第54話 学園で、なにかが起きている
「クローネ先生を見たって……そんなわけなくない?」
いったんミストを落ち着かせ、皆が登校するまで背中をさすっていた。
全員が揃ったところで私からミストの話を伝えると、ルナはそんな馬鹿なという顔をして聞き返してきた。
他のメンバーも同様の反応だ。
「クローネ先生はすでに死んでいます……ミストさん、どのように見たのですか?」
「昨日の……夜……部屋に忘れ物を取りに……調整室を出て……途中の廊下で……」
「……ふむ。クローネ先生はどのような姿でしたか?顔も確認しましたか?」
ロゼリアさまの質問に、ミストは首を横に振った。
「後ろ姿だけだったから……服はよく着てた……やつだと思う……」
「ふむ……」
「ひょっとしたら……ただ疲れてただけで……見間違いかも……」
考え込んでいたロゼリアさまはミストの言葉に、「いえ」と切り出した。
「ミストさんがどれだけテスタロッサに集中していても、幻覚を見るようなことは今までなかったはずです。どちらかというと何かが起こっていると考えた方がよいでしょう。ミストさんがクローネ先生を見た場所をもう少し詳しく――」
「ミストさん」
話している途中で、誰かが話に割り込んできた。
顔を向けてみると、見知らぬ生徒が立っていた。
学生服を見る限り、第5寮の生徒のようだ。
「ミストさん、そろそろ先生が来るよ。教室に戻ろう」
「…………」
ミストは驚いたように目を見開いている。
この生徒を見るのは初めてだ。ミストと親しいという話も聞いたことはない。
とはいえ、先生がそろそろ来る時間なのは間違いない。
ミストは名残惜しそうに教室を後にした。
その日の放課後、私たちはすぐに第5寮の教室に向かった。
教室にはまだミストは座っていて、その顔色は朝と同じく悪そうだった。
私たちは中に入り、ミストを支える。
「ミスト……今日は訓練を中止して医務室に寄った後に寮に戻ろう」
「……うん……そうする……ありがとう」
ミストを右から支え、エヴァが左から支える。
ゆっくりとした歩みで、私たちは医務室へと向かう。
「考えてみたけど……やっぱり見間違い……かも。一瞬しか……見てないし」
「ひとまずその件は忘れましょう。いずれにせよミストさんの体調が悪いのは間違いありませんからね。休養が一番です」
クローネ先生の話をしつつ、私たちは医務室に到着し、中に入る。
いつもいるはずの保険医の先生は、居なかった。
「とりあえず先生が来るまではベッドに横に――」
「おや?皆さんどうしたんですか?」
振り返ると、扉を開けて中に入ってきたのはロッド先生だった。
「ロッド先生?どうしてここに?」
「書類を届けに来たんですよ」
ムースの質問に答えながら、ロッド先生は机の上にプリントを置く。
すると先生は座っているミストに気づいた。
「どうしたんですかミストさん、顔色が悪いようですが」
「実は、体調が悪いみたいで」
「ふむ」
すると先生はミストに近づき、しゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「目のクマがひどいですね。顔色も悪い。眠れていないような気がしますね。ミストさん、いったい――」
「あら?」
ロッド先生の言葉をかき消すように扉を引く音が響く。
入ってきたのは白衣を着た保険医の先生だった。
「どうしたの?体調でも悪いの?あ、ロッド先生書類ありがとうございます」
保険医の先生はボードのようなものを机に置くと、ミストに近づく。
その途中でロッド先生に「女生徒に近づきすぎですよ」と牽制した。
保険医の先生はミストの顔に触れつつ、様子を見る。
「……完全な寝不足ですね。睡眠導入剤を渡しておきましょう。効果は弱いですが、多少はましになるでしょう。あとは寝る前にテスタロッサの調整は控えてください。眠れなくなりますからね」
先生はそう言って薬をミストに渡す。
ミストはコクコクと頷いた。
私はそんなミストを支えるようにして医務室から出ようとする。
「大丈夫ですか?皆さんとミストさんでは寮が違うようですが、私が運びましょうか?」
「いえ、大丈夫です。私たちが第5寮まで運びます」
「そうですね。大変だと思いますが、よろしくお願いします」
相変わらず過保護なロッド先生をエヴァが断り、私たちはミストを寮に送り届けた。
その日の夜、私は大きな音を聞いて目を覚ました。
上体だけを起こすと、辺りは真っ暗だった。
けれど遠くから音が聞こえる。
場所は第1寮の中だろうか?なにか魔法を放つ音が聞こえる。
(エヴァは……寝てる)
目線を隣のベッドに向けるが、エヴァは熟睡していた。
そのあどけない寝顔を見て微笑ましくなりつつも、耳を傾ける。
まだ、音は続いている。
(なんだろう?)
