第56話 この一連の騒動の黒幕
「どこにいった!?」
「分からないわよ!あのロリコン教師、絶対に許さない!」
ロッド先生を追いながらも、出遅れた私たちは彼の行方を見失っていた。
ルナとエヴァが苛立つように叫ぶ。エヴァに関しては先ほどのオーバーライトの奇襲が成功しなかったのが原因な気もするが。
そんなときに、遠くに人影を見た。
その人影は後ろ姿で、けれど見覚えがあった。
「ねえ……あれ……」
私の声に反応して皆が彼女を見る。
先ほどまで騒いでいたエヴァも、言葉を失っていた。
間違いない、彼女はクローネ先生だ。
まるでぼやけたような輪郭だが、はっきりとわかる。
そんな彼女が、右手を上げて方向を示す。
すると次の瞬間には霧のように消えてしまった。
「……きっと向こうなんだ!行こう!」
クローネ先生が力を貸してくれている気がして、思わず彼女のさす方向へ進もうと決めた。
いや、正確にはもう頼れるものがクローネ先生しかいなかった。
皆も同じようで、クローネ先生が示した通路を進んでいく。
クローネ先生は私たちの前に何度か現れては、道を示してくれた。
「これ……大講堂の方?」
「みたいですね」
走りながら、行く先が大講堂だと気づいた私たち。
予想通り大講堂にたどり着き、その扉を思いっきり開けた。
大講堂の真ん中には、ロッド先生が居た。
その腕の中にはミストを抱えている。
「覚悟!」
「だめですルナさん!殺してはいけない!無力化してください!」
「えぇ!?そんなの無理に……わわわ!」
果敢に襲い掛かったルナだが、ロゼリアさまに止められ困惑した声を出す。
その間にロッド先生は反撃を行い、放たれた魔法にルナは避けるしかなくなった。
「ちょ、ちょっとロゼリアさま、先生ですよ!?本気でやらないと無理に――」
文句を言おうとしたルナは何かを感じてとっさに私たちの方に跳んだ。
突然の行動だが、次の瞬間には突風が巻き起こり、ロッド先生を吹き飛ばした。
「ミ、ミスト!?」
突然の攻撃にミストの安否を心配したが、彼女は風に包まれて守られていた。
結果としてロッド先生のみを風は攻撃し、彼を大講堂の壁に叩きつけた。
(この……風……)
この魔法の感触をよく知っている。丁寧なのに密度が濃く、それでいて過激。
こんな高度な魔法を使えるのは。
「探しましたよ、お嬢様」
「リフィル!?」
大講堂の扉を開けながら、メイド服のリフィルが入ってきた。
「ちょっとロゼリアさま、どういうことですか?」
「すみませんルナ、ですがロッド先生は真犯人ではないのです」
「はぁ?ロッド先生がミストを攫ったのも見たじゃないですか」
「犯人はロッド先生ではなく、あちらの方です」
ロゼリアさまはルナを抑止しつつ、壇上を指さした。
そちらをみると、クローネ先生がこちらを見て微笑んでいた。
後ろ姿ではないためにはっきりとクローネ先生だとわかる。
けれどその体は透けていて、まさに幽霊といった感じだった。
「ま、待ってくださいロゼリアさま。犯人って、クローネ先生はここまで私たちを案内してくれたんですよ?」
「逆ですよ。案内していたのではなく、誘い込んでいたんです」
「え?」
ロゼリアさまの言葉に思わずクローネ先生を見る。
しかし彼女は相変わらず微笑んでいるばかりだ。
「この肌を刺すような感覚……【天】と対峙した時と同じです」
リフィルの言葉にロゼリアさまは頷き、クローネ先生と向かい合う。
「まさかと思いましたが……追い詰めましたよ、魔王さん」
壇上に立ったクローネ先生は微笑んだまま拍手をする。
無機質な音が、講堂内に響き渡る。
次の瞬間、クローネ先生の姿がブレ、急に青年の姿になった。
黒い長髪をポニーテールのように束ねた、眼鏡をかけた男性。
漆黒の魔導士のローブが風に揺れ、その体は床からは浮いている。
(……この人が……魔王……)
生まれて初めて対面する魔王に、私の体が震えをあげる。
これが、この世界の超越者の1人。本物の魔王。
(この感覚……やっぱりあの冷たい視線は……)
それと同時にこれまで一瞬だけ感じていた凍えるような視線が、彼のものであることも理解した。
何もしていないのに分かる。この人は強い。
私が今までに出会った誰よりも、ずば抜けて強い。
「素晴らしいですね、ロゼリア皇女。いつ気づいたのですか?」
その声は透明感があり、耳に残るような声だった。
一言一言に抗えない力がこもっているようにも思える。
「気づいたのはすぐでした。クローネ先生が自ら命を絶ち、ロッド先生が代わりに赴任した。けれど私はクローネ先生が自殺するような人には思えませんでした。だからロッド先生を調べました。彼は確かにエディンバラの魔法師団に所属していました。研究もしていた。彼の言動や魔法知識は調べた通りでした。だから私は彼が本人だと思いました」
ロゼリアさまは強い目で魔王を見ながら答える。
裏でそこまで調べていたロゼリアさまの調査力に私は驚いていた。
本当にロゼリアさまは、すごい。
「ロッド先生が怪しくないなら……もう怪しいのはクローネ先生の霊しかないでしょうから」
「ふむ……でもそれでは誰かが完璧にロッドに変装をしているという点が抜けていますね。そこを考慮に入れないのは減点でしょう」
「いいえ」
首を横に振ったロゼリアさまは不敵に微笑んだ。
「私は今回の一連の騒動が、ミストさんにかけた洗脳魔法が解けたところから起きたと考えています。そしてそんな卑怯な魔法をかける人が、解いた元凶がいるであろうこの学園に、ロッド先生なんていう分かりやすい方法で潜入するとは思えませんでしたから」
「……なるほど、ではこの事件の犯人が私であることも読んでいたのかな?」
「はい。聞いた話ですが、ネクステス最強のユエさんでも見抜けるのがやっとだった闇の魔法。そんなものを使いこなせるのなんて、世界に魔王しかいないでしょう?」
そうか。この人が……ミストにあんな魔法を。
ふつふつと怒りが湧き上がってくる。こいつのせいで、ミストは苦しんだ。
今だって、苦しんでいる。許せない。
「その通りです。素晴らしい推理力ですね。それに、思わぬ収穫もありました」
魔王はリフィルを見て興味深そうに目を細める。
「ヒビキを退かせたエルフの小娘が、まさかこんなところにいたなんて……まあいいでしょう。いずれにせよ正体を見破ったのはダメでしたね」
彼の手に、黒い杖が出現する。その杖は真っ赤な宝石を抱き、禍々しい雰囲気を出していた。
「魔王【深淵】のクロムウェルです。クロムでいいですよ。……まあ、覚えたところで君たちは全員ここで終わりですが」
「聞いていませんでした?追い詰めたといったんですよ。覚醒せよ、『R・O・F』」
ロゼリアさまがテスタロッサを展開し、私たちもそれに続く。
数はこっちの方が圧倒的に有利。けれど、今までのどの戦いよりも厳しいものになる予感がした。
◆ルート開放条件
・魔王【深淵】がエディンバラ学園に潜入している
※原作ではルートが存在しません




