悪役令嬢断罪後、国滅ぶ
何故こうなった?人々はそう思った。
帝国に攻め込まれて国は焼け野原になった。
何故こんな事に。革命を起こして今度こそ幸せな暮らしが
得られると思ったのに。
そもそも何故革命を起こさなければならない程追い詰められた。
自分達の代表とも言える平民の少女が王妃になったのだから、暮らしは楽になるはずではなかったのか?
あの日国中を挙げて熱狂したではないか。
少女と王太子の熱烈な恋物語を劇で語り継ぎ、公爵令嬢が絞首刑になった時。
公爵令嬢の死体は国境沿いに遺棄されたという。
悪役令嬢のこれは呪いか?
そもそも本当に令嬢は本当に悪役だったのだろうか?
そう言えば劇も王室による主催だった。
「アドレア公爵令嬢エリザベス、君の身分にあかした傲慢さは最早許される範囲を超えている。アメリア嬢に対しての嫌がらせ、そして殺人未遂看過出来ない。
よって此処に君との婚約を解消し罪を償ってもらう。」
卒業パーティーで皆の前で1人の令嬢が跪かされ押さえつけられていた。
「オースレー王太子殿下、私には身に覚えがありません!
そのような事をする理由も時間も無い事は殿下が1番ご存知では無いですか!」
令嬢の言う通り学生としての学業、王太子の婚約者としての王妃教育に時間が取られそんな暇はない。
「黙れっ!貴様に発言を許可した覚えは無い!
貴様の事は数々の犯罪が報告されている!
極刑は覚悟しておく事だな!」
「はっ、見苦しい物だな。証言は色々出ていると言うのに
言い訳しようとは。淑女らしくもない。」
「まあ、所詮はそのような人間だからこのような立場になっているのですよ。」
「違いねえ、珍しくいい事を言うじゃねえか。」
「珍しくとは失礼ですね。脳筋の貴方に言われたくはありません。」
「なんだとう!アメリア嬢の為じゃなければ、テメーと一緒に立っているのは嫌なんだよう!」
「奇遇ですね。私も同じです。」
「2人とも下らない事は後にしてもらえませんか。」
「へっ、引きこもりの陰気野郎が出しゃばってるんじゃねえ!」
「で、アメリア嬢の為になりますか?」
「うっ、わーたよ。面白くもねえ。」
そう言いながら力を込める。
「痛い!やめて!」
「うるせえ、黙れ!」
「痛い!痛い!」
とても騎士として女性に対する行為ではない。
だが、本人はアメリア嬢の為と言う自分勝手な理由で
その行為に免罪符を与えていた。
その後、令嬢に身に覚えがない罪を挙げつらわれ牢屋に幽閉された。
むしろイジメにあっていたのは公爵令嬢であり、
辛い思いもしていた。
しかし、平民のアメリア嬢に熱を上げていた高位貴族の子息達は調べもせず、アメリア嬢の訴えを鵜呑みにしていた。
周りの貴族達も娯楽に飢えていた為、面白そうに見物していた。
やがてエリザベスに身に覚えがない罪が追加され、処刑が決定された。
公爵家はお取り潰しになり、舞台劇で催されたアメリア嬢と王太子の恋物語に民衆は熱狂し、王太子を支持した。
エリザベスの公開絞首刑に民衆は熱狂し、罵声を浴びせた。
自分達の罪を貴族達が被せていた事を民衆はそこはかとなく
分かっていた。
ただ、平民から王妃が出れば暮らしが楽になるのではと言う期待から熱狂していたのだ。
エリザベスの頭に袋が被され、首に縄が掛けられた。
そのまま一気に引き上げられ、縄にかけられていた手は
ダラリと直ぐに下になった。縄は引き下ろす途中で切れてしまい、エリザベスの身体はそのまま国境沿いに運ばれた。
期待は裏切られる物。
高位貴族をはじめ貴族達は次期王妃となるアメリア嬢に
取り入ろうとあらゆる贈り物を贈った。