確認しようとベッドから出ようとしたとき、視線を感じた。
ふとそちらを見てみると、侍女との部屋を隔てる扉から、目が覗いていた。
「ひっ……あ、り、リフィル……」
一瞬怖くなり悲鳴を上げそうになったが、その正体を知って何とか落ち着いた。
リフィルは扉をゆっくりと開け、こちらに近づいてくる。
「……驚かさないでよ、リフィル」
「申し訳ありません。ですがお嬢様……聞こえますか?」
「うん……魔法の音かな?」
「気になると思いますので、代わりに確認してきましょうか?」
少し考え込んで、このままでは寝れないと思い、リフィルを頼ることにした。
「うん、こんな夜遅くだけど、お願いしてもいいかな?」
「はい、お任せください」
そう言ってリフィルは部屋を出ようとする。
その横顔を見ながら、私は背筋が凍るような感覚に陥った。
気づけば、リフィルのメイド服の袖をつまんでいた。
「待って……やっぱり行かなくていいよ。ううん……行かないで」
「お嬢様?」
リフィルが驚いたように私を見る。
けれど止めないとだめだと思った。一生後悔すると思った。
「わかりました。それでは気になるかもしれませんが、今日は寝ましょう。お嬢様、寝れそうですか?」
「うん、大丈夫だよ」
リフィルは部屋を出るのをやめ、私に微笑みかけた。
嫌な予感は消え、安心した私も返事をする。
「もし何かあれば呼んでください。すぐに向かいます」
リフィルはそういうと廊下へとつながる扉を一回だけ見て、この部屋から繋がっている侍女の部屋へと戻っていった。
相変わらず魔法の音は聞こえていたけど、音はかなり小さくなっていて、かろうじて聞き取れるくらいだった。
私はベッドに寝そべり、目を閉じる。
間もなく、私は眠りへと落ちていった。
翌朝、目を覚ます。
昨日のことが気になって、すぐに侍女の部屋を覗いてみたけれど、リフィルの姿はなかった。
もしかして、あの魔法の音を確認しに?
リフィルを失うかもしれない恐怖が一気に襲ってきて、手が震えた。
慌てて探しに行こうとしたところで廊下とつながる部屋の扉が開き、リフィルが入ってくる。
リフィルの無事を確認して、私は胸をなでおろした。
「よかった。昨日の音を探りに行ったのかと……」
「……お嬢様が行かないでと言ったのですから、行きませんよ」
リフィルはそう微笑む。
彼女がいることに安心して、朝にどこに行っていたのかに関してはすでに頭から抜け落ちていた。
その後、エヴァと朝食をとり、寮前でみんなと待ち合わせをする。
いつもの朝の日常。今日もまたいつも通りの一日が始まる。
そう思って学園に向かって歩き始めたとき。
(っ!?)
急に体中を襲った寒気。
とっさに振り返ると、そこには誰もいない。
けれど上を見てみると、窓からこちらを見ているリフィルと目が合った。
彼女は微笑むと私に向かって手を振ってくる。
(勘……違い……?)
確かに感じた寒気に戸惑いつつも、私は窓の向こうにいるリフィルに手を振り返した。
◆ルート開放条件
・■■【■■】がエディンバラ学園に潜入している
※原作ではルートが存在しません
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