第33話 最高のチーム……かもしれない
夏の暑さも少しずつ引き、秋の涼しさがやってきた今日この頃。
準備舎の教室では生徒達がざわついていた。
彼らが話すことはただ一つ、チームトーナメント戦についてである。
私も知っていることは少ないが、今から一か月後に行われるイベントだ。
教室内でチームを組み、他のチームと対戦をする。
勝った場合はトーナメントなので次のチームと、負けたらそこで終了という形だ。
みんなが話しているのは、メンバーのことだ。
「先生が決めるのかな?」
「私たちで勝手に決めるとかになるのかな?」
「でもその場合ローズ様が強すぎない?」
「うーん、制限がかかるとか?」
みんな思い思いの事を話している。
私もチーム分けがどうなるのかは気になるところだ。
先生が決める場合は、一緒に組んだ生徒と上手くいくかが不安だ。
とくにアセロラ嬢やフィリップくんなんかは私のことを嫌っているし。
逆に自分たちで組む場合も微妙だ。
すぐに思いつく組み合わせは私、エヴァ、ロゼリアさまだけど、ルナやムースさんだっている。
それに、エヴァとロゼリアさまが組んだら強すぎるだろう。
先生がそのことを考えていないとは思えない。
そんなことを考えていると、前の教室の扉が開き、シール先生が入ってきた。
彼は教卓に立ち、挨拶をする。私たちも一斉に朝礼をする。いつもの流れだ。
先生は、さて、といって周りを見回した。
「昨日も言いましたが、今日の最初の授業はチーム分けについて決める場とします」
その言葉に、教室がざわめく。
「お静かに。メンバーに関しては皆さんの方で自由に組んでいただいて構いません」
ただし、と言ってシール先生は眼鏡のズレを指で直した。
「成績優秀者同士が組むことは禁止とします。成績優秀者を含むチームは必ず5チームになるようにしてください。同一チームに成績優秀者2名以上は認めません。これは試合バランスを考えた措置です。さらに成績優秀者を含むチームは4名を上限としてください」
なるほど上手いこと考えたなと思った。確かにこれならば成績優秀者は分かれる。
ドリームチームのようなものを作らない措置だろう。
「また、テスタロッサ調整専攻の生徒に関してはトーナメントには参加できませんが、参加する生徒の調整を行うことは可能です。すでに特定の生徒のテスタロッサ調整を請け負っている場合は、その旨を今から配る紙に書いてください」
そういってシール先生は紙をミスト達に配り始める。
準備舎には将来、テスタロッサ調整を専門に学ぶ予定の生徒も在籍している。
ミストがそうだ。
具体的に指導内容が変わるのは学園入学後で、準備舎では基礎的なことを習うために私たちと同じ授業を受けている。
座学に関しては問題ないが、実技に関してはテスタロッサを見て、次の調整案などを考えるのが主な過ごし方だ。
私のクラスにはそういう生徒がミスト含めて5人居る。
ミスト達に紙を配り終えたシール先生は、再び教卓に戻り教室中を見回した。
「それじゃあ、皆、自由に立ち上がってチームを組んでください」
シール先生がそう言った瞬間、背中をつつかれた。
振り向くと、エヴァがニコニコと微笑んでいた。
「お姉様、一緒に組もう?」
「うん、そうだね」
もしも成績優秀者から一人を選べとなったらエヴァを選ぶだろう。
そう思っていた私はエヴァの誘いを快諾した。
ふと遠くを見ると、ロゼリアさまが恨みがましそうな目でこちらを見ていた。
苦笑いをしながら頭を下げると、溜息を吐いて困ったように笑ってくれたが。
ちなみにルナに関しては私を涙目でじっと見つめていた。
ちょっと罪悪感があるけど、ごめんねルナ。
「問題はあと2人か。どうす――」
「ウリアくん、エヴァくん、一緒に組まないかい?」
エヴァが言い終わる前に、ユウリィが私の席に来た。
ユウリィも成績優秀者に入っていない。
エヴァはユウリィを一瞥すると、何かを考えこんでいるようだった。
やがて教室を見回した彼女は、いいよ、とユウリィに告げた。
これで3人揃った。あと一人。
けれど私は最後の一人をもう決めていた。
立ち上がり、彼女の席に足を運ぶ。
「オリーさん、一緒にチーム組もうよ」
「はい、ぜひともお願いします!」
夏休みに仲良くなったオリーさんに声をかける。
長い紫色の前髪から、ピンクの瞳が覗く。
彼女は私の提案に、快く返事をしてくれた。
