第68話 彼女たちが、答え
翌日、私はリフィルを引き連れて王城を訪れていた。
城門の兵士さんに声をかけて自己紹介をすると、すぐに準備をしてくれた。
スムーズにロゼリアさまと面会ができるのはありがたいけれど、私のせいで兵士さんの仕事を増やしてしまうので、そこは申し訳ないところだ。
兵士さんに案内され、お城の一室へと通された。
ロゼリアさまの執務室。
何度か遊びに来たことのある部屋の奥の机に、ロゼリアさまは居た。
「ウリアさん、寮からわざわざありがとうございます」
「あ、いえ、大丈夫ですよこのくらい」
エディンバラ学園の学生は休日は寮に居るのがほとんどだ。
ただロゼリアさまはどちらかというと王城にいる方が多い。
学園から王城は離れているものの、そこまで遠いわけではない。
昼食後の、よい運動になるくらいだ。
執務室の中にあるソファーを示され、私はそこに座った。
リフィルは後ろに立とうとしたが、私が無理やり座らせる。
公式の場ではこんなことはしないが、少なくとも友人の部屋では隣に座らせるのが昔からのルールだ。
毎回リフィルは後ろに立とうとするが。
「昨日はご協力ありがとうございました。おかげで裏組織は壊滅しました」
反対のソファーに座ったロゼリアさまがメイドにお茶を要請する。
そのまま昨日の事件について話し始めた。
突入したときは少し様子がおかしかったが、壊滅はしたようで一安心だ。
「そうですか。よかったです」
「はい、それは良いのですが……不自然な点が多くてですね。まず、アジトの中にいた組織の人間ですが、全員死んでいました」
「……え?」
「アジトに突入したときに、戦闘音などが聞こえなかったと思うのですが、あのときにはもう、息絶えていました」
「み、皆亡くなっていたのですか?」
ロゼリアさまは頷き、一枚の紙をテーブルに置いた。
なにかの建物の間取り図のようだ。
「あのアジトには思った通り、隠し通路などが多くありました。赤く塗りつぶしてあるのがそれです。けれど、そのどれも最近使われた形跡はありませんでした。使われたのは私たちが突入した入り口のみです。そういった点から、全滅で間違いないかと」
息を吐き、頭に手を置いてロゼリアさまは悩まし気な様子を見せる。
「けれどおかしな点が多いんです。まず組織の人間ですが、抵抗の様子なく殺されています。組織内での裏切りかと思われましたが、それにしては全員が離れた場所で死んでいます。まるで一瞬で殺害されたかのように」
その後、ロゼリアさまは見取り図を指さす。
「また、アジトの部屋の内、こことここ、そしてここの部屋が破壊されていました。それも原形をとどめないくらいに徹底的に。その部屋に何があったのかは、分かりません。さらに、一部の資料についても意図的に消失しているということが分かっています」
そして、と一拍置いて。
「ウリアさんが見たという橙の髪の女性ですが、見つかっていません。というよりも、男性でも女性でも橙の髪の人は居ませんでした。塵も残らないくらいに殺されているなら話は別ですが……」
「え?見つかっていないんですか?」
私は確かに橙色の髪を見た。
後ろ姿だったから間違いない。なのに、居ない。
(……白い髪のことは、言わない方がいいかも)
見た確信がない白い髪を言うと、レアさんに迷惑がかかる可能性がある。
この状況なら、間違いなくロゼリアさまはレアさんを調べるだろう。
「ちなみにですが、ウリアさんを狙った理由はアジトを調べて分かりました。組織はウリアさん個人を支配下に置くことで、各国に対して圧力をかけようとしたようです」
「……え?」
私を支配下において、各国に圧力。
あまりにも意味不明なキーワードが並び、私の頭は混乱した。
「ウリアさんは交友関係が多国に及びます。エディンバラでは伯爵家に身を置き、皇女である私と親友です。キルシュの天才技師ミストさんとは専属の技師契約をしています。ネクステスの4将軍の娘であるルナさんはあなたにぞっこんですし、ユグドラシルの姫であるムースさんとも良好な関係を結んでいます。アズマとは関係はありませんが、ここまで多くの国の要人と関わっていれば、それに目をつける輩もいるでしょう。私とムースさんとルナで今後の打診をしたのも、目立つ一因でしたね」
