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第10話  〜ウィリアム編③〜

とりあえず陛下との話し合いは終わらせてわたしはもう一度アイシャの寝ている病室へ向かった。


処置を終えたアイシャは死んだように青白い顔をして寝ていた。


わたしが部屋に入ろうとしたら

「今は面会謝絶です。他人は入らないでください」

と、女性に言われ部屋に入れてもらえなかった。

「他人?わたしの娘だ!」


「違いますよ!何年も放っておいたのに今更娘?ふざけないでください」


「生意気な!わたしを誰だと思っているんだ!」


「知りませんよ、親として最低な人だってことくらいしか」


「な……なぜそこまで君に言われないといけないんだ!失礼にもほどがある!」


わたしはこの失礼な女に腹を立てた。


「ウィリアム!言われても仕方がないぞ!エマがこの1ヶ月間ずっとアイシャ嬢を見守ってくれていたんだ。あんな屋敷に帰せばアイシャ嬢は屋敷の者にこき使われて死んでいたかもしれん、感謝こそすれ怒鳴るなどもってのほかだ!」


「エマ?サラ様の娘の?アイシャの面倒を見てくれていた?」


わたしは呆然としていた。


サラ様は今こそ市井で平民として暮らしているが前陛下の側室だった方だ。

前陛下が亡くなった時に自分はここには必要のない人間だからと言って娘と共に平民になって暮らしていた。


エマ様は今の陛下の異母妹だった。


「エマ様……アイシャを助けて頂いてありがとうございます。しかしわたしはあの子の父親です。会わせていただきたい」


「ウィリアム、もうわたしもお前には会わせたくはない。『あの子は殿下と婚約していずれは妃になるんだ。死ぬわけにはいかないんだ』この言葉を聞いてはっきり分かった。アイシャ嬢はお前の所有物ではないんだ!あの子はわたしの娘として育てる、お前はもう要らない」


「何を勝手な事を言っているんですか!」


わたしは突然意味のわからない事を言い出した叔父上に腹が立った。


「勝手にしてきたのはお前だろう。まともに娘に会うこともせず屋敷の者に任せっきりにして!お前の嫁も同罪だ!遊び歩いて娘のことなど見向きもしていない。だから屋敷の者達はアイシャ嬢を軽視して酷い扱いをしたんだ。屋敷の者はもちろん悪い。だが原因を作ったのはお前だろう!そして兄であるルイズ!お前もだ。歳が離れていて中々会えないのは仕方がない、でも妹に少しでも会ってやることも出来ただろう。妹が常に屋敷に一人っきりだった事くらいお前は知っていただろう。お前たち家族には思いやりも優しさもないんだよ。まともに会話すらしていないからこんな事になったんだ」


「わたしが間違っていたことは認めます。でもなぜ叔父上がアイシャをもらうなどと言われるのですか?」


「アイシャは生きる事を諦めているんだ。エマたち家族のそばで死んでいきたいんだと。あの子はな、倒れて一週間意識を取り戻さず死にかけていたんだ。なんとか意識を取り戻した日なんと言ったと思う?」




わたしは叔父上の話を黙って聞いた。





『「……先生、両親は仕事と社交に忙しくてわたしに興味はありません。迷惑をかけずに良い子でいなければわたしには利用価値がないのです。殿下の婚約者になって恥ずかしくない立派な妃になり生きることがわたしの使命です

手術をしなければあと何年生きられると思いますか?」


「はっきりとは言えないが早ければ半年、長くても数年だと思う。心臓病はまだ我が国ではなかなか治療が難しいんだ。ルビラ王国には魔術師がまだまだ沢山いるんだ、だから手術に応用されて難しい手術を行うことが出来るんだよ」


「わたし、手術はできません。両親はお金を出してはくれないと思います。だってわたしに服すら買ってくれません、食事も一日一食だけです、わたしは生かされているだけで生きることは出来ないんです」


「以前の父のことは知りません。でも今はほとんど家には帰りませんしわたしの存在すらないと思います。お母様にも良い子で聞き分け良くしていなさいといつも言われています。もし、病気のことがわかったらわたしは捨てられます」


「………捨てられる?」


「はい、わたしは兄と違って何も出来ない金食い虫なので利用価値が無くなれば捨てられます」


「誰がそんなことを言ったんだね」


「屋敷の者たちがみんな言っていました。わたしは金食い虫だから食事も服も生かされるだけしか与えて貰えないと。少しでも生きたければ何も文句を言わず黙ってみんなの言うことだけを聞いて生きればいいと言われています」


「そんな……君はそれで良いのか?」


「わたしはずっとそうしてみんなの前では息をしないように過ごして来たからそれが普通なのです。だから、迷惑をかけないように手術は出来ません、迷惑をかけないように死んでいきます」』


「こんな話を聞いてアイシャ嬢を不憫に思ったエマがずっとアイシャ嬢を世話してくれたんだ。アイシャ嬢を治すには高額な金がいる。だがエマでは払えない。だからわたしがあの子の親になり助ける事にしたんだ」



「そんな……金食い虫?そんな事を言った事などない」


「本当かね?使用人たちがそんな風に思ったきっかけがあったはすだ!」



わたしは昔の事を必死で思い出していた。


何か言ったはずだ。


「あ……そう言えば……」



家令のマークには、ルイズが学園に入り寮暮らしになり妻とアイシャを任せるから頼むと言った事を思い出した。



「『妻は一体何を考えているんだ。あいつは幾らでも金があると思って宝石を買ったりドレスを買ったりして、アイシャにはそんな子にならないようにきちんとみておいてくれ』

と言ったような………」


わたしは何も気づかなかった。信用していた家令のマーク達が娘を虐待していたなんて……報告書を鵜呑みにしていた。


アイシャは使用人に虐待されて王妃に虐待されてどんな辛い思いで生きてきたのだろう……

余命宣告を受けて辛い思いをしているのになお死を選ばざるをえない境遇におかれているなんて………


わたしは項垂れるしかなかった。








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