アメリア嬢は贅沢三昧をし、国民の生活は重くなる税金で
苦しくなるばかり。
又、エリザベスを断罪した高位貴族の子息達は共通のエリザベスという敵がいなくなる事でアメリア嬢争奪戦の対立が激化した。
アメリア嬢はその様子を面白そうに眺めていた。
「おい、見つかったか?」
「いや、どこに姿を眩ませたか分からん。」
「娘を処刑されて怖気ついたか?」
「さてね。革命の神輿でもなってもらおうと思ったんだけどな。そう言えば死体も消えていたんだろう?」
「あぁ、獣の餌にでもなったんじゃないのか?」
「最後まで娘の無罪を訴えていたけどな、死体の引き取り来なかったんだろう?」
「冷たいものだな。」
そう言いながら2人の男の顔には笑いが浮かんでいた。
「まあ、所詮親子共々利用しやすい存在だったんだよ。」
「違いねえ。」
「何でよ!私はヒロインよ!悪役令嬢も処刑にしたのに
悪役令嬢がヒロインの物語でもないじゃない。」
「革命って何よ!自分達だってエリザベスの処刑の時
あんなに喜んでいたじゃない!」
「私達の結婚を喜んでいたじゃない。」
「嫌ー!死にたくない死にたくない。」
「魔女アメリア!聖女と偽り国民を騙した事、誠に許し難し!」
「よって、神の名の元に貴方を断罪し処刑するものである。」
「聖女とか言い出したのは貴方達じゃない!人の所為にしないでよ」
「ええ、自分の行為を人の所為にして相手を貶める方法。
しっかり貴女から学ばせて頂きました。」
「エリザベスに罪を着せていたのは、私も同じですから。」
「貴女には貴女自身の罪と私達の罪も背負って死んで頂きます。」
「魔女アメリアを殺せー!王侯貴族を殺せー!革命バンザイ!」
「エリザベス様の仇、思い知れー」
あれ程エリザベスの処刑の時に熱狂していたのを忘れて
全ての罪をアメリア嬢及び王侯貴族に被せて自分達は
悪くないと言い訳のように叫びを上げて熱狂する民衆。
うねりのように各地に飛び火しあらゆる領土の貴族も
血祭りに上げられた。
逃げ出す貴族、抵抗する貴族と色々いたが最終的には悲惨な結果が訪れた。
そのうねりは近隣の国々に危機感を持たらした。
とりわけ帝国には特に危機感を抱き、そのうねりが
自国の領土に迄及び戦争を仕掛けられては黙っていられなかった。
他の国々も帝国を是とし支援して応戦した。
かつての美しかった王国は、焼け野原になり民衆は
手を出してはいけない相手に手を出してしまった事を
後悔した。
いや、そもそも公爵令嬢が王太子殿下と御結婚していれば
このような事態にはならなかったかもしれない。
しかし貶められた公爵令嬢を嘲笑して娯楽のように
喜んでいたのは国民たる自分達だった。
「なるべくしてなったか。」
優しかった公爵令嬢を裏切ったのは自分達なのだから。
「エリー、お昼の用意が出来たってお父さん達を呼んできてもらえる。」
「分かりました、お母さん!」
「お父さーん、お兄ちゃーん、ご飯よー。」
「おう、分かった。では取引内容はそのように。
ありがとうございました。」
「良い取引が出来ました。こちらこそありがとうございます。良い息子さんと娘さんをお持ちで。」
「ええ、私には勿体ないくらいです。特に娘には苦労をかけましたから、幸せになってもらいたくて。」
「そうですか。親としてそれが1番ですね。」
「はい。」
「では、これで。今後とも宜しく頼みます。」
「はい、こちらこそ。」
見ると娘は息子と楽しそうにしゃべっている。
その首筋から縄の痕もまもなく消えるだろう。
その時こそ私達家族が本当の幸せになる時だ。