第35話 私が戦うたった一つの理由
「それじゃあ仕切りなおして、ウリアチーム対フィリップチーム、開始!」
「おはよう、マリア」
戦闘開始の合図と同時にマリアを起動する。
先ほどのような爆発は起きない。
そのことを確認して、私は敵を注意深く観察する。
(前衛が2人、後衛が3人)
フィリップくんを含む剣士が2人に、アセロラ嬢を含む魔法使いが2人、そして弓使いが1人。
人数面ではこっちの方が圧倒的に不利。けれど負けるつもりなど毛頭ない。
ユウリィから補助魔法を受け取り、私は走り出す。
目標はフィリップくんただ1人。
彼に近づき、剣を振るう。しかし、あっさりとマリアはフィリップくんに防がれてしまう。
「終わりだ!無能!」
横からもう1人の剣士の生徒が襲い掛かってくる。
相手は私たちより2人も多いのだ。それを狙ってくると思っていた。
左手を動かし、光の剣を発現させ、それを素早く投げた。
マリアの補助とユウリィの補助魔法。その2つで強化された光の剣は素早く飛ぶ。
それを、生徒は剣で受けるではなく、避けた。
流石に2つの強化が加わっていれば、私の得意な光の魔法なら人並みにはなる。
あるいは、前にセレン先輩との戦いで見せたから警戒したか。
「逃がさない!」
声を聞いて私は後ろに跳んだ。
先ほどまで私がいた場所に火の槍が降ってくる。
距離を取ったため、私は無傷だ。
『いいですかウリアさん。相手にもよりますが、叫ぶという行動は大きな情報です。それをするときは、攻撃をする可能性が非常に高い。とくに学生レベルならば、それを聞いてとっさにどこかへ逃げることも容易いでしょう』
ロゼリアさま、ありがとうございます。
飛んできた矢を剣で弾いて、私は内心で感謝を告げる。
「よくも……エヴァに放った魔法をまた撃てましたね」
私の怒りに、アセロラ嬢はびくっと体を震わせた。
それと同時に、横目でちらっともう1人の魔法使いの生徒を観察する。
彼女はこれまでの流れに驚いているようだった。
『戦うときは目の前の相手に集中しがちだけど、もっと視野を広くした方がいいよ!情報が多ければ多いほど有利だからね!』
ルナの言葉が頭の中でよみがえる。
私、ちゃんとできているよ。
マリアを握りなおし、私は再びフィリップくんに向けて駆けだした。
先ほどと同じ光景に、彼は鼻で笑う。
「何度やっても無駄だって分からないのか!」
「フィリップ!同時にやるぞ!」
二度目の攻撃に、2人は合わせてくる。
アセロラ嬢も魔法使いの生徒も、魔法を唱え始めた。
弓使いの生徒もまた、矢を放とうとしている。
全員が私を見ている。そう、私だけを見ている。
『魔法使いからすると、ウリアさんのような前衛の方はありがたいです。あなたたちがいるから、私たちは安心して魔法を準備できますから』
ムースさんの言葉を思い出しながら、私は足に力を入れ、後ろに下がろうとする。
フィリップくんたちは剣を振るっているので、その剣先が鼻先をかすった。
かろうじて戦えている。それはマリアの力とユウリィの力。
そしてなにより、相手が「私が無能」だと侮っているからだ。
「今度こそ!」
「いけぇ!」
火と水、そして矢が後ろに下がる私に襲い掛かる。
マリアで弾くことも考えた。けれど、今回はそれができない。
回復魔法を唱え、防御を固める。
流石に致命傷になる位置に飛んでくるであろう矢だけは必死に目で追う。
もう残りの魔法は仕方がない。
「っ!」
水の魔法は防ぎきれたが、火の魔法は体で受けた。
ギリギリで回復魔法が間に合う。
とはいえダメージは甚大だ。
(でも……間に合ったはず!)
