第25話 成績優秀者【エヴァSide】
(お姉様……大丈夫かな……)
アークを含む私たち5人は第二訓練場で試験を受けていた。
アークの試験が終了し、今はルナが試験を受けている。
私はその戦いを横目に見ながらお姉様のことを考えていた。
もちろんお姉様の試験のことも心配だ。
けれどそれ以上にモブ連中やユウリィのことが気がかりだった。
できれば1人にしたくはなかったのだが。
そんなことを思っていると、ルナの試験がちょうど終了したようだった。
「あー!負けたー!」
「接近戦はなかなかのものだよ。でも、まだまだ力が足りないね」
試験として相手をしているのはマーガレット先輩だ。
原作には登場していない。すでに学園の3年生なので、ゲームでは会う機会がないのだろう。
青い髪を短く切りそろえた、ボーイッシュな女性だ。
ルナと入れ替わるように、次はムースが前に出る。
訓練では完全に把握できない、彼女の実力を知る良い機会だ。
「次はムース」
「はい」
成績優秀者の審判を担当しているのはびっくりするほど小さな少女だった。
薄い水色の髪に、青いメッシュが入っている。
身長はとても低いのに、その雰囲気は氷のように冷たい。
第1寮の寮監督であるアイリス・クラフト・キルレイン。
キルレインダンジョンを攻略したトリリアントだ。
エディンバラ学園の教師陣の中でも、オールマイティな万能型となっている。
私やお姉様の将来の寮監督、ということだ。
「始め!」
「起きてください」
ムースはすぐにテスタロッサを起動。
その両手に握られたのは、木の枝のような太い杖だった。
テスタロッサ名『世界樹の枝』。
ユグドラシル国にそびえたつ世界樹を模したテスタロッサだそうだ。
ゲームとは違うテスタロッサは、転生者であることの証明だ。
というか、原作以上に良いテスタロッサを引いているなんて、ガチャ運が良すぎて羨ましい。
ムースは魔法使いタイプ。
ゲームと同じなのは、あまり素早い動きを得意としないことくらいか。
「お願いします」
杖を胸に抱き、その先端で地面をトントンと叩く。
するとムースの足元から草木が生い茂っていく。
その草木はすぐに訓練場を覆いつくした。
「……カタストロフ級?」
遠くに立つアークが呟いた。
私たち転生者からすれば知っている知識なので、驚くことはない。
テスタロッサにはクラス分けがある。
カタストロフ級は一番上で、今のムースのように空間に対して影響を与えられる。
世界でも数えられるほどしかない。
この世界ではリフィルの『ストリーム』を入れて、見るのは2つ目だ。
「……驚いた。ユグドラシルにカタストロフはないはずだけど」
「ご安心を。やっていることはカタストロフ級ですが、これらの草木に力はありません。それゆえに、祖国ではエクセラ級として登録されています」
「へぇ」
マーガレット先輩の弩が強く光り輝く。
彼女は大きく飛び上がり、弩を斜め下に向けて構える。
その背後に、複数の矢が現れた。
狙いを定めた無数の矢が、雨のように降り注ぐ。
それをムースは木の巨大な根っこを目の前に出して防いだ。
しかしまだマーガレット先輩のつがえた矢は放たれていない。
その矢じりに赤い光が収束していく。
放たれたのは、火の魔法が付与された矢。
その矢は目にもとまらぬスピードで飛び、木の根に衝突する。
矢の威力と、燃え移る炎で木の根が溶けていく。
けれど、ムースには届かなかった。
マーガレット先輩は地面に軽やかに着地し、溜息を吐いた。
「すごい防御力だね。ここまでとは……っ!?」
そのとき、先輩は気づいた。
自分の靴に、ツタが絡まっているのを。
先輩は右手に火の玉を作り、それを地面にたたきつけた。
炎が絡みつくツタを焼き消していく。靴も一緒に燃えているが、構わないのだろう。
「え?」
私は思わず声に出してしまった。
ムースがマーガレット先輩の近くまで走ってきていたからだ。
その靴の下には草が生い茂っていて、足音を消す役割があるのだと分かった。
「えい!」
「え?」
ムースは杖を振り上げて、それを力の限り振り下ろしたのだろう。
しかしその動きはあまりにも鈍重で、マーガレット先輩は思わずその攻撃を手で受け止めた。
(実技が全然ダメなのは原作と同じか)
そう思った次の瞬間、ガクンッとマーガレット先輩の右足が沈んだ。
急な地形変化に体制を崩したことを見逃さずに、ムースは仕掛ける。
口が素早く動き、なんらかの魔法を唱えようとする。
しかし途中で慌てたように後ろに下がって尻もちをついた。
さっきまでムースが居たところに、矢の雨が降り注いだ。
おそらくとっさにマーガレット先輩が放ったのだろう。
これでさっきと形成が一気に逆転した。
マーガレット先輩はその隙を見逃さずに、手に風の剣を握る。
そしてムースに接近しようとしたときに、急に大きな根が地面から生えて2人を隔てた。
その根は地面から出てくるたびに大きくなり、マーガレット先輩は慌てて距離を取る。
次の瞬間、その根が光へと還っていく。
ただの魔力となり、空へと昇っていく光。
そしてその向こうに、緑色の螺旋が収束する。
風の上位魔法「ストリームランス」
まるで巨大な槍のように、先端を鋭くした風の凶器。
ダメ押しとばかりに彼女の足にツタが絡まり、身動きを封じた。
「……なるほどね」
しかし、マーガレット先輩は慌てなかった。
ゆっくりとしゃがみ、弩を天に掲げる。
弩を光が包み、次の瞬間、彼女の身長を軽く超えるような巨大な弩が現れた。
マーガレット先輩はそれを地面に降ろす。
それは弩ではなく、もはや城壁を破壊するようなバリスタだった。
巨大な槍のような矢に、黄色い光が収束していく。
地属性の魔力がどんどん集まる。
先に放たれたのは、ムースの風の槍。
それに少しだけ遅れて放たれたマーガレット先輩の弾は、ストリームランスと衝突する。
2つはお互いを喰いあうように、じりじりと一進一退を繰り返す。
やがて衝突した場所で爆発が起き、2つの魔法は掻き消えた。
「そこまで!」
爆風が晴れた時、その中にはいつの間にかアイリス先生が立っていた。
「マーガレットのルール違反で、ムースの勝ちとする!」
アイリス先生の言葉で、試験が終わった。
流石にあの巨大なバリスタでの攻撃はルール違反だったのだろう。
アーク、ルナと敗北だったので、勝利したのはムースが初だ。
「ムースさん、すごい魔法だったね。とても準備舎の生徒とは思えないほどだよ。ルール違反と分かっていても、対応するしかなかった。私の負けだ」
「ありがとうございます。ですがあれでもまだマーガレット先輩は本気ではなかったはずです。次はさらに引き出せるように頑張ります」
「そうだね。次はルールなしでやりたいものだ」
「やめろ。試験を根本から否定しない」
アイリス先生はマーガレット先輩の横腹を軽く叩くと、そのまま手に持った紙を見た。
「残りはエヴァとロゼリアか。この2人に関しては、マーガレットではなく別の生徒に相手をしてもらう」
(このタイミングかぁ……)
なんとなくわかっていたものの、苦笑いを押さえられない。
アイリス先生の言葉で、一人の女子生徒が前に出る。
私たちと同じ戦闘着を身にまとっているが、ラインの色がマーガレット先輩と違う。
「最初はエヴァ対セリアだ」
エヴァラス最大の良心が、私の対戦相手らしい。




