第45話 ユグドラシル王子は元婚約者
本日はあと3話更新予定です
エディンバラ学園の2年生に進級した。
クラスは1つしかないので、クラス替えはない。
ただ第2寮や第3寮からこちらの寮に移動してきた生徒は何人かいる。
とはいえ、私たちには関りがほとんどない。
相変わらず真面目に授業を受けて、エヴァ達と訓練をする日々だ。
そんな日々が変わったのは、ある春の朝のことだった。
その日、私は教室がざわざわし始めたことに気付いた。
前の扉を見てみると、金髪の男子生徒が入ってきていた。
ネクタイの色を見る限り、ラークさまと同じ3年生のようだ。
金の髪に、緑の瞳、そして尖った耳。
ユグドラシル国における第二王子、ソラス・ユグドラシルさまだ。
ムースのお兄さんでもある。
彼はムースの姿を見つけると、彼女のもとに歩きよった。
「ムース、話がある。放課後時間を作ってもらえないか」
「え?構いませんよ。では放課後にお兄様の教室に伺いますね」
「ああ、頼むよ。それじゃあ授業頑張って」
少し会話をしたソラスさまは教室を後にする。
ソラスさまがいなくなったあとも、教室の女子生徒は色めき立っていた。
ラークさまが俺様系のイケメンだとしたら、ソラスさまは白馬の王子様だ。
人気があるのも納得できる。私はどちらも好みではないが。
ただ今まで彼がムースを訪れることはなかった。
なにか、嫌な予感がした。
その嫌な予感が現実のものになったのは、次の日の朝だった。
私はエヴァと一緒にムースに呼び出された。
教室を出て、廊下で話をする。
「えっと……なにから話したものか……私の兄を知ってる?」
「ソラスさま?」
「あ、いやソラスお兄様ではなく、もう一人の兄、ジラルド・ユグドラシルの方」
ムースにソラスさま以外にも兄がいたなんて知らなかった。
エヴァも同じようで、首を横に振っている。
「ジラルドお兄様はもうこの学園を卒業してるからね。実はソラスお兄様を通してジラルドお兄様から言伝があって……」
「え?ジラルドさまから?」
ムース、ソラスさまのお兄さんということはユグドラシル国の王子様ということだろう。
そんな人が私たちに何か用事だろうか。
「ウリアにじゃなくて、ウリアの専属侍女であるリフィルさんに、なんだけど」
「リフィルに?」
「うん。あの……言われたことをそのまま言うから怒らないでね?私が思ってるわけじゃないから……こほん。リフィル・フローディア、俺様の婚約者に戻してやる。だからエディンバラの貴族の侍女なんていう真似は辞めろ……だそうです」
「えぇ……?」
言われた内容がよく分からなくて、頭を抱える。
リフィルが私の専属侍女になってからもう5年が経っている。
それにユグドラシル内でちゃんと話をしているはずだが。
「知らないと思うんだけど、実はもともとリフィルさんとジラルドお兄様は婚約を結んでたの。だけど2人は5年前に正式な婚約解消を行っているはず。なんで今更……」
ムースの言葉に記憶を思い返す。
確か懇親パーティで初めて会ったとき、婚約者にも嫌われていると言っていたような気がする。
「ジラルドお兄様は性格にちょっと難があってね。元婚約者であるリフィルさんには勿論のこと、ソラスお兄様や私にも上からモノを言ってたんだ」
「なにそれ、感じ悪い」
「エヴァさんの言う通りだね。……一応リフィルさんに伝えてもらえるかな?」
「うん、わかった」
ムースと別れ、もやもやした気持ちのまま私たちはその日の授業を受けた。
その日の夜。いつものように訓練を終わらせ、寮の自室に帰る。
座ってエヴァと一緒に休みながら、リフィルに朝のことを話した。
「……最悪ですね」
話を聞いたリフィルは忌々しそうにつぶやいた。
「ジラルド王子ってどんな人なの?」
「そうですね……ウリアお嬢様と正反対の人です。自分勝手、暴力的、他人蔑視、暴言だけ豊富と悪い点はいくらでも出てきます」
「リフィルよく我慢できたね……」
強い嫌悪感を隠そうともしないリフィルに、ジラルド王子がかなり酷い人だということが分かる。
そんな人を婚約者にして、好かれようとしていたなんて。
「お嬢様と出会う前の私は、誰かに愛されることに飢えていましたからね。今となってはあのとき手を差し伸べてくれなかった人達などどうでもよいのですが」
初めて会った時に比べると、リフィルはかなりドライになった気がする。
というよりも、感情の向ける先が私たちに向いているだけか。
「で、どうするの?返事するの?」
「無視しますよ。めんどくさいですし」
「まあ、そうだよね」
予想通りのリフィルの返答に、私は苦笑いをした。
向こうから何か言ってくるまでは、無視するのが一番だ。
事態が動き始めたのは、一週間後だった。
とくに何もなかったので忘れていたくらいなのだが、寮の入り口で出会ってしまった。
「……お嬢様」
「あ?こいつがお前の主か?」
入り口に居たのは洗濯籠を持ったリフィルと金髪の長髪の男性だった。
長い耳に緑の目、おそらくムースのお兄さん、ジラルド王子だろう。
「なにしてるわけ?ここ学園の寮だけど」
「あ?てめえには関係ないだろ」
エヴァの質問に対し、ジラルド王子が暴言で返したためにむっとした。
なんだこの人。ラークさまよりも数倍感じが悪い。
「失礼、お久しぶりですねジラルド殿下」
「ロ、ローズ皇女殿下……」
しかしそれを見かねたロゼリアさまが声をかける。
知り合いなのか、ジラルド殿下は驚きつつ、機嫌をうかがうような態度へと変わった。
改めて私たちを見て、めんどくさそうな顔をしている。
「学生への干渉は禁止されている筈ですが」
「申し訳ありません。用があるのは生徒ではなく侍女の方です。許可の方はガイウス王より頂いております。……リフィル、さっき言った通り、絶対に来いよ」
ジラルド王子は逃げるように私たちの前から消えた。
その背中を、リフィルはひどく冷たい目で見ていた。
「いったい何があったのですか?」
事情を知らないロゼリアさまはリフィルに聞く。
リフィルは頭を一度下げると、事情を話し始めた。
「詳しいことは分からないのですが、私との婚約について話があると。詳細は週末に城下町のカフェで話をするとのことです。すみません、寮の前であのような失態を……」
「いえ、それは構いません。にしても、婚約者ですか。王子の婚約者ということならば地位的にはかなりの好待遇ですが、どうするのですか?」
「私は地位や権力には興味がありません。それに、ジラルド王子のことは嫌いです」
「ふむ……」
リフィルから話を聞き、ロゼリアさまは考えるそぶりをする。
やがて何かを思いついたように、私を見た。
「ウリアさん、週末のリフィルさんとジラルド王子の話し合いに同席していただけませんか?私の予想が正しければ、面白いものが見れるかと」
「……え?まあ、いいですけど」
リフィルとジラルド王子の話し合いに私が居て意味などあるのだろうか。
そんなことを思いながらも、ちょっと心配だった私はロゼリアさまの要求を快諾した。
◆「ユグドラシル王子襲来」ルート開放条件
・リフィルが魔王【天】との戦いで生存する
・リフィルがウリアの専属侍女になっている
・リフィルがユグドラシルに5年以上帰国していない
※いずれも原作では条件達成不可