オリーさんが受け入れてくれたことで、これで4人組を組むことができた。
周りを見ているといくつかのグループができ始めているところだった。
私の後ろからエヴァがやってきて、紙をオリーさんの机の上に置く。
「初めましてオリーさん。私はエヴァ・アルトリウス。ウリアお姉様の妹だよ。よろしくね。とりあえずここに名前書いて」
「よ、よろしくお願いします!えっと、ここですね……」
オリーさんがペンを取り出して名前を書く。
紙にはすでにエヴァとユウリィの名前が書いてあった。
よく見てみると、あることに気付いた。
リーダーの欄が空白になっている。
あれ?でもエヴァもユウリィもオリーさんもすでに名前が書いてあって。
そんなことを思っているとぽんっと肩に手を置かれた。
首だけを動かすと、ユウリィはニコニコとした笑みを浮かべていた。
「頼んだよ、リーダーさん」
「ええ!?」
エヴァだと思っていたリーダーは、なぜか私になってしまった。
その日の放課後、私たちは食堂に4人で集まっていた。
話している内容はチームトーナメント戦のことだ。
「私とお姉様が前衛、ユウリィが補佐、オリーが後衛?」
「はい。といっても魔法は大の得意というわけでは……」
オリーさんはよく聞いてみるとムースさんのように魔法が得意なタイプらしい。
チームのバランスとしてはなかなか良いのではないだろうか。
当のオリーさんは不安そうだが。
「どうしたのオリー、あまり自信がないの?」
「いえ、ムースさんと比べちゃうと……」
「いや、あれは規格外だから気にしちゃダメだよ」
エヴァがオリーさんのフォローを行う。
口調は勝気だが、エヴァは基本的に相手に寄り添って考えられる良い子だ。
身内びいきで見ても、彼女はとても優しいと思う。
性格も外見も良い、自慢の妹だ。
そんな自慢の妹は不敵に微笑んだ。
「それに彼女なら私が止めるから大丈夫」
「問題はエヴァくんでも止まらない規格外の一人だよね」
ユウリィが頬杖を突きながら意地悪な声で告げる。
規格外の一人。エヴァ以上の適性の持ち主である、ロゼリアさまのことだろう。
エヴァは体をビクリとふるわせて、視線を私達から逸らした。
「うぐっ……い、いや、止められるし……」
「まあ、エヴァくんがどれだけできるかは置いとくとして、ロゼリアさまのことは考える必要があるね」
私の教室におけるワイルドカード、ロゼリアさま。
彼女のチームの他の3人とは面識はないが、当の彼女はメンバーに対してあまり良い感情は持っていないように見えた。
そんなロゼリアさまの話題を出したユウリィは考え込んでいるようだった。
「あまり詳しいことは分からないけれど、ロゼリアくんのチームはどちらかというと彼女特化のチームだと思う。他の3人に関してもロゼリアくんを見る目が輝いていたしね」
「なるほど、そこに活路があるってわけね」
「で、ですがそれだとルナさんやムースさんもなかなかの強敵なのでは……」
オリーさんの言葉に思い返す。
ルナはネクステス出身の人たちとチームを組んでいた。
内2人とはもともと知り合いだったらしい。
ムースさんに関してはユグドラシルの貴族さんが2人、ユグドラシルと縁の深いエディンバラの貴族さんが1人のチームだったはず。
彼女はどちらかというと親しみやすいタイプなので、こちらのチームも要警戒だ。
「オリーって、どの属性が得意なの?」
「あ、私は闇です」
「闇!?」
驚いたようにエヴァが声をあげる。
闇の魔法は使える人が少なく、弱点となる属性がないことで知られる。
まさかオリーさんがそんな才能の塊だったなんて。
しかし話題のオリーさんは慌てている。
「や、闇が得意ですが、攻撃魔法は一切使えないんです!私にできることと言えば、薄暗くしたり、見えなくする暗闇を作り出すくらいで……陰鬱ですよね」
「ああ、それで実技の授業では水の魔法を使っていたのか」
「は、はい、水は闇の次に得意なので」
ユウリィとオリーさんの会話を聞きながら横を見ると、エヴァは何かを考えているようだった。
やがて彼女は悪い笑みを浮かべ、ふふふ、と笑う。
「これ、オリーを手に入れられたのは予想以上の収穫かもしれない。私たち、暴れられるかも」
なにか悪いことを考え付いたような笑みを浮かべる。
そんなエヴァを見ながら私たちは3人、顔を見合わせた。




