第15話 テスタロッサ調整技師、ミストさん
「やあああああ!」
「いい感じだよ!お姉様!」
リフィルさんが専属侍女になってからしばらく経って、私は12歳になっていた。
身長も伸びてきて、ちょっとだけ大人になれた気がする。
まあ、精神はもう大人なんだけど。
リフィルさんも加わり、訓練はさらに濃いものとなった。
私も本当に少しづつだけれど成長している。
テスタロッサ『マリア』の力もあって、魔法も剣も、マシになった。
とはいえ、同年代の人たちにはまだ追いつかない。
「ふむ。いい感じですね。お嬢様も順調に実力を伸ばしています」
リフィルさんからもそう言われ、やる気が満ちてくる。
「エヴァ、もう一回お願い!」
「うん!」
「ダメですよ。休憩の時間です。エヴァさんもOKを出さない」
「「えー?」」
「2人揃ってそんな不満そうな顔してもダメです!」
ロゼリアさまに止められ、エヴァと揃って2人不満げな顔を出すものの、怒られてしまった。
手でバツ印を作ったロゼリアさまは、断固拒否という雰囲気を出している。
私たちのそんな様子に、リフィルさんも、リリスさんも微笑んでいる。
ふと、何かを思いついたようにリリスさんは「あ」と声をあげ、私たちに近づいてくる。
「エヴァ、ウリアさん、近いうちにテスタロッサ技師の方がキルシュからいらっしゃるそうです。お二人と同じ年齢らしいですよ。仲良くできると良いですね」
キルシュというのはエディンバラ皇国の北にある、海が豊かな国。
テスタロッサの技術が発達していて、調整をする技師を多く抱えている国だ。
さらに観光にも力を入れていて、リゾート地も多いらしい。
テスタロッサは精密な機械のようなもので、使っていると消耗していく。
それを調整するのが技師の役目らしい。貴族は専任の技師と契約をするのが普通だそうだ。
このアルトリウス伯爵家でもお父さまやリリスさんはキルシュの技師さんと契約を結んでいるとか。
「……まってお母さま。私たちと同じ年?アルトリウス家の技師じゃないの?」
その部分は私も気になった。アルトリウス家の技師さんは気前の良いおじさんだったはずだ。
一年に一度くらいしか来訪しないが、普段見ない人が居るな、と思ったのでよく覚えている。
「キルシュ国は若い技師向けに奉公人制度があるんですよ。奉公人と言っても留学のようなもので、貴族の家に寝泊まりして、高位技師資格をお持ちの師匠の方と一緒に特定の方のテスタロッサを見るんです。私も若い頃は技師のお兄さんとお友達になりました」
なるほど、前世で言うところの、ホームステイのようなものかと納得する。
元々男爵家出身のリリスさまも、奉公人制度の経験があるようだ。
「なら、あの技師のおじさんも一緒に来るんですか?」
あのおじさんは気前が良くて好きだった。
同じ年くらいの娘さんがいるらしく、可愛がってくれた。
「いえ、それがですね、なんと今回の奉公人の方は高位技師の資格を持っているんです。だからアスタンさんは来ないようです」
「え?私たちと同じ年ですよね?」
「そうなんですよ!なんでもキルシュ国でも歴代最年少で難関の高位資格に合格した天才児らしいです!奉公先は奉公人が決められるのですが、まさか我がアルトリウス家を選んでくれるなんて、きっとエヴァやウリアさんが頑張っているからですね」
「す、すごい人なんですね……」
前世でも同じ年でスポーツ選手としてや俳優として活躍している人はいた。
まるで雲の上の人という感じだが、この世界でもそんな人に出会えるなんて。
まあ、よくよく考えるとロゼリアさまとかリフィルさんとか、雲の上の人なのだけれど。
2人を見ると、リフィルさんは不思議そうに首を傾げた。
一方でロゼリアさまはなにか考え込んでいる。少し苦笑いをしているようにも見えた。
「……お母さま……その……奉公人の人の名前って……分かる?」
エヴァが途切れ途切れで質問をする。
