第17話 エディンバラ学園準備舎
ミストがアルトリウス家に奉公人として来てからしばらく経った。
テスタロッサ技師であるミストとは話が合い、ミスト、ウリアと呼び合うくらいの仲になった。
私の適性の低さが不安だったが、話を聞いてみるとミストも技術以外の適性はさっぱりらしい。
それゆえに、私の適性に対してもとくに思うところはないとか。
どちらかというとミストは別のことに興味深々みたいだった。
「ミストー。いるー?」
「んー?」
エヴァのあとにアルトリウス家に作られたミストの部屋に入る。
ミストはベッドに座り、ぼーっとしていた。宝石のような黄色い瞳は、どこか眠そうにも見える。
「お姉様のマリアが少し強くなったみたいなの。見てほしくて」
「なんだって!?そこに座って!」
ミストは急に立ち上がり、テーブルを指さした。
眠そうだった瞳は見開かれ、顔も凛としている。
テスタロッサの話となるといつもこうで、今ではもう慣れてしまった。
私とエヴァは椅子に座り、私はマリアを指から外して差し出す。
ミストは手袋をはめて、小さなクッション台の上にそれを置いて注意深く観察している。
技師さんは専用の道具を使うらしく、それを熱心に弄ったり、マリアを見ている。
「いやぁ、僕が今まで見てきた中でも本当にマリアはすごいよ!何度見ても普通のテスタロッサとは違う!間違いなく特別なものだね!中身が普通のとは全然違うよ!」
早口で話すミストに苦笑いする。
親しくなってみて分かったのだが、ミストはその見た目に似合わぬ僕っ娘キャラだった。
ただし、テスタロッサを弄る時限定だが。
普段の彼女は無口で、静かなタイプだ。
好きなものだと一気に熱くなる、そういう天才タイプなのだろう。
けれどテスタロッサを弄っているときのミストも私は好きだった。
目が輝いていて、綺麗だと思えた。
「にしても、エヴァ君のテスタロッサは面白みがないねぇ。こうウリア君のマリアみたいに特別だったり、リフィルさんのストリームみたいにカタストロフ級にならないかな?」
「なるわけないでしょ!」
「だよねぇ。君のもロゼリア君のもエクセラとしてはトップクラスなんだけど、僕が見たいのは異常なテスタロッサなんだよ」
「あんた絶対おかしいわよ……」
そしてテスタロッサを語るときのミストは恐れ知らずだ。
皇女さまのことを君付けで呼ぶなんて、とてもじゃないけれどできない。
ロゼリアさまは笑って許していたけれど。
ミストは特殊なテスタロッサに目がないらしい。
私のマリアや、リフィルさんのストリームは毎日見ていても飽きないとか。
「いやー、オーバーライトもすごいテスタロッサだとは思うんだけどねぇ。でもオーバーライトは3日連続で見るとさすがに飽きる。でもマリアはずっと見てても飽きないんだ。こればっかりはしょうがないね」
「あんたにオーバーライトみせるの辞めてやろうかしら」
「待ちたまえよエヴァ君!今の僕以上にテスタロッサが調節できる人がいるかい!?居ないよね!?」
「……悔しいことにね」
ミストは時折エヴァやロゼリアさまをからかう。
私やリフィルさんにはしないけれど、逆にそれが羨ましく感じた。
「そういえば、来年にはもうエディンバラ学園の準備舎に行くんだね」
エヴァの言葉を聞きながら、私はマリアを手に取って指にはめる。
ミストは装置を片付けて、席に戻ってきた。
輝いていた瞳は、急に光を失って、表情もぼーっとした感じになっている。
「だね」
「準備舎かぁ、上手くやっていけるかな……」
私は準備舎について不安に感じていた。
エディンバラ学園は15歳から入学する3年間の学校だ。
しかし1年間だけ、事前に入学することができる。それが準備舎と呼ばれる場所だ。
エディンバラ学園と名付けられているが、校舎の場所は違う。
この準備舎は14歳から入学できる。
しかし費用はかなり高めに設定されていて、貴族達しか入学できない。
エディンバラ学園は学費が安く、平民でも入れるので、そこは大きな違いである。
8歳のときの懇親パーティのように、貴族たちの交流がメインの場となっている。
しかし懇親パーティとの大きな違いとして、準備舎は世界各地から貴族が入学する。
エディンバラ学園がそもそも世界各地から生徒を募っているので、準備舎も世界中から人が集まる。
集まるのはエディンバラ皇国、ネクステス連合王国、キルシュ国、ユグドラシル国、アズマの5つらしい。
ネクステス連合王国は複数の獣人の一族が集まってできた大きな国家。
キルシュ国はミストの母国で、テスタロッサの技師を多く抱えている観光が有名な国。
ユグドラシル国はリフィルさんの母国でエルフの国。
アズマは前世の日本のような、刀が普及している和風の国みたい。
アズマは貴族制度がなく、さらに広い海を隔てているから、準備舎に来る人は珍しいとか。
他国の人が参加するけれど、8歳のときの懇親パーティの延長ともいえる。
私はあの時よりも強くなったし、今ではエヴァだけじゃなく、ロゼリアさまやミスト、リフィルさんといった心強い友達もいる。
ちなみにミストはエディンバラの奉公人枠として参加し、学園入学後はキルシュ生として参加するらしい。
また貴族は侍女を一人連れて行くことができるらしく、私はもちろんリフィルさんを連れて行くつもりだ。
というよりも、私の侍女はリフィルさんしかいないからだが。
「準備舎ってどんなことをやるのかな?」
「学園の授業よりは密度は濃くはないみたいだよ」
「ん……貴族の交流がメイン」
学園の授業は夕方まであるらしいが、準備舎は午前中らしい。
どちらかというと午後は交流会がメインだとか。
「お姉様不安かもしれないけど、私もいるし、ロゼリア様もいるから大丈夫だよ」
「僕もいるから……平気」
エヴァが微笑み、ミストも得意げな顔をする。
少し不安もあるけれど、皆といっしょならきっと楽しい準備舎になるはずだ。




