第86話 世界樹の街ユグドラシル
今日も余裕があればあと1話更新します。
ソニアさんの案内でユグドラシルを訪れた私たちは、宿屋で荷物を下ろし、ジルヴァ長老の元へと向かった。
長老の家は、ユグドラシルの街の中で一番大きな屋敷だった。
その奥に案内され、扉を開くと、見覚えのある老人が出迎えてくれた。
「おぉ、皆様。お待ちしておりましたぞ」
ユグドラシルの長老、ジルヴァさんだ。
リフィルの一件でも顔を合わせたことがある。
彼はニコニコ笑顔でロゼリアさまと握手を交わした。
「ささ、とりあえず座ってくだされ」
示された席に着席する。
ジルヴァ長老の後ろには、エルフの男女が立っていた。
「さて、遠路はるばる来ていただいて感謝します。早速依頼の話なのじゃが……実は少し前から東の森が慌ただしくての」
ジルヴァ長老はすぐに任務の話に入った。
状況は切迫しているのだろうか。
「それで部隊を調査へと向かわせたのじゃが……帰ってこなくての。さらにその後に手配した偵察部隊も帰っては来なかった。流石に事態を重く見たので、魔法師団に支援を要請したということじゃ」
なるほど。原因不明で、偵察部隊も行方不明。
これはエディンバラの魔法師団を頼るのも分かる。
「ユグドラシルとしては精鋭部隊を出し、さらにサポートの部隊も付ける予定じゃ。何があるのか分からないからの。そうじゃ、紹介しておこう。まずは軍の団長を務めるアインスタット・ローレスじゃ」
ジルヴァ長老の言葉に、後ろに立っていた男性が頭を下げる。
右目を傷で閉じた、筋骨隆々のエルフだ。
「アインスタットだ。団長としてこの街を離れるわけにはいかないので、同行はできない。だが、軍の精鋭を選び出し、同行させる予定だ。安心してほしい」
まっすぐな目で、はきはきと話す。
その姿は、自信に満ち溢れていた。
エルフの団長だけあって、数々の修羅場を潜り抜けているのだろう。
「そして同行してもらうのは近衛隊長である、ライネスじゃ」
今度は入れ替わるように女性のエルフが頭を下げる。
薄い緑色の短髪に、蒼い瞳。
身長は低いものの、凛とした女性だった。
「ライネス・ハイデンベルク・キルレインよ」
「キルレイン?」
聞き覚えのある単語に、思わず聞き返してしまった。
するとライネスさんは微笑む。
「そう、あなた達の先生であるアイリスの元PTメンバーよ。アイリスからは聞いているわ。すっごく優秀な生徒さんだって。期待してるわよ?」
嬉しそうに笑っているライネスさん。
この人が、アイリス先生の元PTメンバー。
トリリアントということで相当な実力者の筈だ。
こんな人と一緒に行動できるなんて、ラッキーだ。
ライネスさんは私達を見渡して、うんうんと頷いている。
実力を図っているのだろうか。
「素晴らしいです長老。あのアイリスが自慢するのも分かる。兵士たちにとっても良い刺激になるくらいですね」
「ほっほ、そうじゃろうな。ローズ小隊はエディンバラの魔法師団の中でもトップクラスじゃろうて。期待しておるぞ?」
「はい。お任せください」
ロゼリアさまに合わせて私達も敬礼をする。
するとジルヴァ長老は、私たちを見渡し始めた。
「……ウリアさん……あの子は……おらんのか?」
「居ます。でも、人前には出たくないみたいで」
「……そうか。元気かの?」
「はい。いつも頼りにさせてもらってます」
「……そうか」
名前を出さなくても、彼が誰を心配しているのかはよく分かった。
私の周りにある風が、優しく流れたような、そんな気がした。
「出発は明日でいいかの?今日はゆっくりして、準備する時間に充ててほしい。もちろん、都の中のものは自由に使ってもらって構わんよ。まあ、ムースが居るから大丈夫だとは思うが。ムース、頼んだよ」
「はい、わかりました」
任務は、明日。
そのために、今日は英気を養おう。
しっかりと準備をして、エルフの人たちが居なくなってしまった原因を突き止めなければ。
もしかしたら、エルフの人たちを取り戻せるかもしれない。
ジルヴァ長老の話も終わり、私たちは街に出る。
