パーティーを組みましょう!
「19・・・歳!?」
いやいや、冗談はキツイぞお嬢さん。明らかに12歳前後じゃないか。ランドセルを背負っててもおかしくない。いや、ランドセルを背負うべき年齢に相応の外見をしている。
「はい。私はもう大人です」
えっへん、と胸をそらす少女。ダメだ・・・そんな仕草をされると余計に子供に見えてしまう。
「そうか。それなら好都合だな
「何がですか?」
「大人は実力社会だ。先に部屋に到着していた俺がここを使う」
・・・おじさんはそんな実力社会に押しつぶされていただけなんだけどねっ。
「そうですか。もういいですよ」
部屋を覗いていた少女が勝手に部屋に入る。
「おい、今俺が言った通りに・・・」
「だってこの部屋、誰も使用していませんから。二人で使えますよ」
「え?」
そういえば、まだ部屋の中を確認していなかった。彼女のように部屋の中を確認すると、誰も居ない。そして、物も一切置かれていない。少しばかり埃を被った二段ベッドが二つあるだけである。
「・・・そうだな」
どうやら1人分しか空いていないと頭の中で勝手に想像していたらしい。
「ところで、お名前は何ですか?」
「ん、きた・・・いや、ルヒトだ」
「ルヒトさんですね。私はリア・クラーク・エリー。リアで良いですよ」
名前を変えて良かった・・・。やっぱりこの世界の住民は洋風の名前になっている。
「ルヒトっていう名前、初めて聞きました。どこから来たのですか?」
「・・・遠くだよ」
「そうですか。世界は広いですからね」
謎の理由で納得してもらえた。危ない危ない・・・。
「ちなみに私は隣国のオーランドです」
「へー、そうなんだ」
「・・・驚かないのですか?」
「ん? いや別に?」
そもそも、オーランドって何ですか状態。驚くも何も、知らないことは知らないのである。
「そ、そうなんですか・・・」
「あぁ」
突然黙ってしまったリア。このままだと気まずくなるのは見えているのでいくつか質問をしてみる。隣国の人だけど、異世界から来た俺よりはこの世界のことを理解しているだろう。
「ところで、メイド・・・いや、喫茶店みたいな店を開く方法を知ってるか?」
「・・・店ですか?」
「そうだ。店を開きたい」
「普通なら商工会に届出を出して、貴族に認めてもらうと店を開けますよ」
「そうか。その情報は助かるな」
メイド喫茶。この世界にないことは理解した。だけど、俺が生きている限りは諦めない。そう、この世になければ作ればいいじゃないか。どんな苦労をしても、あの楽園に俺はたどり着く。
「・・・ちなみにお店を開けるのは中流階級者ですからね」
「中流階級者?」
なにそれ。貴族と聞いたところで、何となくこの世界には昔ながらの階級社会と理解していたけど、中流階級者とは何だ? 上流階級者が恐らく貴族だと想像できるから、その下に相当する身分なのか?
「はい、冒険者や農民が貴族から勲章を貰うと中流階級者となります」
「・・・そうなのか」
「知らないんですか? よっぽど遠くから来たのですね・・・・」
「あ、あぁ。そうなんだ。もうクタクタなんだ」
「それはお疲れ様です。あと、何となく年上みたいに感じてしまうのですが、実際は私と歳の差があまりないですよね?」
「そうだな。同じ19歳だ」
さっき書いてもいないのに、ギルドカードには19歳と記されていた。この年齢は恐らく本当だろう。なにせ、俺の記憶の中にある当時の俺の顔と全く一緒なのだから。どんな魔法を使ったのか知らないが、勝手に人の年齢を当てるのはどうかと思う。日本だったらプライバシーの侵害に抵触する案件じゃないだろうか。
「ですよね。でも何だか凄い年上に感じてしまいます。オジサンに擬態できますね」
実際に中身はオジサンだったので、何も否定出来ない。
「それで、中流階級者の話だ。どうやったら勲章とか手にすることが出来るんだ?」
少し不都合の話題だから強引に話の路線を戻す。あと、普通にどうやったら勲章持ちになれるのかを知りたい。
「勲章は継承制です。なので普通は先祖から伝わる勲章で中流階級者になります」
「・・・残念ながら、俺の身内には居ないな」
うん、確かおじいちゃんが大戦中の勲章を持っていた気がするけど、絶対に関係ない。
「ルヒトさんはここ、アンスパッチの方ではないのでそれが当たり前です。なので、中流階級者に上がりたいのでしたら・・・・」
少し申し訳なさそうな顔をして、俺の方を見るリア。
「とてつもない何かをルヒトさん自身が成し遂げるしかないですね・・・。昔は勲章を取りやすかったらしいですけど、今は、少なくとも私が生まれてからの勲章受章者は1年に1人居るかいないかです」
1年に1人。現実が想像を垂直に飛び越えていったな。シビア過ぎるだろ。
「なので、一応諦めた方が・・・」
「諦めない」
絶対に諦めない。俺は意地でもメイド喫茶を建てるんだ!
「見とけよ、リア! 俺は今から凄いことをする男だからな!」
そうだ。可能性は0ではない。ゴールがあるなら歩き続けるだけだろ!
・・・思わずベッドのふちから立ち上がって叫んだけど、リアからは何の反応もない。
クスッ
リアの方を向くと、笑っていた。
「おい、何で笑うんだ!?」
こっちが恥ずかしくなってしまうだろ!
エフンッ! と咳払いをするリア。
「面白い人ですね! 私、ルヒトさんについて行きますよ」
「・・・・は?」
「中流階級者になりたいんですよね?」
「あぁ、もちろんだ」
「私も目指します。だから一緒にパーティーを組みましょう」
パーティー? なんで。なんで、俺がこんなロりとパーティーを組まなければならない。
「それとも孤独なソロ活動をずーっとしますか? ちなみに私は”使える”人ですよ」
そう言ってギルドカードを取り出し、俺に見せるリア。
ステータスはランク1のくせに全てがB以上。
「先ほど登録した時に受付嬢さんに驚かれました。一応、凄いらしいですよ」
「・・・分かった。パーティーを組もう」
そんなことで、何をするのかも分からないのにパーティーを組んだ。え、本当に何をすれば良いんだ?