第18話 準備舎と新しい友達?
「教師の皆さま、1年間の短い間ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
壇上に立ったロゼリアさまが、新入生代表のあいさつを終える。
14歳の今日、私たちはエディンバラ学園の準備舎に入学した。
私の横にはエヴァとミストも座っている。
入学前にクラス分けはすでにされていて、私たちは皆同じクラスだった。
適性が低い私が同じクラスになったので、家の格式によって分けられているのでは?と思った。
少なくとも、私一人だけ別クラスになるようなことはなかったので一安心だ。
違うクラスになったらどうしようと思っていたが、あっさりとクラス分けの紙が家に届いて拍子抜けしたのは良い思い出だ。
クラスへと移動し、席につく。
席は名前順で、私のすぐ後ろにはエヴァがいる。
残念ながらロゼリアさまやミストとは席が離れてしまった。
「みなさん初めまして。私はこのAクラスの担任のシール・グランテです。準備舎では主に座学の授業全般を担当します。来年の学園入学に向けてしっかりとサポートしていきますので、よろしくお願いします。それでは自己紹介をしましょうか。その後に授業などの説明をしますね。それではアーク君からお願いします」
担任の先生は優しげな雰囲気の男性だった。眼鏡をかけていて、知的だ。
学園でも準備舎でも、身分に対する考慮はなしになる。
完全になしではないものの、男性は「君付け」、女性は「さん付け」で呼ばれるのが普通らしい。
それは皇族であっても例外ではない。
アークくんはとくに文句を言う事はなく、自己紹介をした。
そして次は、私の番。
「ウーレリア・アルトリウスです。友達は皆ウリアと呼ぶので、そう呼んでください。この準備舎では勉強を頑張りたいと思います!皆さんよろしくお願いします!」
最初の印象は大事だ。大きな声であいさつをして、笑顔を忘れず、最後はお辞儀をする。
私の名前を聞いて、ザワザワと教室が騒ぎ始めた。
やはり適性が最低であることはクラス中に知れ渡っているようだ。
そのザワザワを遮るように、大きな音を立てて後ろのエヴァが立ち上がった。
「エヴァ・アルトリウス。さっき紹介したウリアお姉様の妹。よろしく」
私でも震え上がるような低い声で自己紹介をして、エヴァは不機嫌そうに椅子に座る。
その言葉と態度に、教室は静まり返った。
「えっと……それじゃあ次の方お願いします」
先生も少し困ったように笑っていた。
その後、しばらく自己紹介が続く。
「ミスト……よろしく……」
「え?ミ、ミストさん?そ、それだけですか……?」
「…………」
「えっと……次の方お願いします」
相変わらずミストはテスタロッサが絡まないと無気力だ。
本当に別人なんじゃないか、とさえ思えてくる。
「ロゼリア・フォン・エディンバラです。ローズと呼んでください。皇女ですが、そんなことを気にせずに仲良くしていただけると嬉しいです」
ロゼリアさま、それは私たちには難しいです。
しかしロゼリアさまは微笑んでいる。
長いこと友達なので忘れがちだが、この国でものすごく偉い人なのである。
自己紹介が終わり、シール先生が今日の予定についての説明をする。
事前に聞いていた通り、授業は午前中だけらしい。
午後は交流を深めたり、自習をしたりするのだとか。
「さて、皆さんの自己紹介が終わったところで、直前に受けていただいた適性検査の結果をお返しします。この検査は準備舎卒業直前にも行いますので、どのくらい自分自身がこの準備舎で成長したかの目安にしてくださいね」
そう言ってシール先生は紙を一人一人に配る。
私の適性を見てみると、なんと光属性と剣術がEになっていた。他のはもちろんFだが。
「エ、エヴァエヴァ!Eに、Eになってるよ!」
「よかったね。お姉様。この調子で頑張っていこう」
小声でエヴァと話すと、エヴァも喜んでくれた。
成長できるんだ。ここまで長かったけど、FとEは全然違う。
それに私はFの中でもかなり低い方のFだった。それがEになるなんて。
これは間違いなくエヴァたちのおかげだ。
もしエヴァたちが居なかったら、私の適性は上がることもなかっただろう。
この適性検査はテスタロッサは含まれていない。
なので、マリアの力を借りればもっと実力を伸ばせる。
入学して早くもやる気を持つことができた。
「皆さんお静かに。適性で喜ぶ気持ちも分かりますが、今後の大きなイベント予定をお話しますよ。……はい、静かにしていただいてありがとうございます。まず春の終わりになりますが、実技試験を行います。相手はエディンバラ学園の3年生です。先輩たちから教えてもらえるだけでなく、技術を盗むこともできる良い機会です」
なんと、学園の先輩たちと模擬戦闘ができるらしい。
これはとても良い経験になりそうだ。
「そして冬にはチームでのトーナメント戦を行います。まだ先ですが、学園に入った後に騎士団か魔法軍に所属した場合、4名から6名程度の小隊を組みます。これはその予行練習ですね。チームワークも重要になります」
皆と協力して戦うイベントもあるらしい。これも楽しみだ。
「大きなイベントとしてはそんなところですね。いずれにせよ、準備舎での経験は将来に大いに役に立ちます。ぜひとも真面目に、そして楽しんで過ごしてください」
シール先生の言葉に私は大きく頷いた。
入学式の日は授業がないので、先生の説明が終わると少し早いけれど解散となる。
準備舎は学園と同じく寮が用意されているので、一回そこに戻ろうと考えた。
教室で友達ができればとも思ったが、令嬢たちはチラチラと見ているのが主なので、今日は難しそうだ。
そう思い、立ち上がろうとしたとき。
私は机の前に誰かがしゃがみ込んで私を見上げているのに気付いた。
短めの黒い髪に、紫色の瞳が輝いてこちらを見つめている。
頭の上には黒い狼の耳がついていて、それがピコピコと動いていた。
「わ、わわわ、私ルナって言います!ウリアさん!よければこの後一緒に準備舎を見て回りませんか!?」
ルナと名乗った獣人の彼女は、ひどく緊張した様子で、けれども感極まったようにそう言った。




