第82話 頼もしすぎる援軍
入ってきたのは、見覚えのない2人の女性。
1人は白と黒のツートンカラーの長髪をふわふわにした、ローブを着た女性。
おっとりとした印象で、黒い獣を見ても焦るような様子はない。
もう一人は褐色に白い髪をした女性だった。
耳がとがっているのでエルフのようにも思えるが、肌の色はどちらかというと前世のアニメなどで見たダークエルフのようにも思える。
この世界にダークエルフが居ると聞いたことはないが。
『誰だ?……だが、これは好機だ!頼む、手を貸してくれ!』
「わぁー!すごい!このイヤリングで遠くの人と話してるのー?」
アメリアさんの声に反応して、白黒のツートンの女性はヴァイスさんに近づく。
その耳を、ペタペタと触り始めた。
突然の行動に、ヴァイスさんも慌てている。
「お、おい!今はそんなことしてる――来るぞ!」
その隙に付け入るかのように、黒い獣が放った魔法がヴァイスさん達に迫る。
女性はイヤリングに夢中で、気づいていないようだ。
「邪魔」
歩いてヴァイスさんに元に向かっていた長耳の女性が、剣を抜いて一閃。
その一振りで、魔法を弾いた。
女性は無表情で、退屈そうにツートンカラーの女性を見る。
「アイネ……のろま」
「なっ!のろくなんてないですー!」
『き、君たちはいったい何なんだ!』
堪えきれなくなったのか、アメリアさんが叫ぶ。
その声に、2人は答えてくれた。
「ニクス……レストア」
「アイネクライネ・リースシャドウと申します。アイネでいいですよー。旅人で、ニクスちゃんとは友達なんですよー」
「友達じゃない」
「がーん!!」
『ふざけている場合じゃない!このままじゃ君たちも死ぬぞ!』
ニクスさん、アイネさんのこの場にそぐわない雰囲気に、アメリアさんが怒鳴る。
確かに、アメリアさんの言いたいことも分かる。
けれど、アメリアさんはこの場には居ない。だから、分からないのだろう。
この2人が、そんな雰囲気でも問題ないくらい、強いのではないかという予感を。
「赤い光を見たから寄ってみただけですけど、魔物は見過ごせませんからねー。手を貸しますよ。ほら、皆元気になぁれ!『祝福の息吹』!」
部屋を覆うほどの巨大な白い魔法陣。
それが一気に展開し、光が天井へと舞い上がる。
その数は多く、光が私たちに触れるたびに傷と疲労が癒えていく。
辺りを見回してみれば、あれだけ疲れていたエヴァ達や、ユティさんですら気力を取り戻していた。
『なんだ?……全員の生体反応が……回復した?』
アメリアさんの言う通り、アイネさんが回復してくれたんだ。
これだけの人の数を、一気に。
信じられないという気持ちが大きいが、それでも状況は一変した。
ユティさんが動けるようになったので、ヴァイスさんも動けるようになる。
それにエヴァ達も余力がある雰囲気だ。
「仕方ないから……協力する」
「きゃー!ニクスちゃん、素敵―!」
「うるさい」
ニクスさんは心底いやそうな顔をして前に出る。
手にする剣は、細剣。シンプルなそれは、見かけだけならコモン級やアド級に見えなくもない。
けれど、あんなテスタロッサは見たことがない。
「いくよ、『ニクス』」
そう呟いて、ニクスさんは黒い獣に駆けだす。
細剣に、風の濃い魔力が巻き付いている。
彼女はその剣をもって、魔獣の攻撃を防ぎ、傷を負わせていた。
その様子に、ルナが、ロゼリアさまが、エヴァが、ヴァイスさんが駆ける。
ユティさんやリースさんも魔法を唱えている。
(これは、いける!)
