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第18話

「お父さん、多分ハウザー様の言っていたアイシャ様はこの子だと思うわ。

この子の体はいつ心臓が止まってもおかしくない状態よ。よく歩いて町まで来れたと思うわ、親達に見捨てられて使用人達に虐待されて王妃にも虐待された女の子。

この子を治して欲しいとハウザー様は頼んでいたけどこの子に生きたいという思いがないわ。いつ死んでもいいと覚悟しているのがわかるの」


「そうだな、生きる意志がない。まだ少女なのに生きることに疲れ切った顔をしている。

このまま手術をして無理矢理寿命を伸ばしても心の闇がまた病気を呼び起こす、この子はこのまま死なせてあげるほうが幸せかもしれないな」





◇ ◇ ◇



~エマの家~


「アイシャ様が居なくなったわ」


エマはサラに頼んでキリアンをみてもらうと、急いで探して回った。


ゴードンにも連絡をして何人かの騎士達も駆けつけて探し回った。

だが全く情報が出てこなかった。

朝早くに出て行ったのであまり人が出歩いていなかったため目撃情報がなかった。


エマは手紙を読んで泣いた。


「あの子は死を覚悟して出て行ったのですね。わたし達では止めることは出来なかったんだわ」


エマは看護師として何人もの患者の生死をみてきた。

生きたいと思う強い気持ちのない者はどんなに治療しても最後は病気に負けてしまう。


アイシャの心を救う事が出来なかった。


唇を噛み締め、アイシャがいつも寝ていたベッドを暫く見つめていた。


「おかぁたぁん、おねぇたん、いくぅ」


「ごめんね、キリアン、お姉ちゃんはお出掛けして暫く帰って来ないのよ、帰ってきたらお帰りって言ってあげようね」


「おっえりぃ、いぅ」


「うん、言おうね」






◇ ◇ ◇


~王宮内 診療所~


「ハウザー様、お久しぶりです」


「我が国まで態々来ていただき二人ともありがとう」

久しぶりに会ったゴードンは疲れていた。


「ハウザー様、『癒し』ましょうか?」


「疲れている所すまないがお願いできるか?」


「もちろんです」

リサはゴードンの頭に両手を置いて『癒し』の魔法をかけた。


「楽になった、すまない、助かった」

ゴードンは少し顔色が良くなった。

そしてリサとカイザを見て言いにくそうに話し出した。


「態々来てくれたのにすまないが、治療をお願いしていた女の子の行方が昨日から分からなくなった。かなり悪い状態でいつ倒れて死んでもおかしくない状態なんだ。そんなに遠くには行けないはずなんだが見つからない」


「ハウザー様、その女の子にどうしてそこまでしてあげるのですか?ただの患者でしょう?」


「……わたしはあの子を守る事が出来る一人だったんだ。なのに王妃をギリギリまで放置していた。王妃をもっと早く排除出来ていればあの子の辛い境遇を救ってあげられていたかもしれない。

王妃の王子妃教育が厳しいのはわかっていた。だがまさか怪我までさせていたなんて………王妃のお金の流れには目をやっていたがアイシャのことまでは気がつかなかったんだ」


「ハウザー様は後悔しているのですね」


「まさか心臓病になっていたなんて。

早く助けていればあそこまで酷くはならなかった。あの子の顔を見ると姉上を思い出すんだ。姉上にそっくりなあの子が苦しんでいるのを見ると辛くてな……」


リサ達は今アイシャの面倒をみていることを伝えるのはやめた。

ゴードンにはルビラ王国を救ってもらった一人として感謝はしていたが、アイシャが生きることを望んでいないのなら助ける気はなかった。


カイザとリサはする事もないのですぐに王宮をあとにした。

「ハウザー様、二、三日は王都の宿で過ごします。それまでに見つかれば治療を施します。ですがそれ以上は待てませんので国へ帰ります」


「わかった、頑張って探し出すからその時はお願いする」


リサとカイザは了承して宿へ戻った。


宿に戻ると今もまだ寝ているアイシャを二人は見つめていた。


この子を助けるべきか希望通り死なせてあげるべきか。


それは自分達が決める事ではない、彼女自身が選ぶべき事だ。

そしてゴードン達が助けたいと願う気持ちが本当に有ればこの子を三日以内で見つけられるはずだ。

「思いの強さ次第だ」とカイザは呟いた。


リサは『癒し』の魔法が得意である。


弱った体に強すぎる『癒し』の魔法をかけると、逆に負担になり体を悪くする。


リサは少し楽になるようにアイシャの頭に両手を置いて『癒し』てあげた。


アイシャの顔色は少し青白い色から色を取り戻した。

しかし元々悪い心臓だ。

すぐに血液の循環が悪くなり顔色が悪くなる。寝ている時も息が苦しそうだ。


足も浮腫みが出ている。


本当は歩くのも辛い状態だっただろう。それを無理して歩いて倒れたのだ。

彼女は大好きな人達にこれ以上迷惑をかけたくない、死ぬところを見られたくはないと言っていた。


14歳の少女に生と死、どちらかを選ばせないといけない。

リサは重たい気持ちに蓋をしてアイシャに『癒し』をかけながら寝ている彼女に問う。


「貴女はまだ愛情を知らない。いえ、気づいていないの、貴女を大切に思って必死で探している人達、なんとか助けようとしている人達がいるの。

それでも生きる事を諦めるの?生きたいと言えば助けられるわ。でもね、魔法も完全ではないわ、生きたいと思わない人には完全には効かないわ、魔法を弾いて病魔を更に引き入れてしまうの。

アイシャちゃんこの世は嫌なことばかりではないわ、元気になって………貴女を必要としている人も沢山いるのよ」


アイシャは何も答えないまま眠り続けている。


リサは少しでも彼女の心に触れるように温かい『癒し』をかけて凍りついた心を溶かそうとした。











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