第94話 消えたアクセサリー【ルナSide】
ネクステスとエディンバラの国境の街、サフィリディア。
以前ネクステスにウリア達を招待したときにも通ったその街を、私達を乗せた馬車は目指す。
その馬車の中から、私はぼーっと窓の外を眺めていた。
「ルナ、大丈夫?」
「んー?大丈夫大丈夫。ちょっと疲れてるだけ―」
ウリアの言葉に癒されながら、私は返事をして、再び考え込む。
私は、焦っている。この世界に来て、ウリアと一緒のクラスになり、友達になる。その目的は達成した。
けれど、その先を考えていなかった。
だからクロムとの戦いで活躍できなかったし、ヒビキを止めることもできなかった。
ヒビキに関しては合流するタイミングが遅れた。
けれど遅れていなくても、私は彼を食い止めることはできなかっただろう。
だからこそ、強くなろうと思った。
ジン先生に弟子入りし、原作でヒビキに認められたセツナ先生と模擬戦を重ねた。
そして魔法師団に入り、世界を回り、さらに強くなる。その矢先。
(はぁ、テンション下がるなぁ……アクセサリー……)
この世界を巡る目的は、私たち転生者からすれば2つある。
1つは、各国での経験、および任務を遂行し、強くなること。
国を回る順番が原作とは違うので、会うはずもない人と会うこともあるが、これはかなり達成されている。
そして2つ目は、最強のアクセサリーを手に入れること。
エヴァラスには主人公、攻略対象、ユウリィ、そしてセリアの分の最強アクセサリーが用意されている。
これらの内、グラムのものはエヴァが、アークのものをロゼリアが、ハインズのものをミストが、そしてソラスのものをムースが現在所持している。
まあ、アークのものはイベントでローズに認められたうえで、彼女から受け取るものなので、元々ロゼリアが持っているものなのだが。
アークを無能と嫌っていたローズが、ウリアのおかげで前を向いて努力を続けた彼を認めたシーンは人気度が高い。
そしてラークの……つまり私のアクセサリーは、行方不明となった。
ラークのアクセサリーのみ入手難易度が高く。ルアの塔の最上階に置かれている。
ルアの塔は敵のレベルが高く設定されており、クリア後に推奨される裏ダンジョンのような位置づけだ。
とはいえ、EXボスほど強くはないので、今の私達ならば攻略できる筈だった。
けれどタゴイラ山での任務の後、ルアの塔は跡形もなく消えていた。
原作ゲームでの、攻略後の状態になっていたのだ。
(誰が攻略したんだろう?私達の知らない転生者がまだ居るの?)
慌てて塔の跡地を見に行った。
やはり攻略後のように塔は瓦解していて、アクセサリーを見つけることはできなかった。
(まあ、でも、ウリアの分は集まったからそれでよかったのかな)
ロゼリアが塔の瓦礫から何かを拾っているのを確認している。
私に渡してこないということは、それはウリアの分なのだろう。
最強のアクセサリーだが、主人公ウリアの分だけ他と大きく異なる。
彼女のものは、各地でカケラを集め、その上で合成しなくてはならない。
グラム、アーク、ソラス、ラーク、ハインズ。
それぞれの攻略対象の最強アクセサリーと共に、手に入れるカケラ。
それを5つすべて集めることで、完成するのだ。
私がゲームを5周もプレイしたのは、全攻略対象のルートに入ることもそうだが、ウリアのアクセサリーを完成させることも目的の一つだ。
実はいくつかの最強アクセサリーは、その攻略対象のルートに入っていないと手に入らないのだ。
そのため、ウリアのアクセサリーは周回前提となる。
(まあ私達は1回キリだけど、奇跡的に全攻略対象の関係者が居るから、全部集められたんだよね)
私達が倒さなくてはならない魔王アインは原作における裏ボスだ。
あれに勝つなら、アクセサリーを揃えるのは必須条件と言える。
(この後の、戦争でのヒビキ戦やその後のロスヴェイル国でのルヒーネやレア達や【原始】との戦いもある。できることは全部やっているけど、足りるかどうか……)
敵は多く、そして強大だ。
原作よりも顔合わせをした敵の数は多い。
けれど、だからと言って戦う運命を回避できるとは思えない。
それに、塔を攻略した人物がもしも転生者なら、それとも戦う可能性があるだろう。
(どれだけ準備をしても……不安は消えないなぁ……)
窓の外を見ながら、私は誰にもばれないように小さくため息を吐いた。
ネクステスとエディンバラの国境の街、サフィリディア。
グルメで有名なこの街に来て、サイラスちゃんが騒がないわけがない。
馬車から降りた彼女は、私達を宿に導き、荷物を下ろさせると街に繰り出した。
彼女についていくと、色々とおいしいものを紹介してくれる。
次々と紹介される食べ物に、皆苦笑いをしていた。
(前世から考えると、食べすぎは良くないんだけどなぁ……)
食べ過ぎると太る。それは前世では当たり前のことだった。
スイーツも好きだったけれど、食べ過ぎないように注意をする日々だった。
けれど、このルナの体は太らない。
というよりも、肌が荒れることや、爪が割れることもない。
それはロゼリア達も同じだ。
だからといって食べ過ぎて良いわけではないが。
「なあ知ってるか?ルアの塔が攻略されたって」
店の外に設置された丸テーブル。
その席について、紹介されたグルメに舌鼓を打っていると、隣の席の声が聞こえた。
どうやら、攻略されたダンジョンについて話しているようだ。
「あぁ、そうらしいな。軍の人が攻略したのか?」
「いや、そうじゃないらしいぜ。軍は手を出してないらしい」
ネクステスの軍は山頂の魔物の件でいっぱいいっぱいだった。
4将軍の内2人が私達と共に行動したので、残りの人数で塔を攻略するのは不可能だろう。
「じゃあ冒険者か?いったい誰が?」
「それが、まだ誰も名乗り上げていないらしい。冒険者なら事前に塔に挑むって言うだろ?それもなかったらしい」
「トリリアントに興味が無いのか?それとも、もうトリリアントなんかねぇ」
どうやら、誰が塔を攻略したのかは分かっていないらしい。
私たち以外の転生者の可能性が、高くなってくる。
原作において、どの攻略対象のルートでもルアの塔が攻略されるようなことはなかった。
不意に、ミストが立ち上がった。
「そろそろ……宿に戻る。皆……楽しんでて……」
「ミストさん、夕飯はどうしますか?」
「そんなに食べてて……嘘でしょ?……要らない」
サイラスちゃんの衝撃的な一言に目を見開いた彼女は、そのあと苦笑いをして立ち去って行った。
おそらく、ウリアのアクセサリーを作るのだろう。
(ウリアのアクセサリーは、指輪だったはず。私のは……腕輪だったっけ……)
ミストの後ろ姿を見ながら、私は自分が手に入れるはずだったアクセサリーの姿を思い浮かべていた。