ユウリィやユティさんを襲う魔法を弾きながら、私は戦局を冷静に観察する。
アイネさんとニクスさんの加勢で、私たちが優勢になった。
とくにエヴァに余裕が出たのが大きい。
前線も、ニクスさんが参加したことにより安定している。
そして何よりも、アイネさんの回復魔法の効果が大きかった。
やがてエヴァの魔法が黒い獣の急所を捉え、獣はゆっくりと床に倒れる。
その体が、砂のようにボロボロに崩れていく。
『生体反応、消失……どうだ?復活しそうな気配はあるか?』
「いや、姿そのものが崩れている。どうやら終わったようだな」
『そうか……』
アメリアさんとヴァイスさんが戦いが終わったことを確認する。
とくにアメリアさんは、安心したのか深く息を吐いていた。
『アイネさん、ニクスさん、協力感謝する』
「いいですよー。困ったときはお互い様ですー」
アイネさんはニコニコとした笑顔で答えた。
彼女たちが来てくれて、本当に助かった。
『そしてローズ小隊の諸君……すまなかった。今回の苦戦は私にすべての責任がある。苦労を掛けてしまった』
「結果として勝てたので問題はありません。けれど、次からはもっと他国の方も信用していただければと思います」
『ああ、善処……いや、前向きに検討させていただく』
アメリアさんも思うことがあるのだろう。
小さな声で、そう言った。
「さて、それじゃあ廃城の魔物を一掃しましょう。アイネさん、ニクスさんはいかがしますか?」
「ここまで来たらお付き合いしますよー」
「一人で待ってるのも、退屈だし」
ロゼリアさまが次の目的である廃城の魔物の一掃を提案する。
部外者であるアイネさん、ニクスさんも協力してくれるらしい。
「ふむ。人数が多いですね。あの黒い獣のような魔物もいないでしょうし、人を分けて行動しましょう」
その提案に、私たちは全員頷いた。
廃れた城を、4人で歩く。
私以外のメンバーはルナ、ユウリィ、そしてニクスさんだ。
残っている魔物は弱いものばかりで、特に問題なく進んでいた。
部屋を一つ残らず探索していくけれど、これといって使えそうなものはない。
価値が高そうな金品は見つけたので、それらはキルシュに売ることになるだろう。
ある程度城の中を探索して、入口へと向かう。
その途中で、ニクスさんと話をしようと思った。
「ニクスさんは、旅人なんですか?」
「うん」
「今までどんなところに行ってきたんですか?」
「キルシュに来る前は、ユグドラシルに居た。その前はネクステス」
ニクスさんと他愛のない話をする。
彼女は世界中を巡っているようだった。
「面白そうなところ、ありました?」
「今はやっているか分からないけど、ネクステスでは闘技場があった」
「エメルディアの闘技場だね」
ネクステス出身のルナが補足を加える。
2年生のときに訪れたのは首都ガーネリアだったので、エメルディアには訪れていない。
けれど闘技場は楽しそうだ。
「アイネさんとは仲間なんですか?」
「同僚。ユグドラシルで拾ったから、一緒に来た」
同僚ということは、同じ職場に居るということだろうか。
世界中を旅行しているとのことなので、冒険者なのかなと思っていたのだが。
そういえば、ユグドラシルといえば。
「ニクスさんはユグドラシル出身なんですか?」
肌は褐色だが、耳はとがっている。
エルフか、ダークエルフかは分からないけれど。
「分からない」
けれど、帰ってきた答えは一言だけだった。
「私、記憶がないから。気づいたらコンウェルに居た。エルフなのかどうかも分からない」
「あ、ごめんなさい……」
まさか記憶喪失だとは思わず、慌てて頭を下げた。
けれど、ニクスさんは気にしていないようだ。
「別に構わない……見えたね。入口」
ニクスさんの言う通り、廃城の入り口が見えてくる。
そこでは、エヴァ達が待っていた。
「エヴァ、そっちの探索は終わった?」
「お姉様!うん、終わったよ。といっても良いものはなかったんだけどね」
「こっちも特になかったよ」
エヴァ、ムースも特に大きな収穫はなかったようだ。
「アメリアにも確認したが、廃城の魔物は一掃した。それじゃあ戻るか。お二人はどうする?」
アメリアさんも確認したなら、廃城の魔物はすべて討伐できたということだろう。
これで任務は完了だ。あとはキルシュの人たちが、この城をなんとかするだろう。
ヴァイスさんはアイネさんとニクスさんに確認を取る。
私たちは任務だけど、2人はたまたまここを訪れただけだ。
「あなたたちのおかげでイノシシ型の魔物を討伐できた。報酬も受け取れるだろう」
「別に報酬に興味はないですけど、キルシュには行こうと思ってたんですよね。ご一緒させてくださいー」
「私も」
どうやら2人の目的地はキルシュ国だったらしい。
その言葉にヴァイスさんは頷く。
「よし、じゃあパンテオンに戻ろう」
私たちは馬車に乗り込み、キルシュの首都へと向かった。




