第62話 最強の少女、レア・アンドロメダ
ネクステス4将軍最強の娘、ルナ・アルス。
そして謎の転校生、レティシア・アンドロメダ。
2人は向かい合って、テスタロッサを開放する。
ルナは月光花を、そしてレアさんは無表情のまま呟いた。
「■■■■■■■■■」
彼女が何を言ったのか、私には分からなかった。
少なくとも私たちが普段話している言葉ではない。
次の瞬間、レアさんの体を灰色の外套が包んだ。
ボロボロで、汚れた外套。初めて見る異質なテスタロッサだ。
「それでは、両者……初め」
ロゼリアさまの開始の合図と同時に、天空から火が降り注ぐ。
かつてのエヴァを急に襲ったような火柱が、ルナのいた場所に。
あの時、アセロラ嬢はルールを違反して多くの人物から強化魔法を受けていた。
その数は何十人にも及んだ。そのアセロラ嬢と同じくらいの威力。
「くっ……」
とっさにその場を離れたものの、逃げ切れずに炎に巻き込まれる。
焼かれながらも、ルナはなんとか耐えていた。
けれど炎が消えた次の瞬間、レアさんはルナの後ろに移動していた。
(嘘……エヴァと同じくらい速い!?)
瞬間移動を使ったエヴァと同じくらいのスピードで移動したレアさんの攻撃は、拳によるものだった。
けれどそれはルナのような格闘技を習ったようなものではなく、どちらかというと戦い慣れているような、そんな攻撃だった。
ルナはそれを月光花で防御するものの、あまりの威力に吹き飛ばされた。
地面を転がり、土ぼこりが舞う。
体勢を立て直しながら、ルナは汗をぬぐった。
(すごい……強い……)
たった少しの交戦を見ているだけでわかる。
流石に魔法ではあの魔王クロムには叶わないだろう。
けれど魔法と格闘の組み合わせのバランスではロゼリアさま以上だろう。
世界で一番強い。その言葉も間違いではないように思える。
(けど……どちらかというと力の暴力みたいな……)
レアさんは魔法も力も制御していない。
制御できないんじゃない、制御する気がないんだ。
レアさんは手のひらをルナに向けて、魔法を放つ。
見覚えのある魔法だ。クロムも使っていた、ウィンドランス。
クロムのように大量に発動させるわけではない。
ただ1つの風の槍に、収まりきらないほどの魔力を投入している。
あんなの……当たったらひとたまりもない。
風の槍は射出され、恐ろしいスピードでルナに迫る。
ルナは駆け出し、その風の槍を体を翻して避けた。
「ああああああぁぁぁぁぁ!」
咆哮し、ルナは素早くレアさんに迫る。
そのスピードは速いが、レアさんはルナの攻撃を外套を使って正確に防ぐ。
しかし、闇の魔力を纏ったルナの攻撃は鋭く、少しづつだがルナが押し始める。
接近戦はルナの得意な間合いだ。
この間合いに入れたなら、流石にルナの方が有利。
この距離なら、対ロゼリアさま相手だとしてもルナの方が勝率は高い。
「接近戦、強いね」
けれど、押されているはずなのにレアさんは表情が変わらない。
戦っていても、ずっと無表情だ。
そんな彼女が、一言ぽつりとつぶやいた。
纏う外套が光り、地面から岩の刃がせりあがり、ルナを傷つける。
魔法の攻撃で攻撃の手が止まったルナのお腹に、レアさんの拳が撃ち込まれる。
「がっ……」
拳は直撃し、ルナは背中をレアさんが出した土の刃の腹に強打した。
意識を失ったルナが、地面へと体を傾ける。
遠くから見ていても分かる。さっきのが勝負を分ける一撃。
「そこまで!」
ロゼリアさまがその様子を見て試合終了の合図を出す。
しかし、レアさんは止まらずに、右手に光の刃を作り出し、ルナに突き刺そうとした。
模擬戦は相手の気絶か、致命傷を直前で止めることで勝敗を決する。
レアさんの攻撃は明らかなやりすぎである。
ルナに光の刃を受け止めることはできない。
「審判の声、聞こえなかった?」
エヴァの声が訓練場に響く。
オーバーライトを展開したエヴァは瞬時に跳び、レアさんの光の剣を受け止めていた。
レアさんが片手のみなのに対し、エヴァは両手でオーバーライトを握り締めている。
またルナを包み込むように木の根が地面から生えている。
ムースもとっさにルナを護ってくれたのだろう。
「…………」
レアさんは何も言わなかった。
やがて彼女は光の剣をかき消し、手のひらをルナに向けた。
ルナの体を光が包み、傷が癒えていく。
「…………」
無言だが、ルナを回復してくれた。
少しだが、レアさんの優しさが垣間見れた。
彼女はルナの回復を終えると、ロゼリアを見た。
「……これで、実力は十分?」
「初めから私はレアさんの実力を怪しんではいません。……ですが、他のみんなも今ので分かったとは思います」
「そう……なら、私も訓練に参加していい?難しいことは分からないから、模擬戦くらいしかできないけど」
「え?」
レアさんの言葉に私は反射的に声を出してしまった。
彼女は顔をこちらへと向けてくる。
「……なに?」
「あ、ち、違うの。逆にレアさんはいいのかなって……」
「私は構わない」
無表情だが、レアさんは訓練に参加しても構わないそうだ。
さっきの模擬戦の結果だけを見ると、レベルが低いと言われそうな気もしたが、無表情なだけで優しい人なのかもしれない。
そんなことを思いながら、訓練へと戻った。
「すごかったね、レアさん」
「……そうだね、かなりの実力者だった。それこそ、ロゼリア以上かもしれない」
訓練を行う皆を離れた場所で見ながら、私とエヴァは休憩をしていた。
先ほどの模擬戦を思い出しながら、2人で話し合う。
エヴァもレアさんの実力は認めているらしい。
レアさんの適性は知らない。
けれど、相当高いのではないかと思う。
「やっぱり、適性ってすごいね。技も何もなくても、正面から打ち破っていける」
「お姉様、適性のこと、引きずってるの?」
エヴァが気遣うように声をかけてくる。
2年生の最後には、1年生の時と同じく適性の検査があった。
結果は、全く変わらず。
1年訓練をした。魔王クロムという強大な敵とも戦った。
もちろんこれまでの人生で適性が成長しないのはほとんどだった。
むしろ成長した1年生の時が特別だったのだろう。
「うん……もちろん強くなることを諦めたわけじゃないよ。でもちょっとショックだったんだ。みんなに追いつけるかなって思ったんだけどね」
「お姉様……」
もちろん、適性が全てでないことは分かっている。
だからこそ、ちょっとショックではあるが、そこまで思いつめてはいない。
私は首を振って、エヴァに笑いかけた。
「それに、適性はテスタロッサを考慮に入れてないからね。マリアを起動すれば、1年生の時よりも今の方が格段に強くなってるから、大丈夫!」
「……うん、そうだよ!お姉様はマリアの力を最大まで引き出すんだもん!私でもテスタロッサはそこまで使いこなせないからね。だから適性じゃなくて、普通に強くなっていこうね!」
「うん!」
気合を入れなおし、皆の訓練を観察する。
強さは適性だけじゃない。テスタロッサの技量や、戦いでの判断などさまざまだ。
私は私にできることをやる。それだけだ。
ふと、遠くに立つレアさんと目が合った。
彼女は相変わらずの無表情で、私とエヴァが話しているのを見ていたようだ。
距離的には会話は聞こえていないだろう。
彼女は私としばらく目を合わせた後に、模擬戦相手であるルナと向き合っていた。




