ユリと闘技場へ
「おーい、こっちこっち!」
ユリの呼ぶ声が聞こえる。振り返ると、赤髪に青い目をしたショートカットの美少女がいた。背中には小さな黒い翼がついている。
「よう。悪魔を選んだんだな。リアルとは雰囲気が全然違うな。その翼似合ってるよ」
「そっちこそ二本の角似合ってるじゃん。」
お互いの容姿を誉めあいつつ、闘技場へ向かう。闘技場では、公開マッチと非公開マッチが選べる。今回は非公開マッチで練習試合のようなものをしようと思っている。
リング上で向き合う両者。目の前に数字が表示される。3、2、1。真っ先に攻撃を浴びせてきたのはユリの方だった。左右のローキック、ジャブ、ストレート。ジマは全てを避けきってみせた。
「あれー?鈍足って聞いたから、鬼相手はスピード勝負で楽勝だと思ったんだけどなー?」
ユリの言うことは間違っていない。ただしそれはジマが避けに徹していないならの話である。避けることだけを考えれば意外と何とかなるものである。それでもギリギリであったが。
次はジマの番である。サウスポースタイルで確実にジャブを当て、スピード差を無くすために右のローキックを当てる。だが、すぐに反撃がきて、カウンターのストレートをまともにもらってしまう。鼻から赤いエフェクトが出る。流血表現の代わりだ。
「痛覚表現がないに等しいと、ちょっとリアルさに欠けるな」
カウンターを決められてしまってジマは少し悪態をついた。
軽い流し練習のつもりだったので、ここは一度お開きとなった。赤いエフェクトも治る。
「どこか食べに行かない?」
と言うユリの提案により、料理屋を探すことになった。トンカツ屋を見つけ、ジマは大盛をユリは並盛を注文した。
「なかなか上手いな、これは」
「このお店リアルにもあるらしいよ」
なにをかくそう、このシーピー。お金もうけが出来るVRなのだ。主な稼ぎ方はモンスターを倒す、闘技場で勝つ、もしくはどちらの選手が勝つか予想して賭ける、ネットに動画を配信する、といったところだ。そして料理屋はリアルと同じ店舗を出店して、美味しいと感じてもらえればそのままリアルのお店も繁盛するということだ。
ジマはスライムしか倒していないので、収入は今のところ0だが、他のモンスターを倒せば仮想通貨がゲット出来る。今日のところはログアウトして明日からモンスター狩りに勤しみたいと決めた。