第13話
わたしは今日もキリアン君とお家の近くの公園でお散歩をする。
「アイシャ、疲れただろう?ベンチに座ってお茶でも飲もう」
何故かジャン様が毎回ついてくる。
「ジャン様、大丈夫です。まだそんなに歩いていません。キリアン君もすぐ座ってしまうと退屈です。ね、キリアン君」
わたしの手を握った小さな手がぎゅっと握り返してきた。
「おねぇたん、ちゃんちゃん」
キリアン君はわたしに気を遣ってくれたのか、ベンチに座ろうと引っ張ってくれた。
わたしはキリアン君についていきベンチに腰掛けた。
「キリアン君、クッキー食べる?」
わたしはキリアン君の手をお絞りで拭いてあげて、一枚クッキーを渡した。
「あーとぉ」
キリアン君が頭を下げてにっこり笑ってクッキーを食べ始めた。
小さな口を必死で動かして食べている姿はとても可愛らしかった。
わたしはその姿を見ているだけで幸せだった。
ジャン様はキリアン君の横に座りキリアン君を見てにこにこしていた。
「キリアン、ゆっくり食べろ!」
「あーい」
キリアン君はジャン様を見てにこっと笑う。
二人はとっても仲良し。わたしはちょっとだけ羨ましくてちょっとだけ嫉妬してしまう。
わたしはキリアン君をグルグルと回して遊んであげたり一緒に駆けっこをしてあげられない。
わたしが散歩をしてあげているというよりキリアン君がわたしが歩くのに付き合ってくれている感じだ。
わたしが二人をじーっとみているとジャン様がわたしに話しかけてきた。
「アイシャはお腹が空いているの?クッキー食べたら?」
「へ?」
「うん?キリアンのクッキーをじっと見ていただろう?」
とクスクスと笑われた。
「ち、違います!……二人が仲良しだからちょっとだけ羨ましいなと思っていただけです!わたしもキリアン君と一緒に走ってみたかっただけです」
わたしがムキになって答えると
「アイシャこそキリアンと仲良しだろう?キリアンは誰にでも懐く子ではないんだ。君とはすぐに仲良くなったとエマ様が言っていたよ」
「え?そうなんですか?キリアン君……わたしの初めての友達なんです……とっても嬉しい」
「キリアンも君が初めての友達だと思うよ」
「あーい」
キリアン君がタイミング良く返事をしてくれた。
わたしはキリアン君のおかげでどんなに体調が悪くても笑顔で居られる。
あともう少しだけ、わたしに時間をください。
キリアン君達と過ごせるならわたしの命が削られてもいいのでもう少しだけ……
「さあ、もう少しだけ歩いたら家に帰ろう」
ジャン様は最近毎日エマ様の家に遊びにきている。
夏休みで大学が休みでお祖父様である先生のところに遊びにきているそうだ。
だから暇な時間にキリアン君の相手をしてくれているらしい。
わたしは30分程の散歩で実はもうフラフラしていた。
ジャン様がいなければキリアン君を連れて散歩は無理だった。抱っこして歩くだけの体力は残っていないみたい。
◇ ◇ ◇
「ジャン、アイシャ嬢の顔を昼間、偶に見に行ってもらえないか?」
お祖父様に頼まれた。
アイシャはエマ様の家でどんなにキツくても無理して笑っているのだとエマ様が言っていた。
僕は医大に通って勉強をしている。
彼女の様子を見るのも勉強になるし、彼女は知らないがエマ様と僕とアイシャは血が繋がった親戚でもある。
僕は半分は勉強、半分は心配で、キリアンに会いに来ているふりをしてアイシャの様子をみることにした。
「わかりました、キリアンに会いに行っている振りをして様子を見てきます」
そう言ってアイシャに会っているのだが、彼女は日に日に顔色が悪くなってきている。
それでもキリアンといる時の彼女の笑顔はとても幸せそうな顔をしていた。
本当は散歩も止めた方がいいのは分かっている。でもアイシャが嬉しそうにキリアンと手を繋ぐ姿を見ると止める事は出来ずに仕方なく一緒に散歩に付き合っている。
いつ倒れても助けてあげられるように、様子を窺いながら……
僕はお祖父様の診療所に戻ると毎日報告している。
「今日は30分程の散歩も息切れを起こしていました。胸も苦しそうで顔色も悪かったです、本人は隠しているつもりですが薬では誤魔化せないところまできています」
「まだ、ルビラ王国からの返事が来ていない、いつ返事が来てもいいように向こうへ渡航出来る様に準備はしておくつもりだ」
「ウィリアム様達は何か言って来ていますか?」
「毎日会わせろと言って来ているがエマが頑なに断っているよ、もし勝手に会いにきたらぶっ飛ばしてやると言っていたよ」
「なんかやりかねない気がしますね」
「アイシャ嬢に話をしてわたしの娘として籍を移したいんだが、ウィリアムが煩くて中々出来ないでいるんだ。アイシャ嬢本人の意思を確認したい。早めに話しにいこうと思っているんだ」
「アイシャは頷くでしょうか?」
「本人が嫌がれば無理にはしないつもりだ、でも手術をさせるなら未成年だし親族の同意書が必要になる。あの子がウィリアムに頼るとは思えない、それならわたしが助けてあげたいんだ。まだ14歳だ、生きられる可能性が残っているなら助けてあげたいんだ」
「そうですね、僕もあの子がキリアンと走りまわる姿を見てみたいですね、僕がキリアンとはしゃぐ姿が羨ましいと言っていました、あの子の本当の笑顔を見てみたいです」
「ああ、いつも人の顔色を窺いながら生きてきた子だ。少しくらい幸せになっても罰は当たらないだろう」




