第9話 転生者がこの世界で生き残るために【ロゼリアSide】
懇親パーティの後から私たちは三人でよく集まった。
話す内容はウリアのことばかりだ。
エヴァは前世でかなりエヴァラスをやり込んでいたらしく、私から見ても可能な限りの育成をウリアに施していた。
だが、卒業後の魔王達まで考えると私も含め力不足は否めない。
「ふむ……ですがウリアさんがこれ以上強くなるには、やはりテスタロッサは必要なのでは?」
原作でもウリアのテスタロッサはゲームを攻略するうえで重要な要素だ。
良いテスタロッサを引くために、ウリアガチャとまで攻略サイトでは言われていたくらいだ。
私たちはまだ8歳。時間はある。
ウリアに強力なテスタロッサを引かせられれば、これ以上のアドバンテージはない。
しかしテスタロッサガチャは闇だ。
1周目で良いステータスのテスタロッサが出なかったらリセットする人も続出していた。
それはこのミストフィアでも同じようで、城にある未覚醒のテスタロッサを試してみても、そんな簡単には良いものは見つからなかった。
出てくるのは最低等級のコモン級か、良くてアド級。
ウリアの隠された特性を考えると、エクセラ級は欲しいところだ。
そう考えているのはエヴァも同じようで、覚醒したテスタロッサを見ては「次」と告げていた。
「え、えっと……私は適性が低いんだし、テスタロッサでさえあればそれだけで……」
やがて、ウリアは遠慮がちに呟いた。
ウリアの気持ちも分かる。テスタロッサは高価だ。
だけれども、正直城にあるすべての未覚醒テスタロッサを使ってでもガチャをする必要がある。
ウリアのテスタロッサは、世界を救うカギだ。
「ダメだよお姉様。……せめてエクセラ引き当てないと」
エヴァが同じように思ったようで、否定している。
途中で言葉が詰まったのは、前世のワードを出そうとしたからだろう。
ガチャか、リセマラか。けれど、それだけでは足りない。
「ウリアさん、よく聞いてください。テスタロッサは私たちの相棒です。命を預けると言っても過言ではありません。そしてそれはウリアさんだけでなく、ウリアさんの大切な人も入ります。ウリアさんは適当に決めて、それでエヴァさんが死んでしまっても、それでも悔やみませんか?」
なぜダメなのか。それを丁寧に教える。ウリアはまじめな子だ。そして優しい子だ。
丁寧に説明したほうが、ウリアの中での意識が変わる。
ウリアは私の言葉に目を見開く。
「ごめんなさい。でもそのくらい大事なことなんです。私もエヴァさんも、ウリアさんに傷ついて欲しくない。ウリアさんがエヴァさんにそう思ってくれているように。分かってくれましたか?」
「は、はい。私、頑張ります!」
私の説明に納得したのか。ウリアは強くうなずいた。
思わず熱くなって手を握ってしまった。
「……てい!」
しかし、次の瞬間にはエヴァにその手を軽くはたかれた。
「それじゃあ、順番にやっていこう!さあ、お姉様!」
「う、うん……」
不機嫌なのにもかかわらず、それを隠して優しくウリアに接するエヴァ。
それがちょっとおかしくて、私は口元が緩んでしまった。
けれど……もう少しウリアと手を繋いでいたかったなぁ、とちょっとだけ残念に思った。
少しの間だけ、自分の手を見つめてしまった。
それから数日後、城の私の自室にエヴァだけを招待した。
「いらっしゃい、エヴァさん」
「……どうも」
不愛想にエヴァが私に応える。今回の集まりではウリアは不参加だ。
家に置いてきたウリアのことが心配なのだろう。
一応私の影に見張らせているので、危険が及ぶことなどないというのに。
無理を言ってでもエヴァを呼び出したのには理由がある。
どうしても一度、エヴァと私の2人だけで、確認する必要があった。
「エヴァさん、あなたは……っ」
「……言うまでもないと思いますよ」
「……ええ、それと2人きりのときは敬語は不要です。あ、私は癖ですので」
転生者なんていうワードを出せるわけがない。
けれど私が頭痛に顔をしかめたのを見て、エヴァは状況を読み取った。
骨の折れる確認作業だが、使えるパターンは限られるだろう。
「そう……私から言えることは一つだけ。今まで見てきた中でお姉様に優しくしたのは私だけ」
「私もですね」
「……そう」
これで他に転生者がいないことが判明した。
おそらくウリアが転生者ではないということも含まれているのだろう。
「……そういえば、城の警備にエルフの人を起用したんだね。お姉様がお世話になったよ。リフィル・フローディアさん、良い人だね」
「……は?」
エヴァの言葉に、思わず素で返してしまった。
【傾国】が会場に?流石に会場の警備者のリストなんて見ていない。
それに【傾国】が死ぬのは4年後のはずだ。
このタイミングでエヴァがこれを話したということは、【傾国】の存在と、【傾国】を助けられないか、という意味かもしれない。
一応その方面で考えてみる……
(……無理だ。どうしようもない)
私はこの国の皇女だが、まだ8歳。少なくとも他国に口出しできる立場ではない。
そもそも、リフィルの死は前世の知識だから、事情を伝えることすらできないだろう。
ただ死ぬかもしれない、という言葉だけをユグドラシルに伝えても、なににもならない。
そして死ぬ要因については、これこそ私の力ではどうすることもできない。
結論に行きつき、私は首を横に振った。
「……そう。他に話したいことはないよ。そっちは?」
「私もありません」
エヴァが転生者であることを最近知ったのだ。
私が知っている情報など何もない。
「それじゃあ私は屋敷に戻るね。お姉様が待っているから」
「……その優しさの少しでも他人に向けた方がいいと思いますよ」
「少なくとも皇女さまには恐れ多くて無理です」
心底嫌そうな顔をして、エヴァは部屋を出ていった。
私との関係性は微妙だが、ウリアを想っているのは間違いないだろう。
そういった意味では大きな目的は一致しているけれど、もう少し仲良くできないものかとその背中を見ながら思ってしまった。