「ええ、ミスト・テスタメントという名前らしいですよ。よかったですね、また女の子の友達が増えますよ」
ミスト・テスタメント。どこか聞き覚えがある名前だ。
エヴァを勘違いしたゲームにそんな人が出てた気がする。
ただミストだったか覚えていないし、テスタメントとかではなかった気がする。
そのゲームにはロゼリアさまっぽい人も出てくるけれど、名前はローズだったはずだし、もっと高飛車で偉そうな感じだった。
こっちのロゼリアさまも他の人にはローズって呼ばれているけれど、とても穏やかで敬語口調が基本だ。
似ているゲームってあるんだなぁ、なんてことを思ってしまう。
漫画やゲームなんて星の数ほどあるので、それはそうか、とも思うけれど。
それにしても、同じ年齢の女の子なのは楽しみだ。
私の適性がないことを気にしない子だとすごく嬉しいのだけど。
できればテスタロッサのお話なんかも聞けたらいいなと思う。
「…………」
「…………」
技師奉公人のミストさんを楽しみにしていた私は、エヴァとロゼリアさまの悩んでいる様子に気が付かなかった。
「初めまして、ミスト・テスタメントです。体は小さいですが、テスタロッサ調整に関しては誰にも負けません。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。伯爵夫人のリリス・アルトリウスです。こちらがエヴァ・アルトリウスです。姉のウリアはそろそろ来るはずです」
その数日後、私は扉の前で待機していた。
エヴァ曰く、最初はリリスさんとエヴァで対処するから、自己紹介が終わってしばらくしたらリフィルさんと一緒に入ってきてほしいとのことだった。
なぜかリフィルさんと一緒に、を強調されたが、特に断る理由もないので了承した。
別にいっしょに挨拶すればいいと思うんだけど。
「ですが本当に我が家で良かったのですか?ミストさんならば公爵家だって、皇家だって選べたはずですが……」
「いえ、自分は同じくらいの年齢の同性の方がいた方が良かったので」
話を扉越しに聞いていると、ミストさんは礼儀正しい人みたいだった。
それに家を選んだのも私たちが居たかららしい。これはひょっとしたら仲良くなれるかもしれない。
そろそろかなと思い、私はリフィルさんを見る。
彼女は頷いて、扉を開けてくれた。ゆっくりと部屋の中に入ると、エヴァとリリスさん、そして見知らぬ少女が座っていた。
「紹介しますね。エヴァの姉でウリア・アルトリウスです」
「初めましてミストさん。ウリア・アルトリウスです」
「……は、初めまして……」
天才児だと聞いていたのでロゼリアさまのような凛とした美人をイメージしていたが、ミストさんはどちらかというと可愛い系だった。
栗色のふわふわした髪型に、黄色い瞳がまんまるに見開いている。
どちらかというとおっとりとした、そんな印象だった。
その宝石のような瞳が私の後ろをチラチラと捉えている。
後ろにリフィルが立っているのを思い出し、私は彼女を紹介した。
「後ろに立っているのは侍女のリフィルです」
「お嬢さまの専属侍女のリフィル・フローディアです。よろしくお願いします」
「……ご丁寧に……どうも」
動きが止まっているミストさんを不思議に思っているとコンコンとノックの音が響いた。
メイドの一人が扉を開き、ロゼリアさまが中に入ってくる。
「あら、丁度良いタイミングでしたね。初めまして。私はロゼリア・フォン・エディンバラ、この国の皇女です。ウリアさん、エヴァさんとはお友達なんですよ。私とも仲良くしていただけると嬉しいです」
この家では普通になりつつあるロゼリアさまの突然の来訪。
しかしミストさんからすると急に皇女が現れるのはびっくりするだろう。
見てみると、ミストさんは目を見開いて言葉も出ないみたいだった。
そんな様子がちょっとおかしくて、ミストさんと友達になれるかもしれないと思ってしまった。




