第13話 アルティメット侍女、リフィルさん
「お久しぶりです、ウリアさん。これからは私、リフィル・フローディアがウリアさん専属の侍女となります。よろしくお願いします。身の回りの世話は任せてくださいね」
夕日がリフィルさんの髪を光らせる。
その髪を風になびかせながら、3年前とは少し違う笑顔で彼女は微笑んだ。
突然の来訪に、私もエヴァも驚いている。
「せ、専属侍女……ですか?」
「はい。アルトリウス伯爵には事前に話を通してあります。今日からよろしくお願いしますね。お嬢様」
お嬢様呼びにちょっとこそばゆくなる。
とりあえずリフィルさんを屋敷に招き入れることになった。
彼女には侍女たちの部屋にスペースを用意することになるかと思ったのだが。
「あ、私の寝床ですが、お嬢様と同室を希望します」
「え?えっと……」
突然の要望に、リリスさんも驚いている。
侍女が同室になるなんて、本来はないことだろう。
けれど、リフィルさんはこれだけは譲れないようだった。
「もしも同室が無理ならば、お嬢様の部屋の近くの部屋を貸していただけると幸いです。もし調節が必要ならば時間がかかっても構いません。金銭が必要ならば、私の方で手配します」
「た、確かにウリアさんの部屋はエヴァと一緒なので広いのですが……エヴァ、ウリアさん、それでいいのかしら?」
リフィルさんのまっすぐな瞳に、リリスさんはたじたじだ。
困ったように私たちに助けを求めてくる。
しかしエヴァはリフィルさんが来てからというもの、目を見開いていて動きがない。
リフィルさんが同室で過ごす。そのことをちょっとだけ考えてみた。
今までエヴァと2人きりの部屋に、リフィルさんが加わる。
きっとにぎやかになるだろう。楽しいはずだ。
「私は大丈夫です!」
ちょっと食い気味に返すと、リリスさんは苦笑いをした。
「そ、そうですか……それじゃあ部屋にベッドを入れさせますね」
「簡易的なもので構いません」
リフィルさんはそう告げると侍女の部屋に入ってしまった。
しばらくすると彼女はメイド服に着替えた状態で出てくる。
部屋の中からは、他のメイドさんたちの興味深げな視線が多かった。
「それではよろしくお願いします。お嬢様、エヴァさま、リリスさま」
そういってリフィルさんは完璧なおじぎをしてみせた。
その日の夜。私たちは自室に集まっていた。
夕食の時はお父さまがリフィルさんを紹介したが、お父さまも少し困っているようだった。
本当にいいんですか?と何度も聞いていたくらいだ。
リフィルさんは部屋に新しく入れた椅子に姿勢正しく座り、息を吐く。
私とエヴァを見て、ゆっくりと語り始めた。
「まずは詳細な自己紹介を。お二人ともお久しぶりです。3年ぶりですね。大きく成長して、嬉しく思います。私はリフィル・フローディア。エルフの国のユグドラシル出身の軍人で、今は理由があってウリアさん……お嬢様の専属侍女となります」
パーティ会場に居たのでなんとなく予感はしていたが、リフィルさんは軍人さんだったようだ。
「まずお嬢様にお伝えしないといけないことは、以前お話しした任務は無事に完遂できました」
「そうですか……よかった……」
リフィルさんの言葉に胸をなでおろす。
あのパーティで感じていたリフィルさんの影は、今ではすっかり抜け落ちていたからだ。
むしろ自信に満ち溢れているようにも見える。
「実は私にはユグドラシルに友人らしい人が居なくてですね。家族仲も良くないので、どうせならこれも何かの縁かと思い、お嬢様の侍女になることを決めました」
「え?家族や婚約者に認められるために頑張ってたんじゃ――」
「それはもう昔の話です。今は目が覚めました。ユグドラシルには未練はありません」
はっきりとそう言い切るリフィルさん。
話を聞いた感じだと、ろくな両親や婚約者ではないと思っていたので、良かったのではないだろうか。
だが、それ以外にも聞いておかないといけないことがある。
「で、でもいいんですか?軍人だったんじゃ……お金とかもあると思いますし」
軍人から侍女って、そんな転職あるのだろうか?
それともミストフィアでは普通だったり?
「貯金ならあるので大丈夫です。それに伯爵家の給金って意外と良いんですよ」
そう言ってリフィルさんは微笑む。
その間、エヴァは何も言わなかった。
結論から述べてしまうと、リフィルさんはすごい人だった。
侍女としての作法は完璧。私の着付けやお世話など、完璧にしてくれる。
不思議に思い、聞いてみたところ。
「まあ、家では妹の奴隷のような扱いでしたから。お嬢様の侍女はそれに比べれば1億倍幸せですが」
という闇の深い返答が返ってきたので、それ以上もう聞くのはやめた。
リフィルにとってこの伯爵家が良い場所になっているなら、それでいい。
身の回りの世話だけでなく、掃除洗濯料理裁縫、おおよそ考えつくものはすべて完ぺきだった。
そんなリフィルさんがメイドさんたちの間でも人気になるのはあっという間だった。
そもそもこの国では珍しいエルフ特有の美貌に、優しい性格だ。
人気になる理由はそろっている。
そしてリフィルさんの凄いところはそれだけではない。
「お嬢様、光の魔法は気持ちに直結します。幸せな光景を思い浮かべて使うのがコツです。例えばエヴァさまとの夕食などですね」
「エヴァさま、まだまだ剣筋が安定していません。それでは学園はともかく、卒業後にやっていけません」
「ロゼリア皇女殿下、確かに殿下は優れた適性をお持ちです。しかし適性任せの戦闘は必ず頭打ちになります。さらにその先を見据えるのも必要です」
そう、リフィルさん、びっくりするほど強いのである。
あのロゼリアさまにさえ勝ってしまうリフィルさんは、私たちの中で教官の地位を確立していた。
教え方もうまく、将来をみすえた話や、エヴァやロゼリアさまからは聞くことができない話を聞かせてくれる。
とくに軍でのお話は知らないことが多く、とても参考になった。
「皆様、本当に才能のかたまりですね。とくにロゼリアさまは学園を卒業するころには私に追る勢いです」
装飾のついたレイピアを下ろしながら、リフィルさんはそう呟く。
リフィルさん専用のテスタロッサで、名前は『ストリーム』というらしい。
私たちのテスタロッサよりも一つ上のカタストロフ級らしい。
リフィルさんの凄いところはとどまらない。
「そうです、お嬢様。テスタロッサにはそれぞれ等級というのがあります。とくにエクセラ級以上のものは専用装備となり、同時に国での管理が必要となります」
なんとリフィルさんは知識もすごい。
どこから持ってきたのか、フレームの眼鏡をくいくい動かしながら、分かりやすく説明をしてくれる。
それにしてもこのエルフさん、ノリノリである。
けれどそんなリフィルさんの一番良いところは、優しいところだ。
「今日は寒いですから、3人で一緒に寝ましょう」
「いや、なんで」
「いいじゃないですか」
リフィルさんはそう言ってエヴァを巻き込み、ベッドへと入る。
私がエヴァを抱きしめ、私たちを包むようにリフィルさんが優しく抱きしめる。
2人の体温が暖かくて心地よくて、私はすぐに眠くなってしまった。
ちょっと不満げだったエヴァも、寝るときには満足そうな顔で眠りに落ちていた。




