第31話 夏休み明けの楽しい雰囲気
夏休みが終わり、久しぶりのクラスみんなが集まる日。
私は椅子に座って授業が始まるのを待っていた。
時刻はまだ朝早く。私の後ろの席にはエヴァが座っている。
夏休みが終わる数日前に、彼女は急にアルトリウス家に帰ってきた。
リリスさんも私も一体どこに行っていたのかを聞いたが、教えてはくれなかった。
しかしエヴァの専属侍女のララさんが言うには、危険な場所には行っていないようだ。
それが世間一般的に危なくない場所なのか、エヴァが強すぎるがゆえに危なくない場所なのかは分からないけれど。
「おはようウリアー!」
教室の前の扉が開き、ルナが入ってくる。
久しぶりに見た彼女は変わりなく元気いっぱいで、私を見つけると挨拶をしてくれた。
それに対して微笑んで返事をする。
ルナは自分の席に荷物を置くと、私の机の前に来て、しゃがみ込んだ。
最近はよく見る姿勢だ。ルナは私の席で話すときは常にこの位置だ。
「ねえウリア!来年の夏休みはネクステスに遊びに来てよ!別荘に招待するよ!」
「……あんたの別荘に?」
ルナの言葉に反応したのはエヴァだった。
後ろで話を聞いていたのだろう。
目線を向けてみると、ジト目でルナを見ていた。
「うん!海がきれいなんだ!皆で泳ごうよ!」
「いいねそれ」
エヴァは相変わらずルナを軽くあしらうことが多いが、話が合うときもある。
こうして見ていると、実は相性が良いのではと思えてしまう。
「あら、それならユグドラシルもおすすめですよ」
いつの間に登校していたのか、ムースさんが席の隣に立っていた。
「あ、お久しぶりですムースさん」
「ええ、元気そうで何よりです、ウリアさん。ところで、ネクステスよりもユグドラシルの方がおススメですよ。自然も豊かですし」
「いやいや、ネクステスだって自然豊かだからね!」
ムースさんの提案にルナが反論する。
しかしムースさんはユグドラシルの方が良いと信じているらしく、一向に譲ろうともしない。
訪れる国という意味では、観光が有名なキルシュが一番だと個人的には思うのだが。
そんなキルシュ出身のテスタロッサ専門家は、教室の真ん中で机に突っ伏して寝ていた。
おそらく昨日も遅くまでテスタロッサを弄っていたのだろう。
ふと前の扉が開き、ユウリィが入ってきた。
彼女は私を見つけると、ぎこちなく「おはよう」と告げた。
それに対して私も「おはよう」と返事をする。
「……お姉様?」
「え?ウリアどういうこと?夏休みにユウリィさんと仲良くなったの?」
「そうなのですか?」
エヴァを始めとしてみんなが疑問に思っているようなので、夏休みにあったことを説明した。
ユウリィに関してはお互いに勘違いがあったことを。
エヴァ達は微妙そうな顔をしていたが、やがて「お姉様が良いなら……」と受け入れてくれた。
やっぱりユウリィが私しか見ていなかったことに気づいていたのだろう。
けれど、今のユウリィはちゃんと全員と向き合ってくれるはずだ。
やがて荷物を置いたユウリィが席の近くに来た。
「エヴァくんにルナさん、ムースくんだね。改めまして、僕はユウリィ・フェンデ。ウリアくんと友達になったから、ウリアくんの友達である君たちとも仲良くできればなって、そう思ってるんだ」
「ふむ、ウリアさんが良ければぜひとも。ところでユウリィさん、ネクステスとユグドラシルどちらが好きですか?」
「え?」
流石はムースさん。
彼女はユウリィの友達になりたいオーラを読み取ってすぐに会話を振った。
気配り上手な彼女がいて、本当に助かった。
急に質問を投げかけられたユウリィは戸惑っていたが。
「えっと……個人的にはユグドラシルかな。やっぱりいつ見てもあの世界樹は大きくて壮大だなって思うよ」
「ふふん」
「むー、なにそのドヤ顔!これだからエルフは!エヴァはどっちなの!?」
「お姉様がいればどこでも天国よ」
「それだと決まらないでしょ!」
エヴァの投げやりな返事に、ルナは文句を言う。
この状況でどっちにも流されないのは、逆にすごいとお姉ちゃんは思うけどな。
苦笑いをしていた私の目に、紫の長い髪が映った。
横目で目が合った彼女はペコリと頭を下げた。
私は小さく手を振る。
夏休みに図書室で出会ったオリーさんとはその後もリフィルを混ぜて付き合いがある。
一緒に食事をしたり、魔法の練習をしたりした。
リフィルの予想通り、魔法を毎日使うようになって、オリーさんの魔眼は弱まった。
今では裸眼で見つめ合わなければとくに影響はないくらいには制御できているらしい。
「オリーフィア・イグネアスさんだっけ?」
「あ、うん。夏休みで仲良くなったんだ。ひょっとしたら訓練に参加するかもしれないけど、受け入れてあげてね。すっごく良い人なんだよ」
「まあ、お姉様が言うなら良いんだけどさぁ……」
「賑やかになりそうですね」
エヴァもルナも微妙そうな顔をしている。
ムースさんだけはいつも通りだ。
「ところで、来年の夏はユグドラシルということでよろしいでしょうか?」
「いやいや、ネクステスだって!」
「ユグドラシルで良いのではないですか?だって人数も――」
「おはようございます。皆さん。夏休みはすみません。公務でユグドラシルを訪れていまして、なかなか時間が取れませんでした」
言い争っていたルナとムースさんを遮るように、ロゼリアさまがやってきた。
いつ見てもお美しいが、やや疲れているように見える。
やはり公務は大変なのだろう。
「お疲れですね」
「ええ、公務はやはり苦手です。できればユグドラシルはしばらく行きたくないですね」
疲れたように頭に手を置くロゼリアさま。
その言葉にルナはここぞとばかりに食らいついた。
「ロゼリアさま、ならばネクステスはいかがですか?」
「ネクステスですか?まあ、今の気分ですと良いですね」
「ほら見なさい!ロゼリアさまをゲットしたよ!」
ロゼリアさまの登場で有利になったと確信して、ルナはムースさんにドヤ顔で宣言した。
ムースさんはそれに対して苦笑いで返す。
「公務が嫌なだけで、観光や旅行として向かうのは別だと思うのですが……」
「だとしても、来年はネクステスで決まりだよ」
「はいはい。それでは再来年はユグドラシルで良いですね」
他愛のない話をしていると、前の扉が音を立てて開いた。
顔を上げるとアークくんが怒った表情で入ってきていた。
彼はロゼリアさまの姿を見つけると、こちらに近づいてきた。
一歩下がり、私に寄ったロゼリアさまを見て、アークくんは足を止めた。
その顔は悲しげに歪んでいる。
「姉上……どういうつもりなのですか……?」
「…………」
「……放課後、時間を作っていただけませんか?納得できません。放課後、3階の一番南の空き教室で……待ってますからね」
アークくんはそう言うと、悔しげな表情をして自分の席へと向かっていった。
ロゼリアさまは、深くため息を吐いていた。
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