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第2話

わたしは帰りに点滴を打ってもらったが、治療費はお金がないので払えないことを詫びた。そしたら王妃様が連れてきたので支払いは王家が払ってくれるから大丈夫だと言われてホッとした。屋敷に支払いを頼めば家令のマークが嫌な顔をして支払いを渋るはずだ。

歩けるようになったので診療所を後にした。


王妃様に面会を申し入れたが忙しいからと断られたので屋敷に歩いて帰ることにした。

夏の日の昼間は陽射しが強くてとても暑かった。

馬車は使わせて貰えないのでいつも歩いて往復している。


今日は歩くのが辛い。

でも家に帰るしかない


フラフラと歩いていると後ろから大きな声が聞こえてきた。

「ねえ!送るわ、馬車に乗って」

先程までわたしを看病してくれていた女性だった。


「わたしの名前はエマよ。貴女はエリック殿下の婚約者で名前はアイシャ様よね?」


「はい、名前もさっきは名乗らずに失礼しました」


「お迎えの馬車はないの?」

エマ様はわたしを見て気の毒そうな顔をした。


「はい、馬車はわたしには勿体無いから出せないと屋敷の者に言われています」


「え?では毎日歩いて来ているの?」


「はい、そうです」


「真っ青な顔をしているわ、乗って!」


「大丈夫です。慣れていますから」


「何を言っているの?フラフラして倒れそうよ」


確かにキツくて歩くのもやっとの状態だった。

甘えて乗せてもらうことにした。


「ありがとうございます、本当はキツかったので助かりました」

わたしは頭を何度も下げた。


「屋敷では誰が冷遇しているの?」


「冷遇?違います、わたしがドジで何も出来ないので屋敷の者が罰として馬車には乗れないと言われただけです」


「ねえ?貴女、普通使用人が雇い主の娘に罰など与えないわよ」


「そうなんですか?でもわたしは何も出来ないので仕方がないんです。マークも侍女長も言ってました。わたしは部屋で大人しくしていればいいと、無駄なことを言えばわたしは家から追い出されます、学校にも行かなくていいと言われて王宮に行く以外は部屋から出ることも禁じられています」


「貴女はそんな屋敷に帰るの?」


「もちろんです、わたしはそこしか帰る場所はありません」

エマ様の質問の意図がわからなかった。わたしには友人も頼る人もいないのに屋敷以外に帰る場所なんて何処にもない。


「あー、わかった。今日はわたしの家に泊まりなさい。屋敷に帰っても碌な物を食べさせて貰えないようだしわたし料理は得意なの。うちの息子と一緒に食事をすることになるけどいいわよね」


「知らない人のにお世話になるなんてご迷惑をおかけする事になります、駄目です」


わたしは今日初めて会った人に泊まりにおいでと言われるなど思ってもいなかった。


とても優しそうな人だからこそ迷惑はかけたくない。


「大丈夫!先生に連絡して屋敷には話して貰うわ。あの先生はとても優秀な人で文句は言わないはずよ」


わたしは馬車に乗せてもらっているのでそのままエマ様のお家へ連れて行かれた。


青い屋根で白い壁のとても可愛らしいお家だった。


「うわぁ、可愛いですね」

わたしは馬車を降りて辺りをキョロキョロ見回した。

可愛い花壇があって向日葵が沢山咲いていた。


「中に入りなさいな」

エマ様に言われて中に入ると、テーブルと椅子があり横には大きめのソファを置かれていた。

横にキッチンとお風呂とトイレ、反対の横には寝室ともう一つ小さな部屋があった。


「ここは息子用の部屋なんだけどまだ小さいから使ってないの、貴女はここで寝なさい、ご飯が出来るまでここで横になっていてね」

と、無理矢理部屋に押し込められてベッドに寝かされてしまった。


「はい、冷たいお水よ、少しレモンとハチミツを入れているから疲れが取れると思うわ」


「ありがとうございます」

渇いた喉にスッと入っていった。

「美味しい……」


「ふふ。エマ特製ドリンクよ。さぁ、暫く横になって、おやすみ」

エマ様はカーテンを閉めて真っ暗にして部屋を出ていった。


わたしはやはり疲れていたのかそのまま眠ってしまっていた。



◇ ◇ ◇


「先生、アイシャ様はお屋敷で虐待を受けていますね、一週間目を覚さない時に体を拭いたのですが、見えない場所に幾つも傷がありました。古い傷跡や新しい傷が沢山ありました。それに彼女は自分は何も出来ないから仕方がないと言って何をされても受け入れていました。あれは洗脳ですよね?」


「アイシャ嬢が寝込んでいるというのにウィリアムは一度も診療所に顔を出さなかった。アレが王宮で宰相なので忙しいのはわかる、だが娘があんなに体調が悪いのに気にもしないなんて……あのままではあの子は死んでしまう、エマ、あの子を暫く預かってくれ。わたしがウィリアムと会って話す」


「もちろん預かります。あんな話を聞いて屋敷になんて帰せません」


先生は難しい顔をして帰って行った。

わたしは息子を実家に預かってもらっている。

すぐ近くなので彼女が寝ている間に急いでお迎えに行った。

「かあちゃ、おっえりぃ」


「ただいま、キリアン」


キリアンを抱っこしてムギュッと抱きしめて頬ずりをした。

「今日はねお客様が来ているからね」


「おきゃくしゃま?」


「そう、綺麗なお姉ちゃん」


「きれえな、おねえたん?やったあ!」


キリアンは嬉しそうにしていたのでなんとかなりそうかなと少し安心した。








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