第19話 〜エリック殿下編〜
アイシャと婚約してすぐに母上に留学するように言われた。
アイシャとは幼い頃、ルイズと共によく遊んでいた。
僕より2歳年下のアイシャはとても可愛い笑顔でいつも僕の後にくっついて来て、一緒に本を読んだり庭で遊んだりしていた。
いつの間にか疎遠になっていったが、婚約者を決めないといけないと言われて一番に思いついて名前が出たのは初恋でもあったアイシャだった。
父上はすぐに了承してくれて、宰相からも良い返事を貰い婚約出来ることになった。
一人っ子の僕は王太子として厳しい教育の中、必死で過ごした。
継承権第二位のジャンは、僕より年上で勉強も優秀。彼は人を惹きつける魅力を持っている。
常に人に囲まれてカリスマ性を持ち、国王としての力量は雲泥の差だった。
僕は王太子としてどんなに努力しても彼を超える事は出来ない。
それでも必死で努力を重ねて来た。ジャン本人は王位に興味がなく、僕に何かあった時のために一応王太子教育を受けている程度だった。
それですら僕は彼に敵わなかった。
僕はいつも諦めてしまう癖がついていた。あまりにも大きすぎる壁にどうにも出来ずにいた。
そんな僕だが婚約者だけは、自分の意思で選びたかった。
だがアイシャは僕のことを覚えていなかった。
「初めまして」と挨拶された。
とても他人行儀でおどおどしていた。あの可愛い笑顔は消えて青白い顔をしていた。
アイシャのことを心配して母上に聞いたら、最近体調が悪かったのだろうと言われてならば体調が戻るまでは仕方がないと思っていた。
それでもブロンドの長い髪にグリーンの瞳、美しく儚げで庇護欲をそそるアイシャに僕はもう一度恋をした。
アイシャのためにも今以上に勉学に励み彼女と共にこの国を支えるためにも留学をして他国との信頼関係を築いて更に力を付ける事が大事だと、母上に勧められた。
そしてアイシャを母上に任せて僕は数カ国をまわる短期留学をしていた。
アイシャに手紙を出しても返事がこない事を心配して母上に手紙を出すと王子妃教育で忙しくてなかなか時間が取れないし疲れているのだろうという事だった。
それを聞いて更に僕自身も他国との交流や新しい政策を勉強して自身に力をつけて来た。
まだアイシャと完全に打ち解けていない。
あと数ヶ月したら国へ帰れるのでアイシャとの時間をゆっくり取るつもりでいた。
それなのに……突然父上から留学を取りやめて帰ってくるように連絡が来た。
ぼくは訳もわからず急ぎ留学先の国に挨拶をして自国へ戻った。
そこにあったのは出て行く時とは全く思ってもみなかった現実。
父上に言われたのは
母上は大怪我をして会えないとの事。
アイシャとは婚約解消。
父上はもうすぐ王位を退位。
誰かこの状況を説明して欲しい。
呆然と立ち尽くす僕に話しかけてきたのは幼い頃からの主治医でもあり、親戚でもある前王弟のゴードン様だった。
「お前は『影』と『番人』の話を王太子教育で聞いているな」
「はい、もちろんです」
「ならば話は早い、今からの話を聞いてお前自身でこれからの人生を決めろ」
ゴードン様から聞いた話は、
母上がアイシャに対して幼い頃から嫌がらせをしていたこと
王子妃教育と言いながら虐待まがいのことをしていたこと
アイシャが心臓病で手術をしなければ助からない事。
アイシャは今行方不明で自身は死を選んでいること。
母上は国庫にまで手をつけて贅沢品を買い漁っていたこと
『番人』であるゴードン様を殺そうとしたこと
父上は国王を退位し、僕かジャンのどちらかが国王として選ばれること
など、どれも衝撃的で理解できなかった。
僕が呑気に留学している間にアイシャは僕が婚約者として望んだ所為で、母上に虐待されていた?
死ぬかもしれない?
助からないかもしれない?
行方不明?
僕は言葉を失いただ呆然と立ち尽くしていた。
「……………」
「殿下、聞いているのか?」
ゴードン様の問いかけに我に返った。
「探さなきゃ、アイシャを……」
僕はゴードン様の事を無視してすぐにその場から去ろうとした。
「何処へ行く?わたし達が騎士達を使って探してまわっているのに手がかりすらないんだ」
「騎士達は今も探しているのですか?」
「もちろんだ」
「では僕もそこに加わって一緒に探します」
「エリック、お前は婚約解消したんだ、もうアイシャとはなんの関係もない」
「だから何ですか?探してはダメなんですか?アイシャはいつ死ぬか分からないんでしょう?僕が国王になることよりアイシャの命の方が大事なんです。退いてください!」
僕は近くにいた騎士達に尋ねて、みんなの仲間に加わった。
朝早くに出て行ったアイシャは町へ向かったらしいと思われているが、全く足取りが掴めないらしい。
誰かが意図して全ての足取りを消し去ったかのように、まるで魔法でも使ったのではないかと騎士達は言っていた。
アイシャが行方不明になって二日が経っている。
頭に一瞬嫌な考えがよぎる。いや、そんな事はない。諦めずに探すしかない。
僕は必死で町の中を探して回った。
騎士達は宿も全て回ったと言っていた。
あとは民間の家…か乗合馬車で何処かへ行ったか……
僕は片っ端から探して回った。
一度探したところも、もう一度訪ねた。
アイシャ、死なないで。
【え?嫌です、我慢なんて致しません!わたしの好きにさせてもらいます】
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