それぞれが思い思いの方向に、向かっていく。
私もムースと一緒に、エルフさんの商店を見て回っていた。
エディンバラやキルシュでも商店を見たが、ユグドラシルの店は植物を使ったものが多かった。
木のオブジェや、葉っぱを模したイヤリングなど、おしゃれなものが多い。
金や黄緑色の長髪をしたムースやリフィルに、似合いそうなものが多い。
試しに銀で出来た葉っぱを模した髪留めをムースに着けてみたけれど、良く似合っていた。
あまりにも気に入ったようだったので、そのままプレゼントした。
(リフィルにも何かプレゼントしようかな……)
あまりアクセサリーなどに興味が無いリフィル。
けれど、何もつけなくても彼女は神秘的な美しさがある。
それをさらに引き立てつつ、かつ主張が強すぎないものがいいのだが。
そんなことを思っていると、視界の隅に光るものを見つけた。
シルバーのネックレス。ついているのは、小さな球体だった。
よく見てみると、その中には風を表すマークが入っている。
「あ、これいいかも」
「こちらエルフたちの間で人気の商品となっています」
「すみません、これください。包んでもらってもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
今も私のことを見守ってくれているはずなので、サプライズとはならない。
けれど、ちゃんとプレゼントとしてリフィルに渡したかった。
店員さんは上機嫌で贈呈用の紙にネックレスを包んでくれる。
ネックレスが置かれていた場所を見ると、私が見つけたものの隣も、空いていた。
「本当に、すごく人気なんですね」
「そちらはこれとは別のものですけどね。以前に他国から来たお客様が買われたんです。2人だったんですけど、1つしか買わなかったので聞いてみたら、2人で同じものを別の誰かにプレゼントするみたいで。いいですよね、そういうの」
やはり人気らしく、他にも買っている人はいるみたいだった。
ところどころ空いているので、供給が追い付いていないほど売れているのだろう。
店員さんから紙袋を受け取り、店を後にする。
さて、もう少し見て回ろうかなと思ったとき、見知った姿を見つけた。
「あれ?ユウリィ?」
部隊の頼れるサポーターであるユウリィは、世界樹ユグドラシルに触れていた。
そのまま木を見上げている。
懐かしむような、悲しむような、そんな表情をしていた。
歩いて近づくと、彼女は私たちに気づき、微笑んだ。
「初めて見たけど、すごく大きな樹だね。びっくりしたよ」
「世界で一番大きな樹ですからね。見ごたえはあると思いますよ」
そういってムースは世界樹に触れる。
目を閉じて、彼女は黙り込んでしまった。
おそらく、神樹と会話をしているのだろう。
ふとユウリィを見るものの、彼女はいつも通りの表情でムースを待っているようだった。
あの愁いを帯びた表情は、勘違いだったのだろうか。
しばらくして、ムースは目を開き、世界樹から手を離した。
「私たちのことを神樹に紹介したよ。相変わらず仲が良さそうで安心したってさ」
「そうなんだ」
私は話すことができないけれど、神樹は私たちを歓迎してくれているらしい。
「相変わらずすぐに謝るから、辞めてって言ってるんだけどね」
学園で私に気持ちを打ち明けてから、2年が経つ。
一度は神樹のことを嫌いになったムースだけれど、今ではある程度は改善されていた。
会話をして、少し寂しげな表情はするものの、思いつめた様子はない。
(ムースの気持ちは、安定してる。でも、根本的なものは解決してない)
彼女の手を握ると、微笑んで握り返してくれた。
絶対助けるからね。ムース。
「さて、商店を見てたんだろう?僕も二人と一緒に行っていいかい?」
「うん、綺麗なものがいっぱいあるんだよ」
「それは楽しみだ」
ユウリィ、ムースと他愛のない話をしながら、私たちは露店を見て回った。
「面白そう!」
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