私が地面に着地した瞬間、世界を闇が包んだ。
何も見えない。真っ暗な世界。
「な、なんだ!?」
「なに!?なんなの!?」
フィリップくんたちは突然の出来事に慌てている。
けれど私は止まらない。マリアを片手に、走り出す。
オリーさんは仕事をしてくれた。
彼女のもっとも得意な魔法は闇。だからこそ、エヴァはその力に目を付けた。
『オリーの魔法で視界を封じるの。それなら私達は一方的に敵を倒すことができる。流石のロゼリアでも、1対4なら勝てないでしょ!そのための時間は私が稼ぐよ!』
本当はロゼリアさまと戦う決勝まで残しておくはずだった。
まさかこんなことになるなんて。
でも、私はエヴァの代わりに時間を稼ぎ続けた。
(エヴァほど完璧じゃないけど……私、頑張るからね)
剣士の生徒に一気に肉薄し、剣を振るう。
まだ視界が戻っていない剣士の生徒は私のマリアに切り裂かれ、地に伏した。
あの程度の傷なら訓練場の自動回復機能で問題はないだろう。
そう思いながら私は走り、弓使いの生徒にも同じように一太刀を浴びせる。
『集団戦における大事なコツは1対4をするのではなく、1対1を4回することです』
リフィル、言うとおりだね。
これで、3対3。
「そうか……闇の魔法か!姑息な!」
「でも、もう見える!……きゃあああ!!」
オリーさんの闇の魔法の効力が切れ始める。
フィリップくんたちは視界を取り戻し、魔法使いの生徒は魔法を唱え始めた。
しかし、次の瞬間にはオリーさんの水の魔法により、体を貫かれた。
ユウリィの補助魔法は一人にしか効果がない。
だから、オリーさんの闇の魔法が発動した後はオリーさんにかけてもらっていた。
結果としてオリーさんは敵の1人を撃破。
これで、あと2人。
「調子に乗らないで!」
「うるさい!」
怒りに任せて光の剣の魔法を放つ。
「そんなの、見えてれば……なっ!?」
防ごうとしたアセロラ嬢の防御を、光の剣が打ち崩す。
その隙を見逃さず、ユウリィの放った光の弾がアセロラ嬢の頭に当たった。
彼女は衝撃で地面に倒れ、動かなくなる。
「ナイスユウリ――」
「お前たち、3人ともただですむと思うな!!!」
振り返り、とっさにフィリップくんの剣を受けた。
しかし体勢が不安定だったせいで、受けるので精いっぱいになってしまう。
少しでも気を緩めれば、もっていかれる。
「無能らしく、よく考えたじゃないか!こんな卑怯な手を使ってくるなんてな!!」
「……あなたたちだって……エヴァに卑怯なことを……したじゃない!」
「俺たちは力でエヴァ様を押しつぶした!!でもお前たちは力じゃない!一緒にするな!」
何を思ったのか、フィリップくんの表情が愉しげに歪む。
「俺達でも勝てるんだ。なにが成績優秀者だ。どれだけ適正が高かろうと、エヴァ様は……エヴァは負けた。あの女にだって、勝てるんだ!」
あぁ、こいつは……どこまで私を怒らせれば気が済むんだ。
『ウリア……いつかあなたにも大切な人ができるわ。……その人を、失わないように、護ってあげるのよ』
私、ようやくお母さまの言葉の意味が分かったよ。
エヴァやロゼリアさま。私の周りの大切な人を、護りたい。
皆強いから、大丈夫だって思ってた。
でも、それでも護りたいんだ。
「君はエヴァには勝てないよ」
「なんだと!?」
「人を傷つけることしか考えてない君に……私たちが負けるもんか!!」
力を振り絞り、剣を押し返す。
もっと。もっと強く。彼を打ち破れるだけの力を、私に。
「ああああああぁぁぁぁ!!」
刀剣が光り輝き、力が湧いてくる。
光の魔力が、噴水のように溢れてくる。
光輝くマリアはフィリップくんの剣を軽々と弾く。
そしてそのまま驚いた表情を浮かべるフィリップくん目がけて、力の限り振り下ろした。
剣が、彼の体を切り裂く。
フィリップくんの体はそのまま後ろに傾き、地面に音を立てて倒れた。
「そこまで!勝者ウリアチーム!」
ルイン先生の言葉が会場に響く。
勝った。勝ったんだ。やったよエヴァ。
「あり……がとう……マリア……」
視線を白銀の刃に向ける。
あんなに眩く光っていたと思っていたマリアは、その光を失っていた。
あれは……見間違い?
「あれ?」
視界が揺らぎ、平衡感覚が失われていく。
立っていることができなくなり、その場に座り込んだ。
耳鳴りがする。目が回る。
誰かが近づいてくるが、その姿がにじんでよく見えない。
(あ……もうだめだ……)
そう思い、私は地面に倒れこんだ。
誰かの声を遠くに聞きながら、意識を深い闇へと落とした。