今になって思い返してみると、準備舎からの付き合いである皆はお偉いさんだ。
私の将来を簡単に準備できるくらいには。
そのことをはっきりと理解するものの。
(でもロゼリアさまは頼れるお姉さんだし、ルナは甘えん坊だし、ミストはマイペースだし、ムースはほんわかだし、エヴァはエヴァだしなぁ)
あまりそう言った目で見れないのも事実だ。
お偉いさん、というよりも、気の知れた友人という印象の方が強い。
「今回のことを考えると、これから先外出するときは誰かと一緒の方がいいかもしれません。リフィルさんがいれば問題はないと思いますが、念のために」
「はい、そうですね」
今は寮に居るのが基本だし、通学は皆と一緒だ。
アルトリウス家に戻るのはエヴァと一緒だし、お母様のお墓参りを誰かと行けば、もう大丈夫だろう。
「ちなみに支配下に置く方法ですが、ウリアさんに精神支配系の呪いをかけて自我を封じた後に、体に自爆式魔力弾をつけさせて私たちの言うことを聞かせるつもりだったみたいです。……むかついたので資料も、用意されていた呪い用の魔法陣も爆弾も全部破壊しておきました」
「え……怖すぎるんですけど……」
もしリフィルが居なかったらと思うとぞっとする。
私は爆弾付きの人質として、言いように使われていただろう。
ありがとうリフィル。本当にありがとう。
彼女の手をそっと握ると、上からもう片方の手でリフィルは握り返してくれた。
少しだけ安心しつつ、息を吐く。
「にしても、3年生は大きな事件がないと思っていたのですが、まさか最後の最後でこんな大きな事件が起こるとは……」
ロゼリアさまの言葉に私は頷く。
もうかれこれ一年以上ドタバタはなかったので、ちょっと疲れてしまった。
「ロゼリアさま、今日はもう帰るね」
「はい、そうですね。お疲れさまでした、ウリアさん。また明日、学園で。すみませんが、私の友人を学園の寮まで警護してください」
「はい」
ロゼリアさまが近衛の兵士さんに声をかける。
女性の兵士2名が返事をして、私の後ろについた。
ロゼリアさまと軽く挨拶を交わして、執務室を出る。
仰々しい敬礼を兵士さん達にされながら、私たちは王城を後にした。
王城からの帰り道は、城下町を通る。
今回はとくに用事がないのでまっすぐ寮へと帰る。
近衛の兵士さんも居ることだし。
ふと、通りの向こうから白色が歩いてくるのが見えた。
(あ……)
ついさっき考えていた人のため、思わず立ち止まってしまう。
向こうから歩いてきたのは、レアさんだった。
白い髪を風に靡かせながら、彼女は無表情で歩いている。
その目線は、私を確実に捉えていた。
「奇遇だね」
「レアさん、こんにちは」
レアさんに挨拶をするものの、私の目線は彼女の後ろから離れない。
侍女の格好をしたポニーテールの綺麗な女性。
「そういえば紹介してなかったね。彼女は私の専属侍女のシンシア。そっちはウリアの専属侍女?」
「あ、はいそうです。リフィルです」
「そう。奇遇だね。それではごきげんよう」
そういってレアさんは私の横を通り過ぎる。
その後をシンシアさんが続き、甘い香りが一瞬私の鼻をくすぐった。
慌てて振り向くと、レアさんは首だけを半分こちらに向けていた。
そのまま人差し指を立てて、唇の近くに持っていく。
(やっぱり、あの時居たんだ……)
彼女は歩き去っていく。
その後ろに、「橙色」の髪の侍女を連れて。
「お嬢さま」
後ろから声をかけられ、私は振り向く。
リフィルが、レアさんを見つめていた。
「レアさまの侍女ですが……エルフです」
その言葉にハッとする。
さっきレアさんが言った奇遇ですね、というのはそういう意味だったのか。
奇遇にも同じエルフを専属侍女としている、という。
「ですが……あの年齢のエルフにしては見たことがありません。もちろん私もユグドラシルの全エルフを知っているわけではありませんが。ユグドラシル以外の集落出身のエルフか、あるいは……」
「リフィル?」
「……あぁ、すみません。いずれにせよ、なぜ人間のふりをしているのか。差し出がましいようですが、髪色も橙ですし、レアさまには十分気を付けた方が良いかと」
「うん……そう……だね」
レアさんの最後の仕草が頭を過ぎる。
リフィルの言いたいことは分かる。
こうして、3年生の「最初の」騒動は、私の中に不安を残して終了した。




