忘れてもう一度新しい人生をやり直すのかが分かるのはもう少し先のことになる。
そして、10年後………
ルビラ王国に14歳になったキリアンが留学してきた。
高等部を飛び級で卒業して、医学の勉強をするために一番医療の発達したルビラ王国で学ぶためだった。
キリアンは元々平民だったが、ゴードンがサラと再婚してエマとキリアンは公爵家の人間になった。
ゴードンは元々兄の側妃であったサラに想いを寄せていた。
しかしその想いは叶わずゴードンは別の女性と結婚した。
しかし妻は二人目の子を産んで亡くなってしまった。
そして晩年ゴードンの想いが通じて、二人は再婚した。
そしてキリアンは優秀な頭をフルに活かして飛び級して、14歳という若さで医師を目指している。
ルビラ王国では大学という観念がなく、医師になりたければ医師の弟子になりひたすらそばで勉強をすることになる。
医術と魔術で治すルビラ王国では大学の勉強ではなかなか教えられないのが現状だ。
だから、そのまま直接弟子になる。
そしてキリアンはゴードンの紹介でルビラ王国に偶々行ったのだ。
だがキリアンはリサの娘のアイシャに会うことはなかった。
リサ達はアイシャを以前の関係者達に会わせる事を渋っていた。
10歳のアイシャは、朗らかで明るく伸び伸び育った。
以前の儚い弱いアイシャの姿はどこにもなかった。
顔も姿も全て以前のアイシャだが、性格は全く違っていた。
そしてたぶん記憶もないようだった。
だからこそキリアンを見て生前の記憶を思い出す事が危ぶまれた。
そして、数ヶ月経ったある日
「お母様!お祖父様!新しいお弟子さんがイルマナ先生の所にきたんでしょう?いいなあ、わたしも医術の勉強したい!」
「その前に、アイシャは魔法の勉強をしなくっちゃね、もっと制御できるようにならないと危なくて人の前で魔法は使えないわ」
「はーい!分かってます、偶に暴発して部屋が水浸しになったり爆発するだけなのに……」
「うん、十分大変な事だから、お願い頑張って制御を覚えようね」
「頑張るわ、お母様!」
レオンバルド家にお使いを頼まれてキリアンが屋敷へ来ていた。
ハイドは、アイシャが外出していたので安心してキリアンを迎えた。
「レオンバルド様、こちらを渡すように言われました」
キリアンが頼まれた薬品を渡していると、外からリサの大きな声がした。
「アイシャ!制御!制御して!また暴発するわ、やめて!」
「お母様、どうやって制御するの?このままだとわたしの頭の上にある水が大雨のように落ちてくるわ」
「ゆっくり呼吸をするの」
スー、ハー
「そう、ゆっくり水を池に戻して、そうゆっくりよ」
そしてアイシャの頭の上にあった大量の水が少しずつ池に戻っていった。
「お母様、出来たわ!」
「アイシャ!やったわね!凄い凄い!」
いつの間にか帰ってきて、庭で魔術の稽古をしていたアイシャを見てハイドは溜息を吐いた。
キリアンはそんな二人を見つめた。
「やっと見つけた」
キリアンはアイシャを見てにっこり笑った。
END
このお話の続きを連載始めました。
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たろ